30~40年ほど前、アパートと言ったら、「風呂なし」「共同トイレ」が当たり前。台所も共同か、お部屋にあっても非常に小さなものだけでした。でもアパートの住人たちは、足りないものは町にあるものをうまく使い補っていました。台所がなければ食堂や飲み屋で食事をし、風呂がなければ銭湯へ。そんな時代を懐かしく思い出す方もおられるでしょうが、残念ながら今はなかなか借り手がつかず、多くは取り壊され、残っているものは空室ばかりです。
そんなオールドスタイルの木造アパートを「木賃(もくちん)」と呼んで慈しみ、現代ならではの新しい手法で木賃文化を継いでいこうというご夫妻がおられます。
今回ご紹介する「ワク賃041」は、そのオーナー夫妻が営んでいる「くすのき荘」(1975年築)と「山田荘」(1979年築)という2棟の木賃です。
2棟は東武東上線「北池袋」駅から歩いて7分という場所に建っているのですが、オーナー夫妻はどんな手法でこの木賃をワクワク楽しい賃貸住宅に変えたのでしょうか? さっそくご紹介してまいります。
まずお伝えしたいのは、くすのき荘と山田荘とは役割が分けられているということです。
それぞれを一言で表せば、くすのき荘は“町のリビング”、山田荘は“住まい”という役割を担っています。
「“町のリビング”って何のこっちゃ?」と思われた方も多いかと思いますが、その説明はちょっとお待ちいただいて、最初に“住まい”となる山田荘からご紹介を始めます。
山田荘はオーナー(奥様)が父親から相続された2階建ての木造家屋で、1階・2階にお部屋が3室ずつあります。
こちらが山田荘の室内。6畳の和室に押入れ(天袋付き)と小さな水場がついています(1階は水場も共用になります)。
トイレは1階と2階の廊下突き当りにひとつずつあり、入居者さんたちはこちらを使っています。
ここまでは普通の風呂なしアパートに見えますが、1階に敷かれたウッドデッキスペースを見ると、ちょっと様子が変わってきます。
そして入居者さんの表札を見ると編集社の名前があるのも「おやっ?」という感じです。
ご案内くださったオーナーに話を伺うと山田荘はオフィスとして借りている方もいらっしゃり、ほかにもイラストレーターの方が住んでおられるとか。何だかクリエイター臭が漂ってきましたよ♪
山田荘の1階、2階平面図をご覧いただき、おおよそのアウトラインをつかんでいただけたら、次はくすのき荘へ!
山田荘からくすのき荘までは歩いて2分足らず。スープの冷めない距離にあります。
くすのき荘は元・運送会社の倉庫兼住居だった建物をオーナー夫妻が借り受けて、 “町のリビング”にコンバージョンされました。
まずは2階の平面図をご確認ください。
2階にはラウンジとキッチン、ミーティングルーム、ライブラリー、浴室、トイレがあります。
上の写真はラウンジとキッチン。なかなか広いスペースです。
ここは山田荘の入居者さんや、後述する1階シェアアトリエの利用者さん、「まちのリビングプラン」のメンバーさんが自由に使っていただけるスペースとなっています。
山田荘にはお風呂や台所がなかったですが、それらはくすのき荘で補っています。昔は食堂や銭湯など「町」を使って補っていたものを、「ワク賃041」では同じ木賃を使って補っているというわけ。
冷蔵庫や電子レンジ、調理器具や食器などは共用。オーナー夫妻もキッチンの裏スペースに住んでおられて、ここも一緒に使っておられます。
冷蔵庫の中にしまうとき、自分のものにはラベルを貼るルールになっています。
貼っていないものは食べられてしまうとか(笑)。
食事はキッチンでつくってもいいし、外で買ってきたものをここで食べるだけでもOK。
浴室やトイレも拝見しましたが、とても清潔な感じでした。浴室はシャワーのみの利用とのことですが、山田荘の入居者さんには毎月1枚、銭湯の入浴券がもらえるそうなので、のんびり入浴を楽しみたいときは銭湯へGo!
利用時間は10:00~22:00と一応決まっているけれど、山田荘の入居者さんはあまり時間を気にせず使っていただいても大丈夫なのだそうです。“住まい”である山田荘の足りないものを補って余りあるぜいたく空間ですね◎
続いて1階をご案内しましょう。
1階はロビー、シェアアトリエ、工作室から成っています。
ロビーには屋台が停めてあり、日中は近所に住むメンバーが北海道や板橋で都市農業を営む知人から仕入れた無農薬の有機野菜を販売しています。
近くにあった銭湯が閉店するとき譲り受けたというマッサージチェアがロビーに置かれていて、私が取材に訪れたときは近所の子どもがここに座って本を読んでいました(笑)。
ホント、“町のリビング”という言葉がピッタリ!
夕暮れになるとロビーの様相は一変します。メンバーの誰かが七輪に火をつけたら、皆が食べたい物を持ち寄って、自由に焼いて食べ始めるのです。そう、ここも食卓のひとつになっているんです。ちょっとビックリですね!
時にはご近所に住む外国の方なども集まって、一緒にサッカー観戦をして盛り上がることもあるとか。何だかとっても気楽でいい感じ◎
ロビーの奥はシェアアトリエになっています。
こちらは3.1~4.5㎡のブースが6室あり、美術作家や芸大生、イラストレーターなどが思い思いにものづくりを楽しんでおられます。中にはここで水耕栽培をしているという会社員もいるそうで、実にユニーク♪
シェアアトリエのさらに奥には工作スペースがあり、いろいろな工具も揃っています。
ここはシェアアトリエの利用契約をしている方だけが使えるので、モノづくりにも興味があるという方はシェアアトリエも申込みをしましょう(※2021年10月時点では空きがありません)。
ほかにもロビーで芝居が上演されたり、2階のラウンジでワークショップや勉強会が開催されたりと、くすのき荘という木賃を舞台に、入居者さん、町の人たちが自分のやりたいことをやって楽しんでいます。
こんな場が自分の家の近くにもあったらいいなあと憧れてしまいます。
話はこれだけでは終わりません。
先ほどロビーで野菜売り場として使われていた屋台、その名も「足りなさ荘」はくすのき荘の外へも飛び出していくのです。
「足りなさ荘」は自立ができず、水道や電気は置いた場所から借りているので、いわば木賃の化身みたいな存在。オーナー曰く「まちやひととつながることでやっと使えるようになる、何とも手のかかる屋台です(笑)」。
しかし、多くの力を借りることで、時にはTシャツ販売所になり、また時には七輪屋台になり、と七变化。とても楽しい屋台です◎
さらに話はヒートアップ!
くすのき荘の隣りには「くすのき公園」という広い公園があるのですが、ここともちょくちょくジョイント・イベントを行っているのです。
写真はくすのき荘2階のキッチンから「くすのき公園」まで長~い流しそうめん台を設置したお祭りの風景。スケールの大きな流しそうめんですね(笑)。この遊び心がたまりません◎
山田荘の1室を借りると、こんなに刺激的で楽しい毎日を送ることができるのだから、これぞ「ザ・ワクワク賃貸」です!
山田荘とくすのき荘の最寄り駅は東武東上線「北池袋」駅で、どちらからも徒歩7分という近さ。
「北池袋」駅からターミナル駅である「池袋」駅までは各駅電車でたった1駅。でも電車に乗らず歩いても池袋まで22分で行けるので、通勤・通学の便は非常に良いです。
スーパーは徒歩5分以内に4軒あり、コンビニも、セブンイレブン、ミニストップがそばにあるので、買い物もかなり便利。
山田荘の住人には毎月1枚銭湯の利用券が配られますが、周辺には銭湯も複数あります。登録有形文化財になっている、昔ながらの銭湯「滝野川稲荷湯」も徒歩圏内。
飲食店も中華・タイ・ベトナム料理など本場の味が気軽に楽しめるお店がいくつもあって、バラエティー豊か。
オーナーの奥様がこの町で生まれ育っておられるので、町の楽しいスポットをきっといくつも教えていただけると思います◎
“町のリビング”くすのき荘は、山田荘の入居者以外も、1階のシェアアトリエの利用者、「町のリビングプラン」利用者が使うことができます。
料金プランと利用できるスペースは上図のようになっています(※2021年10月現在)。
山田荘の入居者さんにとっては、キッチンやお風呂など、自室に足りないものを補う場であるだけでなく、シェアアトリエを使っている方や町の人たちとの交流を楽しめる場にもなっているのです。
その交流の場はくすのき荘を飛び出して、くすのき公園や町のあちらこちらにどんどん広がっていく。山田荘の1室を借りることから大きな物語が始まっていきます。たくさんのヒト、コトとの出会いが自分の中に眠っていた何かを呼び覚ましてくれそう♪
暮らす場所を選ぶって大事なことだなあと、「ワク賃041」を取材して、私もあらためて思いました。
物件情報
- 物件コード:ワク賃041
- 住 所:東京都豊島区上池袋四丁目
- 構 造:くすのき荘・山田荘とも木造2階建て
- 山田荘の専 有 面 積: 11.5~14㎡
- 山田荘の専有部設備:押入れ / 水場 / エアコン
募集条件
- 賃料:43,500円(くすのき荘利用料含む)
- 敷金:なし
- 礼金:1ヵ月
- 契約期間:1年または2年
- 更新料:なし
- 火災保険:加入必須
- 保証会社利用:なし
- 町内会費:賃料に含む
- 解約予告:3ヵ月月前
- ペット飼育:応相談
- 「空室が出たら連絡がほしい!」という方は
「お問合せ」ページを利用してご登録ください。
空室が出た場合と、類似のワクワク賃貸®物件ができたときのみ、ご連絡いたします。
文:久保田大介