《 案内人 和久幸太郎 》

第4話 相照
#大学教授の家#屋根裏部屋#サンルーム#パントリー#グルニエ#野方

更新日:

12月14日(土)午前11時。快晴。
西武新宿線「野方」駅ホームに「西武新宿」行きの電車が到着し、
間もなくして1組の男女が改札から出てきた。
すかさず黒いコートにスーツ、スカイブルーのYシャツを着た長身の男が近づき、ふたりに声をかける。

「高橋さんでしょうか?」
「あ、和久さんですね」
「はい。ワクワク不動産の和久幸太郎です」

和久は夫・高橋一輝に名刺を渡した。
一輝も和久に自分の名刺を差し出す。

「ご丁寧にありがとうございます。高橋さんは大学講師でいらっしゃいましたね」

受け取った名刺を見ながら和久がそう言うと、隣にいた妻・育実が、

「和久さんが電話で《大学教授が住んでいた家》をご紹介してくださると言われたので、楽しみにしてきました。すごい家なんでしょうね!」

と言って笑みを見せた。

「はい。大学教授がお建てになった賃貸マンションで、最上階をご自身で使っておられましたが、数年前にお亡くなりになりました。相続されたお子さんたちが売却に出されて、購入した今のオーナーがリノベーションされたんです。さっそくご案内しますね」

和久が北口の階段に向かって歩き出し、高橋夫妻もそのあとをついていった。
階段を下りながら、和久はふたりに話しかけた。

「ご主人の趣味は『プラモデル』、奥様の趣味は『読書』でしたね」
「僕らふたりともインドア派の人間でして・・・」
「そうそう、電話で趣味を聞かれたときから気になっていたんですけど、私たちの趣味がお部屋探しと関係するのですか?」
「はい。私ははじめにお客様の趣味や好きなことなどを伺って、お客様にとって最適のお部屋は何だろうかと考えるようにしてるんです」

少しはにかみながら和久は説明した。

「そういう考え方、私はけっこう好きです」

育実が弾けるような笑顔で和久を肯定した。

「うん、僕も嫌いじゃないな。和久さん、僕たちの部屋探しに役立つことなら、何でも訊いてください」
「ありがとうございます」

「物件が野方というのも私、気に入ってるんです。私の勤務先までとても近いから」

今年30才になる育実は上井草のアニメ制作会社で著作権管理の仕事をしていた。

「上井草までは5駅12分です。ご主人の大学がある高田馬場までは5駅10分、
終点の西武新宿までは6駅14分で行けます」
「この大通りは環七ですか?」

広い道路を渡る陸橋を歩きながら一輝が訊ねた。
冷たい風を行きかう車が運んでくるようだ。

「はい。すぐそこにあるバス停から中野行、高円寺行きのバスもたくさん出ています」
「中野にはプラモデルを買いによく行くから便利だね」

自分のプラモデル好きを知ってもらえている気楽さからか、一輝は抵抗なくプラモデルの話ができることを心地よく感じた。
陸橋を渡って住宅街を2分ほど歩いたところで和久は立ち止まった。

「ここが本日ご案内するマンションです」
「環七からちょっと入るだけで、すごい静かなのね」
「うん、確かに静かだ。それに僕ら、来る途中、一度も信号待ちをしなかったよ」
「おふたりともすごい観察力ですね。おっしゃる通りで、私はそのふたつともこの物件のセールスポイントだと思っているんです」

オートロックの扉を開ける前に、和久は間取図を一輝に手渡した。

「大学教授が住んでいた100㎡超の部屋を現オーナーがリノベーションして、2つに分けました。これからご覧いただくのは、そのうちの1室です」
「50㎡でも今の僕らには手ごろな広さですよ」

エントランスに入るとすぐ真っ赤な扉のエレベータが目に入った。

「3階建てなのにエレベータがあるんですね」

育実が少し不思議そうに感想を漏らす。

「ご自宅が3階にあったので、教授がご自分のためにつくられたのだと思います」
「さすが教授! でも私たちに子どもができたら、ベビーカーとか持って3階まで登るの大変そうだから、ありがたいわ」
「子どもがいないうちだって、荷物がいっぱいあるときは便利だよ」
「せっかくなのでエレベータで3階まで上がりましょう」
「ふふ。ちょっとぜいたくな感じね」

育実が嬉しそうに言うのを一輝が微笑みながら聞いている。

エレベータを下りて左に曲がり、突き当りの部屋の玄関扉を和久が開ける。
玄関はまだ電気をつけていないのになぜかとても明るい。

「おお、広い玄関だなぁ」
「ゆとりがあって、ここもちょっとぜいたくね」
「でも、何でこんなに明るいんだ?」

一輝の言葉を聞いて、和久が天井を手で指した。

見上げるとシューズボックスの上から光が射し込んでいるのに気付いた。

「ああ、天井がトップライトになってるのか」
「そうです。だから照明をつけなくてもこんなに明るいです」
「さすが教授の家は一味違うわ!」

育実は本当に嬉しそうだ。

「玄関にはシューズボックスのほかにクローゼットがあります」
「コートがかけられるし、掃除機も置けるわね」
「僕のプラモデルも少し置けそうだぞ」
「ここはダメよ。気を許すとすぐプラモデルでいっぱいにしちゃうんだから」
「仕方がないよ。つくったものは捨てるわけにいかないし・・・」

ふたりのやりとりを和久がにこにこしながら静かに聞いている。
和久の存在を思い出し、ふたりは恥ずかしそうにうつむいた。

「次はサンルームをご案内しますね」

和久はさっと話題を変えて、ふたりをサンルームに案内した。

「おお、明るいなぁ!」
「開放感があるわね!」
「リビングダイニングとつながっているサンルームは約4畳の広さがあります」
「三方の壁面に窓があるのね。天井もガラスで覆われてるから、こんなに明るいのかあ」
「太陽が真上に上がると天井から光が射し込んできます」
「きっと冬でもとても暖かいわね」

和久が三方の窓を開け放った。

「おっ、冷たいけど気持ちいい風だなあ」
「窓を開ければ、このように心地よい風が吹き抜けていきます」
「床はウッドデッキなのね」
「ここにテーブルと椅子を並べてお茶をしてもいいですし、観葉植物や花をいっぱい育ててガーデニングを楽しんでもいいです」
「ローズティーを飲みながら読書。。。うっとりしちゃうな」
「プラモデルをつくるのにもよさそうだ」
「そうね、プラモデルの塗装をここでやってくれたら、臭いがこもらなくていいわ」
「彼女、寝室やリビングでやると臭いがキツイって嫌がるんですよ」
「なるほど。では次に、キッチンをご案内しましょう」

「キッチンはカウンター式になっているのね!」
「育実はずっとカウンターキッチンに憧れてたから、念願がかなうね」
「うん!うん!」

「キッチンの奥もご覧いただけますか?」

和久が手を指した先のコーナーには棚が多数取り付けられていた。

「あれ、この棚は何だろう?」
「あなたは家事をしないからわからないのよ。これはパントリーって言うの。
買ってきた食材をたくさん並べておくと、料理するときとても便利なのよ。
和久さん、そうですよね?」
「おっしゃる通りです」
「な~んだ、プラモデルを並べる棚かと思った」
「もう!あなたはそればっかり!」

どうやら一輝はプラモデルを置く場所に一番関心があるらしい。

「プラモデルを置くかどうかは別にして、ここはガチャ柱になっているので棚の高さも自由にアレンジできます」
「う~ん、ますますプラモデルを並べたくなる・・・」
「もう、あなたは意地悪ばかり言うんだから!」

ふくれる育実の顔を見て、一輝が声を出して笑う。

「カウンターキッチンの正面にサンルームがあります」
「ダイニングスペースは広くないけど、サンルームとつながっていると開放感があるね」
「右側がサンルームの出入口、左側はバルコニーの出入口です」
「明るくてホント素敵!」

「次はリビングルームをご覧ください」

先ほど素通りしたリビングルームを改めて眺める。

「リビングも二面採光になっています。こちらからもバルコニーに出られます」

「和久さん、僕は不動産のことをよく知っているわけじゃないけど、これだけ明るい家というのも珍しいんじゃないかな?」
「確かにそうだと思います」
「明るいだけじゃなくて、暖かそう!」

ふたりともすっかりこの部屋が気に入った様子だ。

「次は寝室をご案内しましょう」

和久と高橋夫妻は北側の洋室に入った。

「この部屋も二面採光になっていて、バルコニーもあります」
「お客様が来たときは、洗濯物をこちらに干しておけるわね!」

「寝室の収納には枕棚とハンガーパイプがついています」
「広いし、使い勝手もよさそうね!」
「生活する方からすると嬉しいですよね」
「ええ、とても」
「枕棚にはプラモデルが並べられるな」
「並べません!」
「なあ、育実。さっきから全否定してるけど、だったら僕のプラモデルはいったいどこに並べたらいいんだ?」

先ほどまでは冗談っぽく話していた一輝だが、少し不安を覚え始めたようだ。
しかし和久は気にせず、パウダールームの案内を始める。

「こちらは洗面台、トイレ、洗濯機置場、脱衣場が兼ねられた空間となっています」
「何だかここも明るいなあ・・・」

一輝のつぶやきを聞いた和久が天井を手で指す。
見上げると、そこにもトップライトがついている。

「ああ、ここもトップライトになっているのか。ハイグレードだなあ」
「教授はよほどトップライトがお好きだったのね」
「トップライトつくるのってお金がかかりそうだからな。こだわりがないとそこまでできないと思うよ」
「ホント、明るくていいわ!」

「お風呂はもちろん追い焚き機能がついています」
「主人は帰りが不規則だから、追い焚きは絶対条件なんです。この点もクリアだわ」
「うん、それはそうなんだけど・・・」

一輝は育実が気に入ったことがわかっているので、申し訳なさそうに言う。

「やっぱり僕にはプラモデルや本を置くスペースがもう少し必要だよ。
ここは大学教授の家で縁起もいいし、明るくて素敵な部屋だけど、もうちょっとほかも探してみないか?」
「う~ん、そうね・・・。私も本をいっぱい持ってるから収納に困るのは確かね。
でも、もったいないなあ。ここすごく気に入ったんだけどな…」

ふたりの会話をじっと聴いていた和久が間取図を1枚ふたりに差し出した。

「実はこの家にはもうひとつ秘密の部屋があるんです」
「Grenier? あ、グルニエか!」
「グルニエって?」
「屋根裏部屋だよ」
「ちょっとこちらにお越しいただけますか?」

ふたりがリビングルームに行くと、先ほどまではなかったハシゴが下りていた。

「どうぞ上がってみてください」

和久が笑顔でふたりを促す。

一輝が先にハシゴを上る。

「おおっ!!」

上に着いた一輝が大きな声をあげるのを聞いて、育実も急いで上る。
ハシゴを上った先には、グルニエ=屋根裏部屋があった。

「きゃあっ、これはすごいわ!」

育実も悲鳴に近い声を出す。
屋根裏部屋は約5~6畳ほどの広さがあり、四方は棚で囲まれていた。

「これだけ広ければふたりの本もプラモデルも全部並べることができるよ!」
「以前はここに教授の本がびっしり並べられ、書庫として使われていたそうです」
「さすが教授!」
「天井は低いので立って歩くことはできませんが書庫としては十分でしょう?」
「圧迫感があるのがまたいいのよ。隠れ家って感じでワクワクするわ」
「ここはホントすごいな。明るいサンルームと暗いグルニエの対照がとても好きだよ。お互い相手を引き立て合っている感じがすごくいい!」

未来の大学教授と教授夫人のテンションはどうやらマックスに達したようだ。
ふたりがこのスペースのどこを自分のテリトリーとするか話し始めたのを聞いて、和久は静かにハシゴを下りた。
屋根裏部屋の薄暗さに慣れた目に、階下の明るさは痛いほどだ。

物件情報

  • 物件コード:ワク賃016
  • 住   所:東京都中野区野方4丁目
  • 構   造:鉄筋コンクリート造4階建
  • 築 年 月:1991年4月
  • 専 有 面 積 :51.42㎡
  • 間 取 り:1LDK(ほかにサンルームとグルニエあり)
  • 共 用 部:オートロック、エレベータ、メールボックス、宅配ボックス、駐車場(有料)、駐輪スペース(無料)、バイク置場(有料)CATV(別途契約)
  • 専 有 部:TVモニタ付インターホン、バス・トイレ別、 バスルーム(1216サイズ/追い焚き機能)、シャワートイレ、 システムキッチン(W1800/3口ガスコンロ・グリル付)、 室内洗濯機置場、独立洗面台、エアコン(2台)、フローリング、 サンルーム、グルニエ、パントリー

募集条件

  • 賃料・共益費合計額は13万円台前半です。
  • 敷金・礼金は1ヵ月ずつ。ほかに火災保険料、仲介手数料などがかかります。
  • ペット不可、楽器演奏不可となっています。
  • 「空いたら一度見てみたい!」という方は
    「お問合せ」を利用してご登録ください。
    空室が出た場合と、類似のワクワク賃貸®物件ができたときのみ、ご連絡いたします。

企画・構成:武田直樹
編集:久保田大介

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  • この記事を書いた人

武田 直樹

フリーランスの脚本家・演出家・演技講師 主な作品に、ちびまる子ちゃんミュージカルの脚本・演出(全国・上海・北京・香港・深圳・蘇州・広州・台湾・マカオほか)、ケロロ軍曹ミュージカルの脚本・演出(全国)、愛・地球博閉幕1周年記念ミュージカル「あした」作・演出(名古屋)、EXPOマスコットミュージカル「mañana」作・演出(サラゴサ万博)、デジタルサイネージミュージカル「ココロのまほう」作・演出・総監督(上海万博)など。著書に「お値うち!ぜーたく地球旅」(三一書房)がある。 18才の間借生活から、51才の現在のファミリーマンション住まいまで、賃貸生活歴33年。まだまだ続きそう。

-案内人 和久幸太郎

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