《 DIY賃貸推進プロジェクト 》Vol.007

実際のDIYで、空間がどんなふうに変わるかを見てみよう!《ペンキ塗り編:後編》

投稿日:2020年2月27日 更新日:

奥深いペンキ塗りの世界を疑似体験しよう!

DIYで行うペンキ塗装について、先月と今月の2回に分けてお話をしています。前回の記事では、なんとまだペンキを塗るところまで到達できませんでした。文章量も「養生8割」の言葉通りになっていますね。
引き続き、日本初のDIYサポート付き賃貸マンション「ワク賃023」で開催された、「大家さんのためのDIYがっこう」でのペンキ塗りの様子をレポートしたいと思います。

ペンキ塗り、養生以外の下準備とは?

この部屋に住む予定のカップルと一緒に、受講者として集まった大家さんや管理会社さんが一緒になってペンキ塗りを学んでいます。講師は「ワク賃023」の101号室にスタジオを構える「クラディ(旧・DIYER’S PARTY)」の石井麻紀子さんです。

石井麻紀子さんは、ホームセンターに勤務したのち現在のお仕事で独立。
一児の母でもあり、女性目線・生活者目線を生かしたDIYが大人気!

前回は養生まで終わりましたが、まだペンキ塗りには入れません。ペンキをきれいに塗るための下地作りの作業があるのです。
つるつるした面にマジックペンで何かを書くときに、きちんと書けなかった経験がある方は多いと思います。あれと同じで、ペンキを塗ってもきちんと塗れず、弾いたり、乾いてから浮いたり剥がれたりすることがあるのです。また、築年数が古い物件では、塗りたい壁やドアや木部に穴や傷があった場合、そこにそのままペンキを塗ってもきちんと塗れません。こういう場合には、どういう下準備が必要なのでしょうか。

パテ埋め、シーラー塗り、はたまたやすり掛け

「大家さんのためのDIYがっこう」の会場となった「ワク賃023」は築39年。どのお部屋も、扉や壁に穴や傷やひび割れがあります。ペンキをきれいに塗るためには、まずこれらを塞いで平らにしなければなりません。使うのは木工用パテで、チューブ状になってホームセンターで売っています。まずはパテを傷や穴部分にヘラで塗ります。

プラスチックのヘラでパテを押し付け、穴や傷の隙間に入れ込むようにして塗る。

その後、ヘラでならすとこんな感じに。

きれいに表面を均してあるパテ。丁寧な作業です。

十分乾燥させてから、パテ部分にやすりをかけて平らにします。
また、表面がつるつるしていてペンキが密着しにくく弾いたり剥がれたりしそうなときは、シーラーと呼ばれる下塗り材を塗ります。シーラーはペンキをしっかり密着させる以外に、ペンキの吸い込み過ぎを防いだり、下地を補強したり、下地からアクやヤニが滲んで表面に出てくるのを防ぐ役割もあります。

天袋の引き戸にシーラーを塗っている様子
扉類は大きいので、晴れた日ならバルコニーで作業すると良いです。

手分けをしてパテ埋めとシーラー塗りを進めていたら、事件発生! 下地を密着させるために塗ったシーラーがきちんと塗れず、弾かれてしまいました。この場所はもともと引き戸だった場所に新しく扉を設置し、一部にアンティークのステンドグラスをはめ込むために大工さんが新しく造作した壁で、とてもつるつるしています。

シーラーが弾かれてしまった!ピンチ!

しかし、DIYに関しては百戦錬磨の石井麻紀子さんは慌てもせず、「じゃあ、その部分にはやすり掛けしてからシーラーを塗りましょう!」と受講者に指示。なるほど、頑固に塗装を拒むつるつる面には、やすりを掛けるという方法があるのですね。

引き戸にやすり掛けする様子。
紙やすりを取り付けるサンドペーパーホルダーがあると楽。

細かい部分は手作業で丁寧にやすりを掛ける。

ペンキを用意するにもコツがある

下地の準備が出来たら、いよいよ塗装です! ペンキを塗装用のバケットやローラー皿に入れて…と思ったら、石井さんがローラー皿を持って何やら始めました。養生用のマスカーを巻いているようです。

手前の黒いのが塗装用バケット。青いのがローラー皿。
ローラー皿は狭い場所での作業や少量のペンキを塗るときにも便利。

「塗装用バケットには、内側に入れる専用のポリ容器がありますが、ローラー皿にはないので、後で洗うのが大変になります。マスカーをカバーとして巻いておけば、作業が終わった後の片づけが簡単になるんです」とのこと。さすが石井さん!
準備ができたら、ペンキを塗装用バケットやローラー皿に移していきます。受講生の方が缶を開けようとしたら…「ちょっと待って!」と石井さんから止められていました。ずっと置いてあった缶の中のペンキは混ざり方にむらが出ているので、缶を持ち上げてゆっくり左右に傾けて中身が均一に混ざるようにしなければならないのです。

よく混ぜようと缶を振ってしまうと気泡が入り、塗るときに泡が残って邪魔になります。
そーっとゆっくり左右に傾けて中身を混ぜます。

ペンキの缶を開けるときにも注意点があります。残ったペンキにはまた蓋をして保管する必要があるので、蓋が歪まないように開けなければならないのです。ペンキ缶開けの専用の道具も売っていますが、カッターのお尻部分に金属の爪が付いているものを買うと、ペンキの缶開けにも活躍して一石二鳥です。

お尻に金属の爪のあるカッター。
爪は段ボール箱を開けるときなどにも便利。

少しずつずらしながら、蓋が歪まないように開けていきます。

ふたを開けたら泡が立たないように混ぜるとよい。
専用の道具も売っていますが、割り箸でも代用できます。

そして、蓋が開いたらもう一工夫! 養生テープをVの字になるように貼って、注ぎ口を作ります。こうすると、ペンキを注いだ時に液垂れが防げます。

このようにVの字になるように養生テープを貼ります。

ほら、この通り!きれいにペンキが注げます。
これでも少し垂れますので、刷毛を傍に準備しておいて素早く拭いましょう。

やっと楽しいペンキ塗りスタート!

さあ!すべての準備がやっと、やっと整って、楽しいペンキ塗りタイムの始まりですよ~!

今回は色が似ているペンキが数種類あったので、間違えないように
ローラー皿にペンキの色が書いてあります。細かい配慮で作業効率UP!

ペンキを塗るのに使う道具は大きく分けて2種類。刷毛とローラーです。ローラーが届きにくい壁の際などの細かいところは刷毛が向いています。逆に、広い面を刷毛で塗るととても時間がかかるので、そこはローラーが大活躍します。複数の人で手分けして作業するときは、刷毛隊とローラー隊に分かれて行うと効率的です。

細かいところは刷毛を使って塗っていきます。

天井と壁の境目の廻り縁(木部)にペンキが付かないように、
マスキングテープで養生しています。養生をはみ出さないように注意しながら塗ります。

細かい作業には、絵の具を塗るときに使うような筆があると便利。

広い面はローラーで塗っていきます。
壁が白く見えるのは、下塗りしたシーラーです。

LDKの壁を塗り進めていったところ、電気配線を隠した配線モールがあることに気が付きました! まわりの壁は水色のペンキで塗られるので、ここだけ白に残っても目立ってしまいます。同じ色で塗りたいのですが、プラスチック製でつるつるしており、ペンキがきちんと塗れそうにありません。さて、どうしましょう?

果たしてこの配線モールにペンキは塗れるのか?

「こういう場合はミッチャクロンを使うんですよ」と石井さんが取り出したのは、青くて四角い缶。ミッチャクロンとはプライマーと呼ばれる下塗り材で、その名の通り下地と塗料をしっかり密着させるものです。多種多様な素材に対し、やすり掛けしなくてもペンキをしっかり塗ることができる優れもので、これを使えばガラスなどにもペンキが塗れるというから驚きです。塗料タイプとスプレータイプがあり、扉などの大きな面に使いたい場合はスプレータイプが便利ですが、有機溶剤入りのため結構な匂いがします。換気をしっかりしながら使い、広範囲ならバルコニーなど屋外で使うのがおすすめです。

何でも知っている頼もしい石井さんは、まるでドラえもんのよう。
次々とDIY秘密道具が出てきます。青い缶はミッチャクロン。

受講生の方が早速ミッチャクロンを紙コップに少量移し、小さな刷毛を使って配線モールに塗っていました。そこで石井さんが取り出してきたのがドライヤー。「これを使うと早く乾きますよ。雨の日など湿気が多くてペンキが乾きにくい時にも活躍しますので、現場に持ってくると便利なんです」 何度も言いますが、さすが石井さん!

ミッチャクロンを塗って、ドライヤーで乾かしています。
速乾性ですが、こうするともっと早く乾くそうです。

配線モールにも無事にペンキが塗れました!

他のところもみんなで協力してどんどん塗っていきます。高いところは脚立を使ったり、ローラーに長い柄を付けて塗っていきます。大勢でやるととても速いですね。
ペンキは一度塗ったら乾かして二度塗りします。一度塗りでムラが気になることろがあっても、二度塗りするときれいになります。一度塗りの時に一部ペンキが乗らなかった場所があったりもするので、チェックしながらしっかり塗っていきましょう。
二度塗りが終わったら、完全に乾かないうちにマスキングテープや養生を剥がしていきます。完全に乾ききってしまうと、養生にくっついてペンキが一緒に剥がれてきてしまうからです。もし完全に乾いてしまったら、養生とペンキの間にカッターで切れ目を入れて、養生だけ剥がすようにすれば大丈夫です。うっかりペンキが剥がれてしまっても、筆を使ってそこだけ同じ色で補修すれば、全く問題ありません。安心して作業を進めましょう。

「あそこが塗れてないよ~」と指摘してくれる仲間。
離れた位置から確認することも大切。

二度塗りが終わった扉たち。
きれいに塗れています。

マスキングテープで養生されたドアノブとラッチ。

全員の協力により、やっと完成しました! それでは、ビフォーアフターを見ていきましょう!
もとは2枚の引き戸から、扉に改修した場所は・・・

素敵なドアは、パナソニック製。
クラフトレーベルの、そのまま塗れるドア。

こんな風に変身!ステンドグラスのまわりのつるつるの壁も、しっかり塗れています。

「ドアは飽きたらまた違う色に塗ろうかな」と、入居者さんカップル。

洋室の入り口の扉と、収納の引き戸は・・・

大きな面を占める、4枚の引き戸とLDKに繋がる扉。

外してバルコニーで塗られ、こんなふうにきれいなブルーに!

床のクッションフロアも入居者さんのチョイス

みんなで塗ったLDKは・・・

古い木目の壁に白い配線モールが目立つ。

壁が水色になり、白いキッチンが映えます。

バルコニー側の壁は淡い水色に、キッチンの左側の壁はもう少し濃いめの水色に、きれいに塗り分けられました。洋室に続く扉の横の配線モールも、同じ色で塗ることが出来たので目立たなくなりました。
そして、輸入壁紙貼り編で貼った濃いブルーの輸入壁紙とペンキのコラボは、こんな感じに仕上がりました。

構造用の合板がむき出しのDIY可能壁

「とにかく青が好き」という入居者さんカップルが選んだ輸入壁紙と、それに合わせたペンキ。

輸入壁紙貼りとペンキ塗りを組み合わせれば、DIYでお部屋の内装が劇的に変化することがおわかりいただけましたか?

さて、ここまで読んで、ペンキ塗りって簡単そう!と思ったあなた。それは甘いです。ペンキ塗りの注意点を、数々の失敗をしている私がまとめてお伝えしましょう。
DIY初心者がペンキを塗ると、丁寧に塗っているつもりでも養生からはみ出します。ペンキ塗りの時にはそれらを拭くのに、ウエスと呼ばれる掃除用の布か、綿の古Tシャツなどを切った雑巾を用意するのが鉄則です。
しかし、それを用意していても手元に置いていない場合、はみ出したペンキを早く何とかせねばと焦り、つい指で拭ってしまいます。そして、その指でほかのところを触ってしまうので、ペンキを塗らなくて良い場所にペンキが付いてしまいます。
ローラー作業ならはみ出さないから大丈夫かというと、ここにも危険が潜んでいます。ローラーは慣れてくると作業も早くなり、楽々とペンキを塗れるようになります。そしてふと見ると、手首から二の腕にかけてまるで返り血のように細かくペンキが跳ねていることに気が付きます。ローラーを動かすスピードが速すぎるとそうなるのです。
また、どんなに注意したつもりでも、ペンキは必ずボタッ!と床に垂れます。その床に気を取られて下を向くと、前髪にペンキが付きます。それに驚いて後ずさりすると、今度は腰にペンキが付きます。ペンキがどのくらい服に付いたのか心配して体を捻ると、垂れたペンキをうっかり踏みます。驚いて足を外すと、他の床にもペンキが付きます。そこを別の人が通ると、その人もペンキを踏み、点々と床にペンキが広がります。さながらペンキの地獄絵図です。
ペンキはこのように、二次被害、三次被害が多いDIYなのです。初心者のうちは面倒がらず、養生を広範囲にきちんと行い、ウエスもしっかりポケットに入れて挑むといいでしょう。
「養生8割」という意味の中には、これも含まれていると常々思っています。 私はかなりDIYの場数をこなしている方ですが、トイレのペンキ塗りを手伝ったら、作業着はこんな状態になりました。狭い場所でのペンキ塗りは、右も左も危険地帯だらけになるため、特に注意が必要なのです。

全くペンキが付いていなかった作業着が、一日でこの状態に。

左腰部分。後ずさりした時に後ろの壁のペンキが付いたと思われる。

ペンキが大切なものについてしまったら大変です。備えあれば憂いなし。初心者のうちは特に「ペンキ塗りをしたら必ず汚れる」ということを肝に銘じ、養生に手を抜かず、汚れても良い服を着て、手にもペンキが付きまくる覚悟をして、挑戦してみてください。
ペンキを塗る作業はひたすら楽しいもの。怖がらず、ジャンジャン塗りまくってくださいね。

文:伊部尚子

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  • この記事を書いた人

伊部 尚子

独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。好きな工具はBOSCHのコードレス電動ドライバー。DIYアドバイザー、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP®

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