《 小商い賃貸推進プロジェクト 》Vol.004

都心の住宅街で小商い暮らしの渦を巻き起こす! “住むだけじゃない”暮らしをコミュニティで育む小商い賃貸「SMI:RE YOYOGI+SMI:RE YOYOGI ANNEX」

投稿日:2023年4月27日 更新日:

[小商い建築ウォーカー神永セレクト#002 ]

小商い建築ウォーカー神永セレクトの第二弾としてご紹介するのは、東京・「代々木」駅から徒歩10分ほどの住宅街にある「SMI:RE YOYOGI(スマイルヨヨギ)+SMI:RE YOYOGI ANNEX(スマイルヨヨギアネックス)」という、2施設が一体的に運用される建物群です。

全体の配置図および1階平面図

お話を伺ったのは、大家であり設計者、さらに管理運営も行う、BE-FUN DESIGN(ビーフンデザイン)代表で建築家の進藤強さんです。
今回は建物の紹介のみならず、どうしてこのような場所を始めたのか、つくり手の想いも含め、小商い賃貸の魅力と可能性を伝えていきたいと思います。

1.賃貸マンションから小商い賃貸へ、部分改修を続けているSMI:RE YOYOGI1

SMI:RE YOYOGIは、現在築30年。4年前に購入した築26年の賃貸住宅建物に部分的改修を積み重ねながら、小商い賃貸へ変化し続けているという、ほかにはない”進行形”物件です。1、2階に4室ずつの計8室の賃貸部屋があり、3階は進藤さんのご自宅となっています。 まず注目したいのは、1、2階の賃貸部屋の変貌ぶりです。

101号室を改修したシェアキッチン+バー「SMI:RE DINER 101」。 部屋の形を生かした、長さのあるカウンター空間が特徴。

1A号室(旧101号室)は、将来飲食店を構えたい人や、副業で取り組みたい人を応援するシェアキッチン+バー「SMI:RE DINER 101」に改修され、1C、1D号室はそれぞれコーヒーロースターの「BrewmanTokyo」さん、グルテンフリーショップ「Luciole」さんが入る小商い賃貸へ様変わりしています。

SMI:RE DINER 1A号室の前庭空間。

1C号室,1D号室の前庭空間。奥には2階へ登る階段が設置された。

前回Vol.002の記事でご紹介した「vitapasso楓の樹」と同じように、元々プライベートバルコニーだった部分を店舗の入り口へ変えることで、開かれた共有の前庭空間が生まれ、各個室へ入るための”共用廊下”が必要のない長屋形式に姿を変えました。前庭空間は、住人やお店を訪れるお客さんが行き交い滞在する、地域に親密な風景に更新されているのが印象的です。
2階に入っているBE-FUN DESIGNのオフィスには、前庭空間から登れる階段を追加設置しており、将来は旧玄関側をバルコニーへ変更することも考えているのだとか。

2D号室に入る、BE-FUN DESIGNのオフィス。旧バルコニー側からアクセス可能で、奥に玄関扉が見える。

1D号室を改修した、グルテンフリーショップの工房。販売は外で行っている。 写真中央の白い扉の奥に住居スペースがある。

グルテンフリーパンを販売中だった1D号室のグルテンフリーショップ「Luciole」さんにSMI:RE YOYOGIへの入居のきっかけをお聞きしました。
当初都内のシェアキッチンを借りて製造していたそうですが、活動を続けているうちにアレルギーを持っているお客さんと出会われました。さまざまな食材が持ち込まれるシェアキッチンだとアレルギー対策が難しいため、独立して製造可能な店舗を探していた時、この場所の募集がありました。
SMI:RE YOYOGIは、入居者との出会いをきっかけに“即興的”に部分改修を積み重ねる手入れの方法です。1D号室は、彼女のイメージする「小商い暮らし」を聞きながら、生活空間は最小限で製造スペースに重きを置けるよう、間取りを改修しているそうです。店舗内装の設計も、BE-FUN DESIGNでお手伝いしているのだとか。
人通りの多い場所とは言えない立地であるにもかかわらず、彼女の人柄を表すようなグルテンフリーの優しいパンに、購入する列が絶えない人気店になっています。

民泊運用の宿泊部屋2B号室。賃貸での入居者も募集中。 玄関は開口を広げ、掃き出しサッシの開放的入口へアップデートされた。

2B号室の内装。

そして2階です。2A号室は、そうざい製造業の許可を取得済みで、SMI:RE DINER 101でヴィーガンフードのレストランをしながら、お弁当を製造販売する「いづまるキッチン」さんが入居しています。
そのほか、現在は民泊で運用する2B号室、通常の賃貸部屋、BE-FUN DESIGNのオフィスが並んでいます。

SMI:RE DINER 1A号室の出店者用個別ロッカー。

階段下スペースを活用して追加設置された、共有トイレ。

SMI:RE DINER・1A号室は、曜日毎でマスターが変わるシェア型運用です。
建物の階段下にはマスターが利用できる個々のロッカーが用意されており、お店に必要な最低限の荷物を収納しておくことが可能です。また、小さくて大きな特徴が共有トイレで、筆者が見てきた中ではダントツ一番のコンパクト空間。元々賃貸住宅のみだった建物には共有トイレはないため、小商い賃貸へ改修し、1階を飲食店や製造業として営業するために追加設置されました。

カーポートを改修した、小屋状の店舗。

カーポートらしい曲面の天井が特徴の、隠れ家感ある内装。

また、カーポートだった場所は小さな飲食店テナントへリノベーション。
現在は「CRAFT CURRY BROTHERS BASE」さんという、兄弟で営む人気カレー店が入っています。内装の天井は、既存のカーポート屋根の下に断熱材を敷き込み、スチールのフラットバーでフローリングを押さえるようにして、進藤さん自らDIYで施工したといいます。
建物のエントランスの印象をつくる、小さな小屋としての出立ちが、住宅地に現れる穴場感と、“小商い”が集まる親密的な印象を醸し出しています。

2.不動産、建築設計、経営の学び場、SMI:RE YOYOGI ANNEX

SMI:RE YOYOGI ANNEX前のデッキスペース。

SMI:RE YOYOGIの管理運営を始めたある日、裏側の土地建物が売却されると聞いて進藤さんはすぐに購入を希望しました。そこに新築で計画され、2021年に完成したのが「SMI:RE YOYOGI ANNEX」です。
購入した際は、建築基準法に適合する接道要件を満たしておらず、再建築不可でしたが、SMI:RE YOYOGIの敷地形状や建物の避難動線を変更することで、再建築可能な状態へアップデートされました。2つの敷地を所有しているからこそ、一体的な配置計画で実現している施設群というわけです。
SMI:RE YOYOGI ANNEXは、不動産の経営や管理運営を住みながら学べる場としてつくられました。都内をはじめ、地方にも多い“第二世代大家(親世代が不動産を所有しており、相続する予定の若者)”に対し、「不動産経営のしくみやコミュニティを伴う場の運営を実践して学び、まちを楽しく動かす大家となるスキルを身につけて欲しい」という進藤さんの想いから始まっています。

303a号室の修行部屋。写真:平井広行

303b号室の宿泊部屋。写真:平井広行

その学び場の居住拠点となるのが、15㎡ほどの1R修行部屋と、27㎡ほどの宿泊運用部屋が2室セットで3ユニット並ぶ3階です。1R修行部屋に生活しながら、隣の宿泊部屋の管理運営を行うというライフスタイルが実践できるのです。
どのようなお客さんが宿泊するのか、またハイシーズンとオフシーズンの違い、トラブル対応の種類、コミュニティの作られ方など、不動産を所有し賃貸するだけではない、運営のノウハウや楽しみ方を吸収して持ち帰り、自身の地元大家としての経営に生かすことができます。もちろん、宿泊部屋の運用による売り上げは、自身の収入として得ることが可能で、支払う賃料を相殺するように”実質家賃ゼロ住まい”を目指すことができるのです。

進藤さん(写真左)と1階に入居する芸能事務所の社長。

そして1階2区画のテナントと2階3室の賃貸住宅の入居者は、併せてシェアキッチン「SMI:RE DINER 101」を利用しています。
インタビュー中、1階に入る芸能事務所の社長さんが通りがかりお話を聞くと、月に1度アイドルのオフ会イベントで活用し、多くのファンを集めているのだそう。今では進藤さんと飲み友達なんだとか(笑)。進藤さんの“顔が見える大家”としての振る舞い方が、この場所の風通しの良い持続的なコミュニティにつながっていることが垣間見える瞬間でした。

2階に入居するデザイナーさんが提供する、こだわりのタコス。

2階には、タコス屋「STREET FOOD COMPANY」さんで出店するデザイナーさんや、人気お寿司屋さんを営む方、進藤さんの”29(肉)会”をお手伝いするアパレル勤務の方などが入居しています。
SMI:RE YOYOGI+SMI:RE YOYOGI ANNEXの入居者は、住むだけ、また働くだけではなく、この場所のコミュニティを耕すプレイヤーとして、小商いを通して積極的に場に関わり、動かしていくことが期待されているのです。

3.小商い賃貸で、まちを元気にする大家像をつくりたい

左から、進藤さんと筆者。共有前庭空間が気持ち良い。

進藤さんは、建築家でありながら自身で物件を所有する大家であり、運営者です(不動産サイトはこちら)。 建築家にとどまらず活動の範囲を広げる理由を聞くと、「こんな不動産運用のかたちがあるということ、そしてまちを元気にする大家のあり方を広めたい」と言います。
全国に新しい住まい方がもっと増えていくと良いと思っており、それを作るには建築家という職能だけでは叶いません。物件を所有するために、融資を受ける事業計画の力も必要で、さらには転貸を含めた常識に捉われない自由な不動産運用にもチャレンジしたい。小商いをはじめとした、あらゆる小さな商業の場所を、暮らしに身近に、複数人でシェアし、交流を生み出しながらまちを元気にする。今までにない新たな不動産運用のかたちが、ビジネスモデルとしても成立していくことで世間に広めることができると考えています。

入居者同士の日常的な交流拠点でもある、SMI:RE DINER 1A号室。

この場所で小商いをする人のほとんどが当物件に住んでおり、朝のゴミ出しや挨拶を共にしています。小商いをするだけでなく、住むということが大切だと言う進藤さん。「類は友を呼ぶ」と言いますが、この場所では暮らしや生き方に対する同じ価値観を持った人が、さらに近しい価値観を持つ人を連れてくるという連鎖が起こっています。
暮らしを共有することで、自身の属するコミュニティへの関心が引き上がり、皆でつくる明るく気持ちの良い関係性につながっているのかもしれません。

SMI:RE YOYOGI+SMI:RE YOYOGI ANNEXの隣にある一般的な賃貸住宅。

そして最近では、SMI:RE YOYOGI+SMI:RE YOYOGI ANNEXの隣にある賃貸住宅の大家さんに、SMI:RE DINER 1A号室を使えることを特徴に空室住戸の募集を出してみたらどうかと提案し、実践しているというから驚きです。
隣の物件は、築年数も浅くなく、普通の賃貸部屋としては入居者が見つかりにくい状況です。そこに、「小商い賃貸」という価値を付帯させることで、不動産築年数の評価基準を脱した、ユーザーにとっての魅力を見出すことができるのです。
「こんな暮らし方があったら良いのに」という個人的な欲求を具体化するように始まった、進藤さんが手がける小商い賃貸。SMI:RE YOYOGI+SMI:RE YOYOGI ANNEXを拠点に、入居者や関係者、訪れるユーザー、そして周辺住人も巻き込みながら、偶然性を最大限取り込んだ、出会い溢れる暮らし方が育まれていくことでしょう。
これからも、この場所がどのように変化を見せていくのか、楽しみに観察したいと思います。


[ SMI:RE YOYOGI 間取り一例 ]

施設のコミュニティの中心であり、小商いの場であるSMI:RE DINER 1A号室 の間取り。 家賃は要問い合わせ。

2B号室の間取り。面積は22.63 m2で家賃は12万円台。 SMI:RE DINER 1A号室を併せて借りることで”小商い暮らし”が実現する。


[ SMI:RE YOYOGI ANNEX 上階間取り ]

SMI:RE YOYOGI ANNEX 2階の間取り。 家賃は要問い合わせ。

SMI:RE YOYOGI ANNEX 、修行部屋のある3階の間取り。 専有個室(修業部屋)と宿泊運用部屋セットで家賃は16~18万円台。

SMI:RE YOYOGI ANNEX 、屋上階の間取り。 修業部屋の住人が情報共有やコミュニケーションの場として利用できる。

文:神永侑子

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神永 侑子

建築家。 AKINAI GARDEN STUDIO 共同代表/YADOKARI株式会社アーキテクチャーデザイン。1990年茨城県生まれ。2012年愛知工業大学卒業。同年から2020年株式会社オンデザインパートナーズ勤務。2018年、横浜弘明寺にシェア店舗アキナイガーデンの開業と共にAKINAI GARDEN STUDIO設立。建築設計をメインとして企画から運営まで一貫した活動に取り組む。主なPJに、「洞窟のある家」(2021年)、共創型コリビング「TAMUROBA」(2022年)等。共同編著書に「小商い建築、まちを動かす!」(2022年)。

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