《 小商い賃貸推進プロジェクト 》Vol.019

小商いもアトリエもなんでも来い! 平屋が並ぶ集落「ハムレット」でやりたいことを実現

投稿日:2026年1月22日 更新日:

[東京情報堂・中川セレクト#004]

京都市に株式会社川端組という変わった名まえの不動産会社があります。経営しているのは「京都一ファンキーな不動産会社」を自称する川端寛之さん。

こんこんの外観。柱と床の間にコンテナが置かれているのがお分かりいただけよう。その奥に見えているのが既存の長屋部分(筆者撮影)

最初にお目にかかったのは細長い、元々は長屋が建っていた土地にある鉄骨の柱と梁、屋根だけの建物「共創自治区SHIKIAMI CONCON(京都市中京区、以下「こんこん」)」の取材。残っていた3軒の長屋を囲むように建てられた鉄骨の骨組の中にコンテナが置かれており、それがコーヒースタンドやアトリエなどとして使われていました。建物は床と壁と屋根で囲われているものと思っていましたが、ここには壁がない。でも、それでも建物は成り立つんですって。びっくりしました。

屋根の迫力といったら。この地で瓦を焼いていらしたご家族が大家さんで、ここで作られた瓦が載せられています(筆者撮影)

本拠地は京都市内ですが、このところ、川端さんは京都市外でもいろいろなプロジェクトを進めています。そのひとつが京都市の隣、亀岡市大井町並河で進められている「A HAMLET(以下ハムレット)」。シェイクスピアのお芝居に出てくる人物のことではなく、「とある集落」という意味だそうです。

線路の反対側から見たハムレット。少し低くなった土地に平屋の住宅が建ち並んでいる(筆者撮影)

「京都」駅から日本海側の天橋立や伊根町などといった観光地に向かうJR山陰本線(嵯峨野線)に乗ると、「亀岡」駅の隣に「並河」という駅がありますが、そこが最寄り。駅に到着する少し手前、車窓右手に見える平屋が集まっている、どこか懐かしい風景の一角、それがハムレット。駅からは歩いて8分ほどです。

川端さんがこの場所に出会ったのはまったくの偶然。たまたま近所で霧霧(キリム。亀岡は盆地で昼夜の寒暖差が大きいことから晩秋から初春にかけては丹波霧と呼ばれる深い霧がかかるエリア。ちょっと幻想的な風景が見られます)という、やはり集落の再生に関わっており、そこで周辺を通りかかって見かけたのだそうです。

その昔はどこにでもあっただろう賃貸住宅群。いまではこうして当初のまま残っているほうが珍しいはずです(筆者撮影)

どのまちも同じ顔になって行ってしまうのが耐えられないという川端さんはそこにしかない景色を見るとたまらなくなってしまうそうで、この時も同様。壁に貼ってあった入居者募集中の看板を参考に大家さん宅を訪ねました。再生は無理としても入居者募集の手伝いだけでもさせてもらえないかと思ったからです。

出てきた女性は「賃貸経営の実務は息子たちに任せてある」と言い、「次の月曜日には来るはずだから用事があるならその時に訪ねてくればよい」と言ってくれました。川端さんはその言葉を頼りに翌週、所有者宅を再訪。この集落の魅力を熱く説きます。

改修前の部屋。襖を外すと大きなワンルームのようになる3K。当然、和室で水回りは至ってコンパクト(筆者撮影)

しかし、この時の所有者ご一族の驚きはどんなだったか。築50~60年ほどの木造平屋で、間取りは和室3室が縦に繋がる、今時の言い方でいえば3K。水回りも小さい。古くても田舎の堂々とした古民家であれば魅力的と言われても納得するでしょうが、ここの住宅は建てられた頃ならいくらでもあったような家です。そんな住宅のどこが魅力的だというのだろう、不思議に思うのは当然でしょう。

しかも、この時点で全30棟の住宅のうち、13棟はすでに空き家になっていました。いずれ解体して建替える計画があったからです。それが魅力的? いきなりやって来て他の誰もが言わないことを言う川端さん。普通だったら不審者に思われそうです。

でも、それでも話を聞いてくれたのはそれまでにたくさん営業の人たちが来ていたからだろうと思います。ばりっとしたスーツを着た営業さんは建物を壊して新しいアパートを建てましょうと営業したはずです。そんな人が何人も、何人も来て、全員が同じことを言う。ご家族は逆に本当にそうなんだろうかと思ったのではないでしょうか。そこにちょっと不思議な風体の人がやってきて誰もが言わなかったことを言い出す。おや、ちょっと聞いてみようか。それで耳を傾けてくれたのでしょう。

「琥珀街」の改修前(写真上)、改修後(写真下)。こうやって改修された建物が増え、いまや琥珀街は賃貸が出ると募集が殺到するほどの人気(写真提供/川端組。)

川端さんはこれまでに自分が手掛けた物件を見学してもらい、古いエリア再生には意味があること、古いからこそ選んでくれる人たちがいること、きちんと収益も上がり、地域も蘇ることなどを説明しました。事例は冒頭でご紹介した「こんこん」、そしてもうひとつ大阪府吹田市南吹田で手掛ける「南吹田琥珀街(以下、琥珀街)」です。

琥珀街の改修後の室内。古さを活かしてシンプルな空間になっています(写真提供/川端組。)

「琥珀街」は「ハムレット」同様、老朽化した2階建て12戸のアパート、20戸ほどの長屋が集まる一画で、川端さんは2017年からこのエリアを3期に分けて再生。現在ではそのうちの15室にオフィスや店舗、サロン、カフェなどが入っており、そろそろ4期目が始まる予定。1室の募集に4件の申し込みがあるなど、始めた頃からすると信じられないほど人気物件になっている事例です(こちらも、そのうち、皆さんにご紹介したいですね)。

そうして1年ほどかけて大家さん家族を説得。川端さんが初めて集落を見かけてから約1年後の2022年から「ハムレット」という集落名をつけて工事が始まりました。最初の計画は半年に2棟ずつ、6期かけて13棟を再生しようというもので、2023年に最初に私が訪れた時には平屋4棟が再生され、すでに利用されていました。

2023年にお邪魔したステーショナリーが並ぶショップ兼ギャラリー店内。床を下げ、押入れを展示空間として使うというアイディア(筆者撮影)

現在の状況はこんな感じ。使い方で印象が大きく変わる空間であることがわかりますね(筆者撮影)

その時の入居者は編集・デザイン関係の事務所、住居兼アトリエとしてお針子さん、食堂、3Dプリンターで作ったステーショナリーが並ぶショップ兼ギャラリーのオーナーさんというラインナップ。3期工事の2棟は入居者募集中でした。

こちらは食堂として利用中でした。近隣に店が少ないので、古くから住んでいる人たちも毎日のように利用していたと聞きます(筆者撮影)

取材時は空室になっており、こんな状況。押入れ部分を小上がり的に使えるようになっています。奥左側がトイレ、洗面(筆者撮影)

ただ、その後、3期目を募集中にそれまでの入居者のうちの3戸がそれぞれの事情から退去することに。現状で入居者がいるのは改修後の1戸とそれまで住んでいた人たち17戸という計算です。

ですが、「これは逆にチャンスだろう」と川端さん。なぜなら空き住戸をアーティストに提供、アーティストインレジデンスが実施するなどでさまざまな人たちに滞在してもらえるようになり、敷地全体を使ってのイベント、講座などを開催しやすくなったためです。

こちらは現在、関係する4社がラジオ放送などで使っている住戸。天井が高く、ロフトも作られています(筆者撮影)

実際、テーマを変えて月に1回、年に2回、毎月一定の日にとさまざまなイベントを開催するなどしており、集まる人の数が増えているのはもちろん、集まる人たちの興味関心の幅も広がり、面白い人たちが集まるようになっているのだとか。情報発信のために空いている1部屋をこれまでプロジェクト関わってきた4社で借上げ、ラジオで情報を発信することも続けています。

さて、そんな「ハムレット」ですが、入居する人にとっての魅力は2つ。ひとつは既存を活かして作られた、ほかにはないであろう空間。2026年1月現在で募集されている部屋でみると床は三和土(たたき)仕上げ。

この土地の土を再利用した三和土仕上げの床。竹小舞はもともと、ここにあったものを土だけ落として利用。水回りは住戸によって作りが多少違います(筆者撮影)

しかも、ここで使われている土はもともとこの土地にあったもの。それが建物の土壁などに使われ、それが解体された後にもう一度、今度は床に使われているというもの。最近、サーキュラーエコノミーという言葉を聞くようになりましたが、ここでの建物作りはこのように材料を循環させながら行われています。

外から見るとこんな感じ。壁がポリカ波板なので、率直なところ、暑いし、寒いはず。窓もシングルガラス。気にする人にはお勧めしません(筆者撮影)

壁は土壁に塗られていた土を落としたもので下地である内側の竹小舞の現し。外壁にはポリカ波板が使われています。天井も既存の梁の現しとラフな造りですから、暑いでしょうし、寒いでしょう。そのあたりを面白がれる人になら挑み甲斐のある物件です。

緑と土、建物が一体になった住戸。庭園デザインをする人がメンバーにいらっしゃり、廃棄すべきものなども含めて上手に活用、無駄のない使い方をしています(筆者撮影)

また、室内に緑を取り込んだ部屋もあります。元々押入れだった部分の床を抜き、そこから植物がこんにちはという形で、これは部屋というか、庭というか。部屋自体がアートです。

住戸入口にもさりげなく植栽が。ガラも上手に踏み石などに利用されています(筆者撮影)

もうひとつの魅力は集落の中に立地していることからご近所に迷惑をかけない範囲ではあるものの、用途としてはほぼ自由に使えるという点。これまでの入居者もかなり多彩でしたが、その方向は変わらないということです。

そのため、申し込み順で入居が決まるわけではなく、地域との相性や何がやりたいのかなどをすり合わせた上でということになります。この場所だったらどんなことができるか、どんなことに向いているか、よく考えてみてください。

改修中の部屋もありました。これからも空いている部屋は順に改装していく予定です(筆者撮影)

広さは各戸で多少違いますが、35㎡前後。賃料は現在募集が出ている14-7という部屋で家賃は52,800円(税込。以下同)、14-11が52,800円、14-9が51,700円といったところ。共益費は2,200円で敷金、礼金はありません。また、現在募集が出ている住戸は2期の2戸と3期の1戸ですが、今後も改修は続けられる予定なので今すぐには難しい人でも頭の隅に入れておいてはどうでしょう。

最後にひとつ、立地について。京都に詳しい人でしたらご存知でしょうが、亀岡市は京都市の隣といいながら、その間には山があり、保津峡下りで有名な保津川がありと物理的にはかなり離れています。

山陰線(嵯峨野線)の駅としては京都の一大観光地である嵐山に立地する「嵯峨嵐山」駅から4駅、15分弱しか離れていませんが、文化圏としてはかなり違います。精神的にも離れているのです。最近では高騰した京都市内を避けて亀岡市で住宅を求める人も増えてはいますが、「ハムレット」は住むこともできなくはないものの、できればそれ以外の機能で活用したい場所。

それを考えると、「ハムレット」に人を呼んでくるにはその人自身の力はもちろん、「ハムレット」という面の力も必要です。今、川端さんが取り組んでいるのはその力を付ける作業。そのあたりを知った上でチャレンジする人がいればぜひ。唯一無二の場所であることは間違いありませんし、川端さんと一緒にこの場所を変えるのは刺激的な取組み。新しい世界を見えるはずです。

文:中川寛子

  • この記事を書いた人

中川 寛子

住まいと街の解説者。不動産、街、空き家や商店街その他暮らしにまつわる原稿を書き続けてきた。極度の怖がりで、不動産を選ぶ時には地震、津波その他自然災害に強い立地、建物であることを最優先する。東京生まれの東京育ちで、郊外でも利便性は気にするタイプ。特に美味しいものが食べられるかどうかは大きな関心事。何の役にも立っていないが宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

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