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《 案内人 和久幸太郎 》

第3話 春陽
#土間#古本屋#多目的スペース付賃貸戸建#熱帯魚#上福岡

投稿日:2019年3月7日 更新日:

3月7日(木)午後1時。
埼玉県ふじみ野市にある東武東上線「上福岡」駅の改札口からリュックサックを 背負った男が足早に出てきた。
そのあとをショートカットの女が「ちょっと待ちんしゃい」と言いながら追いかけてくる。
・・・と、黒いスーツとダークブルーのシャツを着た長身の男が目の前にすっと現れ、 リュックサックの男はぶつかる直前に慌てて足を止めた。
ショートカットの女はそれに対応できず、男のリュックサックに顔をぶつけ「痛かぁ」 と声をあげた。

「申し訳ありません、お怪我はないでしょうか?」
「あんた、危なかやなかと!!」

長身の男に向かって文句をつけたあと、女は自分の方言に気づき、

「危ないじゃないですか!」

と言い直した。

「ワクワク不動産さんですか?」

とリュックサックの男・永山伯夫(はくお)が訊ねた。

「はい、ワクワク不動産の和久幸太郎です。奥さん、大丈夫ですか?」
「まあ、何とか」
「図々しか。誰が奥さんだ。俺はお前ば女房にした覚えはなかと」
「何言いよーと。諦めん悪か男や」

ショートカットの女・青木心(こころ)は伯夫の腕に自分の腕を絡めて笑った。

「博多からの長旅、お疲れさまでした」

和久は心にも名刺を差し出し、ねぎらった。

「私たち、日帰りするので、早く案内してもらえますか?」

名刺を受け取るや、心はそう言って和久を急かした。

「あ、それは大変ですね。それじゃさっそく物件に向かいましょう」

和久は笑顔で答え、西口に降りる階段に向かった。
伯夫と心は和久を追い抜かんばかりの勢いでついていく。

「連載デビューおめでとうございます」
「ありがとうございます!!」
「何でお前がお礼ば言うっちゃん」

伯夫が心をたしなめる。

「あんたん喜びはうちん喜びばい」
「そげんこと言うたっちゃ、いつ打ち切りになるかわからん」
「そげん縁起でもなか」

心は豪快に笑いながら伯夫の肩を叩く。

伯夫と心は福岡県博多市の公立高校のマンガ研究会の同級生だった。
卒業後、プロのマンガ家を夢見て励む伯夫と、プロは無理だと断念した心。
フリーターをしながらマンガの投稿を続ける伯夫を、心は大学に通いながらアシスタントを務めフォローしてきた。
23才の時、伯夫は東京の大手出版社が主催する新人漫画賞を受賞。
それから2年。ついに少年マンガ誌の連載が決まり、上京することになったのだ。

「伯夫はひとりで行くって言ってきかないんです。ひとりじゃ何もできんくせに・・・」

和久にそう話すところをみると、一緒に上京するかどうかはまだ決まっていないらしい。

「お前が勝手にやるけん、自分でやるチャンスがなかだけや」
「またそげんこと言うて逃げようとする」

ふたりのやりとりを微笑ましく感じながら、和久は西口のロータリーを出て説明する。

「今日ご案内する物件は、目の前にあるスーパー、ヤオコーを抜けたらすぐです」
「待ち合わせ駅が上福岡ってメールを見て、東京の福岡は『上』付きかと!思いました」
「ここは東京やなか。埼玉ばい」

はしゃぐように言う心を伯夫が諭す。

「出版社の最寄り駅である東京メトロ有楽町線『護国寺』駅までは1本で行けますよ」
「それはいいですね!!」
「護国寺に行くんな俺やけん、お前は関係なかやろう」
「上福岡は東口にも東武ストアや西友というスーパーがあるし、商店街も頑張っているから、物価が安いですよ」
「それは助かります!!」
「助かるって、お前は関係なかやろう」
「まだそげんこと言いよー。たいがい観念しんしゃい」
「知るか」

伯夫はそっぽを向いたが、心はまた伯夫の腕を絡ませて歩き始めた。
和久の視線を気にして、伯夫はその腕を振りほどいたが、心は「気にせんでよか」と言い、また腕を組み、和久に向かって

「それよりも東京の不動産屋さんは、お客の趣味なんて聞くんですねぇ」

と訊ねた。

「東京の不動産屋で趣味を聞くのはウチくらいだと思います」

和久は苦笑しながら答えた。

「おふたりの共通の趣味は熱帯魚を飼育することでしたね」
「熱帯魚がとりもった縁なんです!!」

そう言って心は強く伯夫の腕を引き寄せた。
バランスを崩した伯夫は思わず転びそうになる。

「伯夫の家にもうちにも水槽がいくつもあるんですけど、こちらに持ってくるわけにはいかないので、魚たちとはお別れなんですよ・・・」

心が寂しそうにつぶやく。

「やけん、お前は博多に残って、俺ん魚たちも一緒に面倒見ててくれたらよかばい」
「ばってん、うちゃ魚より伯夫ちゃんのほうが好きなんやもん。
 しようがなかやなか」

話をしながら6分ほど歩くうちにシャッターの下りた木造の店舗まで来て和久は

「こちらがご紹介したい物件です」

と手を指した。

「えっ?こりゃお店やなかと?」

ふたりはかなり驚いた様子で、物件を見つめる。

「シャッターを上げて表から入ってもいいのですが、今日は裏の勝手口から入りましょう」

和久は気にするふうでもなく、建物の外を回って歩き出した。
ふたりとも慌てて和久のあとをついていく。

勝手口の扉を開け、和久はふたりに中に入るよう促す。

「はあ。扉ばあけたらすぐに洗面台なんやなあ」

靴を脱ぎながら、心はそうつぶやいた。

「勝手口ですからね」

和久はそう説明し、ふたりにスリッパを勧めた。

「その奥はトイレ兼用の脱衣場になっていて、さらに奥には浴室があります」
「こっちはもっとお洒落なイメージだったのだけど、こういう昔ながらのお風呂もまだあるんですね。
お風呂も一緒に入るにはちょっと狭いかなあ・・・」

伯夫の顔をのぞきこむようにして心が言った。

「誰が一緒に入るか」

伯夫がいかにも照れ臭そうに言うので、和久はクスっと笑った。
自分が笑われたことに伯夫は気づき、

「こっちは何ですか?」

と話をそらし、洗面台前にある引き戸を開けようとした。

「すみません。そちらをご覧いただく前に2階にあがっていただけますか?」

和久は引き戸を手で止め、階段を手で指した。

「何や、もったいぶって・・・」 

とぶつくさ言いつつ、伯夫は素直に階段を登る。
心が後からついていく。

「わあっ。こりゃ広かばい!!」

2階に上がるや、心が嬉しそうに言った。

「2階は11畳大のLDKと5畳大の洋室から成ります。こちらがLDKです」
「大きなキッチンですねぇ・・・」
「心さんは料理がお得意ですか?」
「ふたりとも実家に住んでたので、今修行中なんです」
「俺ば手料理ん実験台にしなさんな。上達してからこっちに来たらよかばい」
「本当に伯夫ちゃんはあきらめが悪か」
「お前にいたらん苦労ばさせとねえっちゃ」
「苦労なんかやなかばい」

心は少しふくれる。
伯夫はまたプイと横を向く。

「奥にも洋室があります」

 その場の空気を変えるような調子で和久が案内を続ける。

「こちらの洋室は二面採光になっていて、とても明るい部屋です」
「ここは寝室かな」
「そりゃよかばってん、俺はどこで漫画ば書くったい?」

部屋中を見回しながら伯夫は疑問を呈した。
「俺はこっちに遊びにくるわけじゃないぞ」と伯夫の顔に書いてある。

「先ほどご覧いただかなかった1階のスペースはどうかと考えています」

和久は伯夫にそう答え、階段を下りていく。
ふたりは黙って和久のあとをついていこうとすると、

「ちょっとここで待っててください」

と和久はそれを制し、ひとりで1階へ向かう。
ふたりがLDKの収納などを無言で見ていると、階下からガラガラッという大きな音がする。

「いいですよ。どうぞ1階へお越しください」

と和久が大きな声で呼んだ。

階段を下りると先ほど閉まっていた引き戸が開いており、明るい陽射しが射し込んでいる。

「ほぉ~っ!」

開いた扉から和久の声のするほうへ入ったふたりは同時に感嘆の声をあげた。
がらんとした土間が目の前に広がっている。
勝手口にあった靴が土間の足踏み場に揃えておいてあり、ふたりはそれを履いて、土間に下りていく。

「ここは何ですか?」
「こちらは多目的スペース、何をしてもいい自由な空間です」
「何をしてもいい自由な空間って何ですか???」

伯夫が早口で質問を続ける。
心はただ茫然とこの空間を眺めている。

「ペットを飼ってもいいですし、オートバイや自転車を保管してもいいですし、自分たちでDIYでリノベーションして部屋をつくってしまってもいい空間という意味です」
「はぁ~っ・・・」

今度は伯夫がポカンと口を開けて、多目的スペースを歩き回る。

「私はここを伯夫さんの仕事場にしたらどうかと思っているんです。
 予算に余裕があるのなら、ここにフローリングなどをふたりで張ってしまうのもいいですし、カーペットタイルを敷くのもいいですし・・・」

「ちょっと待って!!」

しばらく黙っていた心がふたりの話に割って入ってきた。

「和久さん、ここは水を流してもいいのかしら?」

和久は「我が意を得たり」とばかり満面の笑みを浮かべ、

「はい、もちろんです」  

と即答する。

「伯夫ちゃん、ここん水槽ば並べて、博多から魚たちばつれてこようや!」

伯夫の顔がハッとなる。

「土間やったら水槽ん水ばこぼしてしもうたっちゃ大丈夫やろう。
 ここはエアコンも換気扇もあるけん、魚ば飼うには絶好ばい」

心はもう自分の思い付きに夢中だ。

「そりゃよかね!」

伯夫の声も思わずはしゃぐ。

「和久さん、石油ストーブは置いてもいいですか?」
「はい。大家さんからはOKをもらってます。
 土間だと床が冷えますからね。ここでお仕事をするなら温かくしないとダメでしょう」

伯夫も心も本当は熱帯魚たちと離れたくなかったから、こんな絶好の物件はない。
壁の周囲に棚をめぐらし、水槽をずらりと並べ、そこでマンガを画く風景が思い浮かんだ。

「おふたりにもうひとつお伝えしたいことがあります」

自分たちの新しい暮らしに夢を広げつつあるふたりに和久が告げる。

「ここは以前、古本屋さんだったんです。その証拠に・・・」

そう言ってふたりを外に連れ出した。

「こちらをご覧ください。ここは昔、古本屋だった名残りです。
 ここにマンガがズラリと並んでいたそうです」

それを聞いた伯夫の顔が明るく輝いた。

「和久さん!僕は子どもの頃、古本屋が大好きで、そこでマンガを読み漁ったのが、僕の原点なんです」
「そうでしたか」
「いつか自分のマンガも古本屋にたくさん並べてもらえるようになって、それを子どもたちが楽しそうに読んでるのを見るのが僕の夢なんですよ!」
「伯夫ちゃん、そげん話、初めて聞いたわ」
「男には秘密も必要ばい」

そう言って伯夫は大きく笑った。

「ここは上福岡や。福岡より『上』ばいくにはぴったりん街や。
 ね、伯夫ちゃん、うちもここで一緒に暮らしたっちゃよかやろう?」
「よかばい。お前はここで魚ん面倒ば見ていろ。
 便利に使うてやるばい」
「嬉しか!!」

心は伯夫に抱きつき、頬にキスの嵐を浴びせた。
伯夫は堂々とそれを受け止める。
和久はひとり照れて顔をそむける。
陽射しがやわらかく3人を照らした。
春はもうそこまで来ている。

物件情報

  • 物件コード:ワク賃002
  • 住   所:埼玉県ふじみ野市西1丁目
  • 構   造:木造2階建
  • 築 年 月:1969年4月築
  • 専 有 面 積 :62.77㎡(1F 31.21㎡ 2F 31.56㎡)
  • 間 取 り:1SLDK ※Sは1Fの多目的スペース
  • 設   備:シャッターキー、表口ディンプルキー、裏口ディンプルキー、TVモニタホン、キッチン(W2600)、浴室、トイレ、独立洗面台、室内洗濯機置場、クローゼット(4か所)、吊戸棚(3か所)、エアコン(3台)、室内照明、雨戸、物置

募集条件

  • 現在、満室稼働中ですが、家賃は7万円前後です。
  • 敷金1カ月、礼金1カ月、原則保証会社利用、火災保険にもご加入いただいています。
  • その他初期費用としては、仲介手数料、鍵交換代がかかります。
  • それとこの物件は2年間の定期借家契約にしています。趣味を自由に楽しむあまり、近隣の方に迷惑をかけても平気になられては困るので、その防止策です。問題がなければ再契約させていただいています。
  • その他、ペット可、楽器演奏不可となっています。
  • 「空いたら一度見てみたい!」という方は
    「お問合せ」を利用してご登録ください。
    空室が出た場合と、類似のワクワク賃貸®物件ができたときのみ、ご連絡いたします。

企画・構成:武田直樹
編集:久保田大介

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  • この記事を書いた人

武田 直樹

フリーランスの脚本家・演出家・演技講師 主な作品に、ちびまる子ちゃんミュージカルの脚本・演出(全国・上海・北京・香港・深圳・蘇州・広州・台湾・マカオほか)、ケロロ軍曹ミュージカルの脚本・演出(全国)、愛・地球博閉幕1周年記念ミュージカル「あした」作・演出(名古屋)、EXPOマスコットミュージカル「mañana」作・演出(サラゴサ万博)、デジタルサイネージミュージカル「ココロのまほう」作・演出・総監督(上海万博)など。著書に「お値うち!ぜーたく地球旅」(三一書房)がある。 18才の間借生活から、51才の現在のファミリーマンション住まいまで、賃貸生活歴33年。まだまだ続きそう。

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