《 小商い賃貸推進プロジェクト 》Vol.017

大宮の氷川参道沿いに小商いできる和風空間が誕生。人気急上昇中の「大宮」駅から徒歩10分ちょっと。歴史の地では小規模店舗などの誕生も続く

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[東京情報堂・中川セレクト#003]

埼玉県随一の商都として、鉄道のまちとして、2024年以来住みたいまちランキングで人気急上昇中のまちとして知られる「大宮」駅周辺は昭和57年の新幹線開業前後から駅周辺でずっと開発が続いてきたまちでもあります。

最初に開発が始まったのは西口側。大宮はもともと東口側が中山道の宿場町、氷川神社の門前町として栄えてきており、明治時代の鉄道開通まで西口側はほとんど手付かず。それが鉄道開通以降、工場が立地するなどで一気に市街地化が進みました。

ところが、急成長に道路その他の整備が追い付いておらず、そのまちを新幹線開業を機に作り替えようとさまざまな開発が進められてきました。現在もまだ土地区画整理事業、再開発事業が続いていますが、かなり街並みは変わってきました。

その西口側の開発に遅れて東口側でもこのところ、開発が進んでいます。ひとつは老朽化していた公共施設を玉突き状態で更新するというもので、2019年に大宮区役所、大宮図書館が新築、移転しました。その後、2022年にはさいたま市民会館おおみやが再開発で誕生した大型複合施設・大宮門街内に移転してもいます。

東口、西口に続き、氷川参道にも注目が

大宮のランドマー、武蔵一宮氷川神社。周辺一帯は公園になっており、桜の名所としても有名(筆者撮影)

その東口側にはもうひとつ、この土地の歴史を語るランドマークとも言える場所があります。武蔵一宮氷川神社です。東京都、埼玉県を中心に約280社ある氷川神社の総本社であり、2000年以上前に創立されたという由緒あるお社です。

氷川参道。地元の人達の散歩道となっている。初詣や宮参り、祭礼時には多くの人が往来する(筆者撮影)

その氷川神社への参道は「さいたま新都心」駅の近くから約2キロに渡って並木が続いており、初めて訪れた人はスケールの大きな風景に息を呑むのではないでしょうか。初詣や宮参り、祭礼その他の日以外にも散歩、ジョギングその他として地元の人には親しまれている場で、ここ何年かは歩行者専用道路化が一部期間で実施され、今後も検討が続いています。より安全に、環境にも配慮した参道にということでしょう。

1970年創業の氷川だんご屋。2020年に新築移転しており、正月などは大行列ができるのだとか(筆者撮影)

そして、どうやら、西口側、東口側の変化が少しずつ、氷川参道周辺にも及んでいるような気配があります。参道沿いにカフェや飲食店など小さな店が誕生、人を集めるようになっているのです。

緑のあるゆったり、入りたくなる建物「大宮氷川町家」

参道側から見た大宮氷川町家。参道から直接アプローチできる立地は意外に少ない(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

今回ご紹介するのは参道沿いに2025年夏に誕生した「大宮氷川町家」です。町家という名称通り、和風の佇まいが特徴で、地元に長らく住む大家さんが駐車場だった土地に建てたもの。参道側から見ると敷地入口に庭のような緑のスペースがあり、ちょっと腰かけられるような空間も。

参道側を見たところ。参道のすぐ傍に立地していることがわかる(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

その余白は建物前面だけでなく、公道に面した部分にも設けられており、全体にゆったりとした雰囲気が漂います。当然、その分、土地の面積に対して建物は小さくなっていますが、これは「余白により建物自体の付加価値を高め、かつ余白があることで入りやすい建築を目指した」と建築家と組んで建物の不動産回りのコンサルティングなどを行う株式会社アラウンドアーキテクチャーの佐竹雄太さん。

わかりやすく、入りやすい建物が求められる背景

一番右が店舗。店の前に小さな広場、植栽がある(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

建物は3戸からなるのですが、それぞれの入口が参道側に向いているのも同じ意図です。かつては入口がわかりにくい、建物内が迷路になっているようになっているつくりが流行ったことがありますが、最近、新しく建てられるものは視認性が高い、つまり見えやすく、わかりやすい建物が多いようです。

店舗入り口。こちら側も入口前にスペースがあり、ゆったりとつくられている。天気が良ければ左側のベンチ状のスペースに腰かけて寛ぐことも(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

入りやすさを意識することが非常に大事になっている背景には消費者の行動の変化があります。まちを歩いていると似たような店なのに1店には行列ができ、隣には誰もいないということがありますが、これは多くの人があらかじめ行く店を検索、そこにしか行こうとしないため。ネット上で評価の高い店なら行っても失敗しないだろうという判断があるのでしょう。言葉を変えれば知らない店に行って失敗したくないとも。

店舗と兼用住宅の間に隠れ家的な小さな空間が設けられている(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

特に氷川参道は駅から距離があり、平日に行き来する人の数はそれほど多くはありません。そんな中で入ってもらうためには何よりも入りやすさが大切です。

参道沿いにあるかつての大宮図書館を活用した複合施設Bibli。イベントなどで活用されることも多い(筆者撮影)

「参道沿いの店舗などをリサーチしてみたのですが、意外に参道からすっと入れる店は少ない。参道にはかつての大宮図書館を民間が活用しているBibliという複合施設があり、ここも地元では話題の場所のひとつですが、元々が公共施設だったことから多少入りにくさもある。そうしたことを考えると、入りやすさはポイントだろうと思いました」

もちろん、わかりにくくても探してきてくれるファンが付いているような店であればそうしたことに配慮しなくても良いのかもしれませんが、それでも新たに実店舗を出すのであればそうした消費者心理を意識した場所を選ぶのは大事かもしれません。

中を覗いてみると木の回りにベンチ。気持ちの良い屋外スペースとなっている(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

また、氷川参道沿いの神社に近接するエリアの大半が第一種低層住居専用地域という用途地域になっています。用途地域とは都市計画法でこの土地にどのような建物が建つかを定めたもので、工場と住宅が混在するなどで互いに迷惑をかけることを防ぐ目的で定められています。

第一種低層住居専用地域は名称の通り、低層の住宅が建つことを意図した地域となっており、店舗等が開けないわけではないものの、1棟の中で店舗等に使える面積は50㎡以下でなくてはいけないなどと規制が厳しくなっています。通常、コンビニエンスストアも建てられない、小規模な店舗兼用住宅が点在するような地域をイメージすればわかりやすいでしょう。

「さいたま新都心」駅から約2キロに渡って続く氷川参道(筆者撮影)

ところが、「大宮氷川町家」が立地するのはそうした厳しいエリアの少し手前の第一種住居地域。この地域は住居の環境を保護するための地域とされており、3000㎡までの一定条件の店舗・事務所・ホテルや小規模な工場も建てられます。第一種低層住居専用地域に比べると要件はかなり緩やかになっており、それが「大宮氷川町家」を可能にしています。

店舗として使うつもりで不動産を探す場合には用途地域は大きなポイント。用途地域次第で使い方、使える面積などが変わってきますから、物件情報を見る時には必ずチェックするようにするとより効率的に自分にとって使いやすい物件にたどり着けるようになります。

店舗1戸と2戸の小商い可の併用住宅で構成

平面図。ピンク部分が店舗、残り2戸が併用住宅

「大宮氷川町家」は参道側にもっとも近い場所に入口のある店舗1戸と2戸の小商い可能な併用住宅からなっています。店舗は細長く、大きなキッチンのある60㎡ほどのスペースで、ここには地元の事業者が出店。おにぎりなどを出すカフェが11月にオープンする予定です。

店舗部分全景。中央のキッチンを挟んで緩く2つの空間に仕切られている。壁際にはベンチ(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

「最初は大宮の都心との距離感や地域性を加味し、都心で魅力的に感じるカフェなどに支店を出しませんかとお声をかけたのですが、既存店から離れたところでは人手の調整が難しいなどの理由からどれもうまく行かず。結局、建築中の建物に出した事業者募集の張り紙が縁になり、地元の事業者がこれまでとは違う形態の店を出すことになりました」

キッチン部分。こちらも壁際にベンチ。トイレは一番奥に設置されている(筆者撮影)

60㎡はワンオペで回すには広いものの、ある程度の人数で回すと考えると微妙に狭い。でも、屋外の40㎡も使える空間と考えれば良いというわけです。

平面図では薄いブルー部分、併用住宅B区画2階の居住スペース。緑が楽しめるように大きな窓が取られている。室内はごくシンプルな造り(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

併用住宅2戸はメゾネット。1階の、入ったところに小商い用に使えるスペースがあり、それ自体はそれほど広くはありません。参道寄りのB区画は約8㎡(全体の専有面積は37㎡)、C区画は約12㎡(全体の専有面積は64㎡)となっており、B区画は設計に当たった建築家の乾久美子さんのオフィスの人が借りることになったそうです。その方はいずれ独立する予定とのことで、小商いスペースは建築事務所的な空間となるのだとか。

平面図では薄いグリーン部分、併用住宅C区画の1階。土間部分がペット撮影に使われる予定とか(写真提供/アラウンドアーキテクチャー)

残りのC区画は不動産ポータルに出して反響も大きかったものの、最終的には現地を見ての問合せで決まったとのこと。小型犬専門の撮影スタジオになるそうです。

「ポータルサイトを見た方からはたくさんの問い合わせをいただきました。住居部分が広いので、全体としてお手頃な印象があったのかもしれません。また、氷川参道すぐという希少な立地も要因でしょう。今回入居を予定している事業者さんは斜め前にあるBibliでも事業をしていらっしゃり、近隣で事業を展開していく計画のようです」

確かに見学会で見せていただいた住居部分は氷川参道の緑が見えるように参道側に大きな窓が取られている、非常に魅力的な空間。人目があるわけではありませんから、気にならない人ならカーテンなどなしで暮らしたくなるほど。それが多くの人から問合せに繋がったのでしょう。

マンション建設、一の宮通りの整備など氷川参道周辺の動きにも注目

「大宮」駅東口の夜。非常な賑わいで、この活気が住みたい街としての人気を支えているのだろうと実感(筆者撮影)

入居者が早々に決まってしまったのは探している読者の皆さまには残念かもしれませんが、大宮、氷川参道エリアという新しい注目スポットについては覚えておいていただきたいところ。オーナーさんは平日の人通りの少なさを気にされ、確実に決まるであろう住居も含めた計画になったそうですが、大規模開発と違い、急激な変化はないであろうものの、変化は確実に続くと思われます。

改修が進む一の宮通り。氷川神社から駅に向かっており、通り沿いには古い呉服店、酒屋などのほか、最近は古着店などが増え、若い層が集まるようになっている(筆者撮影)

というのは参道近くでは現在複数のマンション建設が進んでおり、このエリアに住む人はこれから少しずつですが、増えていくはず。となれば駅前まで行かずとも近隣で買い物をしたい、お茶を飲みたいというニーズも出てくるのではないでしょうか。

一の宮通り改修の告知。まだしばらくは工事が続く(筆者撮影)

また、氷川参道から「大宮」駅に向かう商店街、一の宮通りでは現在、道路の整備が続けられており、ここもこれから変わっていくはず。この通り沿いにはこの何年かで古着屋さんが増え、若い人の往来が目立っています。元々は呉服屋さんなどもある歴史のある通りですが、確実に更新が進んでいるのです。
こうしたことを考えると静かな場所で小さな店を出したい人には面白いエリアのひとつ。まだ訪れたことのない人ならぜひ一度。氷川神社の良い気が感じられますよ。

ご参考までに、新築時の募集賃料は、店舗が約40万円、店舗兼用住宅のB区画は約12万円、C区画は約22万円でした。
空き待ち登録をしていただけましたら、オーナーさんにお伝えしますので、気になる方は是非ご登録ください。

文:中川寛子

  • この記事を書いた人

中川 寛子

住まいと街の解説者。不動産、街、空き家や商店街その他暮らしにまつわる原稿を書き続けてきた。極度の怖がりで、不動産を選ぶ時には地震、津波その他自然災害に強い立地、建物であることを最優先する。東京生まれの東京育ちで、郊外でも利便性は気にするタイプ。特に美味しいものが食べられるかどうかは大きな関心事。何の役にも立っていないが宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

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