《 ワクワク賃貸物件集 案内人 和久幸太郎 》

第2話 蒼空
#スカイテラス#フリールーム#ペット飼育大歓迎#川崎

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5月20日(日)。JR川崎駅中央北改札。
たくさんの乗降客に押し出されるようにして、小さなカゴを抱えた男とゲージを持った女が改札口から出てきた。
黒いスーツ、スカイブルーのシャツを身にまとった長身の男がふたりにすっと近づき、声をかける。

「木村さんですか?」
「あ、ワクワク不動産さんですね」
「はい、ワクワク不動産の和久幸太郎です」

和久は木村夫妻に名刺を差し出した。
もらった名刺を見たふたりは顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

「まさか和久さんだからワクワク不動産だなんてベタな話じゃないですよね?」
「こら、失礼じゃないか!」
「いえ、すみません。ベタなネーミングで・・・」
「ほ~ら、やっぱり! すぐわかっちゃいまちゅよね?」

妻は手持ちのゲージに向かって話しかける。
和久がかがんでゲージの中を見ると、小犬が

「ワン!」

と小さく吠えた。

「はじめまして、和久です」

和久はゲージに向かって丁重に挨拶をする。

「ワン!ワン!」

中の小犬も和久に挨拶を返したようだ。

「<お兄ちゃん>です、よろしく~」

妻が笑いながら通訳する。

「こちらは?」

和久は夫に訊ねると、

「僕が飼っているネコです。<お姉ちゃん>と言います」

と夫ははにかみながら答えた。

「<お兄ちゃん>、<お姉ちゃん>という名前なのですか? 変わってますね」

真顔で質問する和久に、

「ワクワク不動産の和久のほうがよっぽど変わってると思うけど」

と妻が切り返す。
夫がまたそれをすかさずたしなめる。
夫の名は木村一道(かずみち)。
妻は亮子(りょうこ)。
学生時代からの付き合いだというふたりは年齢も同じく47歳だ。
おとなしく理知的な印象の夫と、明るくはきはきした様子の妻は、どうやら性格は正反対のようだが、上手にバランスがとれているように見受けれられる。

「ご主人は料理とガーデニング、奥様はショッピングがご趣味だと伺いました。
 そして今回は<お兄ちゃん>、<お姉ちゃん>と一緒に暮らせるお部屋をお探しということでしたね」
「ええ、そうなんだけど、なぜ趣味なんか確認するの? 
 変わってるわね」
「すみません。私のお部屋探しには重要な要素でして・・・」
「こら、亮子、そんなこといいじゃないか。
 とにかく僕ら、犬と猫を同時に飼えるお部屋がなかなかなくて苦労してるんです」

亮子の突っ込みを止めるようにして一道が間に入った。

「大丈夫です。
 おふたりと<お兄ちゃん><お姉ちゃん>が楽しく暮らせる家を探しましたので、さっそくご案内しますね」

そう言って和久はこれから向かう方角を手のひらで示し、ゆっくりと歩き出した。

木村夫妻は先月まで同居していたひとり息子の祐介(ゲージもカゴも必要としない)が関西の企業に就職し、家を出たのを機に、引っ越しを考えていた。
これまでは川崎市の郊外に広い一軒家を借りて住んでいたが、どうせ引っ越すなら思いっきり賑やかなところで暮らしてみたいと亮子が言い出し、これまで通り静かな暮らしを望んでいた一道を押し切ったらしい。

「川崎駅の物件に引っ越したいというのは奥様のご希望でしたね」

DICEの前を通りながら和久が亮子に訊ねる。

「そうよ。百貨店、ショッピングモール、レストラン、映画館、競馬場と川崎には何でも揃っているでしょ? 
 昔からよく遊びに来てたんだけど、電車に乗らずにふらっと散歩感覚で毎日遊べたら、どんなに楽しいかと思って」
「そんな恐ろしいことを・・・。
 こういう街は遊びに来るところで住むところじゃないよ」
「ま~だそんなこと言ってる。
 あなたは通勤が楽になるんだから一石二鳥でしょ!」

亮子がピシャリと言うと一道は静かに黙る。

「ご主人は品川駅の電機メーカーにお勤めでしたね」
「はい、川崎は確かに東海道本線で10分で行けるから、便利と言えば便利なんです。
 でもそんな便利じゃなくても、僕は静かなところがいいんですけどね」
「あなたもしつこいわねぇ。
 ホント、困ったパパちゃんでちゅね」

亮子はそう言って<お兄ちゃん>を味方につける。

「<お姉ちゃん>だって静かなほうがいいよね」

一道は<お姉ちゃん>を味方につける。

「2対2で真っ向対立なのに、よく話がまとまりましたね」
「はい。息子の祐介が私の味方をしてくれたんです!」

亮子は誇らしげにVサインをしてみせる。

「<お姉ちゃん>の下に<妹>を飼わないと、僕はいつだって多数決で負ける・・・」
「あら、そしたら私は<弟>を飼うわよ」
「ほら、もう。ああ言えばこう言う・・・」

一道のぼやきに和久は思わず声を出して笑ってしまった。
そんな話をしながら大通りから区役所の脇を入ると、案内する物件に着いてしまった。

「こちらが本日ご覧いただく物件です」
「あら。しゃべってるとあっという間ね。
 私たちどれぐらい歩いたのかしら?」
「13分25秒だ。
 しゃべらずスタスタ歩いたらおそらく10分というところだろう」

腕時計を見ながら一道が答える。

「いまはJRの駅から歩きましたが、京急線の京急川崎駅も利用できまして、そこからですと7分です」

冷静に時間を計っていた一道に少し驚きながら和久が説明する。

「3階建てなのね」

建物を見上げながら亮子が嬉しそうに言った。

「はい。3階建てプラスαという構造です」
「は? プラスαって何ですか?」

こまかな言葉を聞き逃さず、一道が訊ねるが、和久は構わず、

「それはあとのお楽しみということで、さっそく中に入りましょう」

と言って夫妻に1階の間取図を手渡した。

「あら、フリールームって何かしら?」

今度は亮子が和久に訊ねる。
和久は答える代わりに玄関扉を開けた。

「こちらがフリールームです」
「フリールームって何するところ?」
「何でもやっていいと意味に決まってるじゃないか」
「何でもやっていいって言ったって、イメージが湧かないわ」

戸惑う亮子に、和久は丁寧に説明する。

「フロアタイルの上にシートを張って自転車を保管してもよろしいですし、
 リビングルームにしてもいいですし、木村さんご夫婦の場合は・・・」

そう言って和久は亮子のゲージを覗き込む。

「あっ、<お兄ちゃん>の部屋にしてもいいっていうわけね!」
「ご明察」
「<お姉ちゃん>の部屋にしてもいいわけだ」
「はい、その通りです。
 ワンちゃん、ネコちゃんの“子供部屋”にしてしまってもいいでしょうね」

夫妻は顔を見合わせ微笑んだ。
どうやら犬と猫を同時に飼えるというのは本当のようだ。

「1階にはほかに、浴室とパウダールームがあります。
 <お兄ちゃん>が散歩から帰ってきたあと、すぐに足を洗ってあげられますよ。」
「それは嬉しいでちゅねぇ」

<お兄ちゃん>に話しかける妻の声が弾む。

「つづいて2階に上がりましょう」

そう言って和久は2階の間取図をふたりに手渡した。
どうやら1フロアずつ分けて渡すつもりらしい。

「2階はダイニング・キッチンです」
「ああ、これはずいぶん広いキッチンですね」

今度は一道の声が静かに弾んだ。

「はい、ワイド2550mmという大型サイズです。
 これだけの広さがあったら、ご夫婦一緒に並んで料理することができます」
「あら、私はいいわ。私は食べる専門」

即座に否定してみせる亮子を一道が楽しそうに見つめる。

「そう、料理は僕の担当なんです。 
 妻はお湯を沸かすぐらいしか使わない」
「お仕事の日も料理をされるのですか?」
「そうですよ。でも遅くなると、すぐ外に食べに行っちゃう」

一道の言葉に亮子は小さく舌を出す。
本当に面白い女性だ。

「ご主人の作った料理は、このダイニングスペースで食べてもいいですし、1階のフリールームで食べてもいいですし、上のαで食べてもよいと思います」
「さっきから言ってるαって何ですか?」
「あとでご説明します」

「さ、次は3階に上がりましょう」

和久は3階の間取図を手渡し、らせん階段を登っていった。

「3階は寝室です」
「あら、何だか落ち着く空間ね。
 広さもこれだけあったら十分だわ。ね、あなた!」

亮子は声が弾みっぱなしだが、一道は少しトーンが落ちてきた。

「う~ん、そうだけど、祐介が帰ってきたら、どこに寝かしてやったらいいんだ?」
「な~に、そうそう帰ってきやしないわよ」

亮子はケロッとそう言ってのける。

「もし帰ってきたら1階のフリールームで寝かせるか、近くにホテルがいっぱいあるから部屋をとってあげたらいいのよ」
「そんなもんかなあ。。。」
「そんなもんよ。いつ帰ってくるかわからない祐介のためにひと部屋余計にとっておくなんてもったいない。 
 買い物するお金がなくなっちゃうじゃないの」

亮子はまったくもってサバサバしている。

ふたりの会話の切れ間をねらって、和久が話に入る。

「こちらにはL字型の枕棚、ハンガーパイプがついているウォークインクローゼットもあります」
「収納はちょっと足りないんじゃないかな? 
 君は服をいっぱい持ってるから…」

どうやら一道は慎重になり、粗さがしを始めた模様だ。

「大丈夫、大丈夫。
 寝室にタンスを置けるし、私たちにはフリールームもついてる」
「何でもかんでもフリールームって…。
 フリールームにだって限界というものがあるよ」

あまりにあっけらかんとしている亮子と慎重な一道。
本当にいいコンビだなと和久は思う。

「だけど、僕はもっと不満があるんだよ」
「もういったい、今度は何? 
 私はもうここに決めたんだから、私があなたを論破してみせるわ」

そう言って息巻く亮子に和久は思わず笑い出す。
亮子が自分の代わりに営業してくれるので、今日はとても楽だ。

「今の家には広い庭があるけど、ここにはないじゃないか。
 僕は料理も好きだけど、ガーデニングも好きなんだ。
 和久さんならわかってくれると思ったんだけどなあ・・・」
「あっ…!」

どうやら亮子もこればかりは「論破」できないらしい。

「そうね。確かにあなたがガーデニングを楽しめないのはダメね。
 私ひとり遊び回ってたら、あなたに申し訳ないし…」
「う~ん、せっかく君が気に入ってるのに、水を差してしまって申し訳ない」

ふたりは押し黙ってしまった。
いよいよ和久の出番が来たようだ。

「それではαに行きましょう」
「α? さっきから言ってるαって何なんですか?」

和久はウォークインクローゼットの横にある階段を差し、ふたりに登るよう勧めた。
今度は間取図を手渡さない。

「気をつけてお上がりください」
「何だか狭い階段だねぇ。。。」
「でも秘密の抜け穴みたいで何かワクワクするわ」

そうして上った先には明るい光を放つ扉がある。

「どうぞ、お開けください」

和久の言葉に促され、木村夫妻が扉を開けると、

ふたりの目には真っ青な空と人工芝の緑が飛び込んできた。

「あら、素敵!」
「ほぉ~、これはいいね!」

ゲージとカゴの中で<お兄ちゃん>と<お姉ちゃん>もワンワン、ニャンニャンと声をあげる。
どうやら「ここから出して」と催促しているようだ。

「<お兄ちゃん>、<お姉ちゃん>が逃げてしまわないのでしたらどうぞ放してあげてください」
「はい!」

そう言って亮子はゲージから<お兄ちゃん>を解放した。
<お兄ちゃん>は喜んで走り回った。
一道も静かにカゴから<お姉ちゃん>を出し、抱き上げて人工芝を歩く。。 
と、<お兄ちゃん>が塔屋の裏側に駆けた。

「<お兄ちゃん>!」

慌てる亮子を和久が制する。

「大丈夫です」

見れば、塔屋の裏側にもスカイテラスは続いている。
<お兄ちゃん>が吠えた。
水道の蛇口があるのを発見したらしい。

「こちらの水道を使えば、プランターを並べて花や野菜を育てていても水やりが楽にできますよ」

蛇口を手で差し、和久は一道にそう話しかける。

「バーベキューは禁じられていますが、キッチンから料理を運んできて、こちらで食べていただくこともできます」
「わぁ~、素敵。ね、あなた、とても素敵よ!」

亮子が一道の肩をバンバンと叩く。

「ああ、これはいい。 
 使ったグラスをここで洗うこともできるね」

「照明がついているので、このスカイテラスは夜も使うことができます」
「ふふ。星空を見上げてビールを飲むのも楽しそう。
 私、飲みに行く回数が減ってしまいそうだわ」

「あ、それはいい! 僕がどんどん料理をつくって運んであげるから、君はここでゆっくり飲んでなさい」

亮子は「しまった!」と言って口を塞いだ。
<お兄ちゃん>も何だか嬉しそうに亮子の周りをグルグル走り回っている。

「人工芝に寝転んで、ここで眠ってしまうなんてのもいいねぇ」

一道は<お姉ちゃん>を抱いたまま、本当にゴロンと寝転んだ。

「もう要らないとは思いますが…」

そう言って和久はαの間取図(?)を寝ている一道に手渡した。

「この物件は、全室にスカイテラスが専用スペースとしてついているんです」
「スカイテラスがαの正体だったんですね」

一道は寝転んだまま図面を受け取り、静かに空を見上げた。
この蒼空は祐介が暮らす街ともつながっているんだ、とふと思った。
祐介が帰省したら、寝袋出してここで一緒に寝るのも楽しそうだな。
一道がそんなことを思っていると、いつの間にか隣りに寝転んでいた亮子が

「祐介もこの空を見上げてボ~っとしてたりするのかなあ」

とつぶやいた。

「そうだな、空をぼんやり眺められるぐらい余裕のある生活を送ってくれてたらいいな」

そうつぶやき返すと、「そうね」と言って亮子は黙って空を見つめ続けた。
和久は<お兄ちゃん>を抱き上げ、そんなふたりの様子を静かに見守っていた。

物件情報

  • 物件コード:ワク賃015
  • 住   所:神奈川県川崎市川崎区宮本町
  • 構   造:木造3階建
  • 築 年 月:2013年8月
  • 専 有 面 積 :54.97㎡
  • 間 取 り:2DK※専有面積:74.93㎡・2LDKのお部屋もあります。
  • 共 用 部 分:オートロック・メールボックス・宅配ボックス・駐輪スペース・防犯カメラ
  • 専 有 部 分:玄関Wロック・TVモニタ付インターホン・バストイレ別・バスルーム(追い焚き機能・浴室乾燥機)・シャワートイレ・システムキッチン(3口ガスコンロ・グリル付)・室内洗濯機置場・独立洗面台(シャンプードレッサー付)・ウォークインクローゼット・エアコン(全室)・フロアタイル・室内照明・インターネット無料

募集条件

  • 賃料・共益費合計額は14万円台なかばから15万円台前半となっています(74.93㎡タイプのお部屋は16万円台)。
  • 敷金・礼金は1ヵ月ずつ(礼金をゼロにして賃料UPするというプランもあります)。
  • ほかに火災保険料、仲介手数料などがかかります。
  • 契約形態は定期借家契約(364日)で再契約は可能です。
  • その他、ペット可、楽器演奏不可となっています。
  • 「空いたら一度見てみたい!」という方は
    「お問合せ」ページを利用してご登録ください。
    空室が出た場合と、類似のワクワク賃貸®物件ができたときのみ、ご連絡いたします。

企画・構成:武田直樹

編集:久保田大介

 

  • この記事を書いた人

武田 直樹

フリーランスの脚本家・演出家・演技講師 主な作品に、ちびまる子ちゃんミュージカルの脚本・演出(全国・上海・北京・香港・深圳・蘇州・広州・台湾・マカオほか)、ケロロ軍曹ミュージカルの脚本・演出(全国)、愛・地球博閉幕1周年記念ミュージカル「あした」作・演出(名古屋)、EXPOマスコットミュージカル「mañana」作・演出(サラゴサ万博)、デジタルサイネージミュージカル「ココロのまほう」作・演出・総監督(上海万博)など。著書に「お値うち!ぜーたく地球旅」(三一書房)がある。 18才の間借生活から、51才の現在のファミリーマンション住まいまで、賃貸生活歴33年。まだまだ続きそう。

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