店舗を借りることを決めてから「ワクワク賃貸」に相談

自前の菓子工房をつくった西田留弥さん
私どもでは、自前の菓子工房をつくりたい方からサポートを依頼いただきましたら、有償でコンサルティングを請け負っています。
コンサルティング業務は「①菓子工房プランの作成」、「②保健所への事前相談」、「③施工会社のご紹介」、「④見積書チェック」、「⑤完工確認(工事のダメ出し含む)」などから成り、2025年7月時点では10万円(税別)の報酬を頂戴しています(※注:2025年9月より少し値上げする予定です)。
今回は、これまで菓子工房づくりのコンサルティングを行ってきた中から、西田留弥(にしだ・るみ)さんの事例をご紹介したいと思います。どのような流れで菓子工房がつくられていくか、ご確認いただければと思います。

西田さんが借りた京王線「笹塚」駅近くの店舗(工事前/向かって右側)
西田さんからご相談のメールを頂戴したのは2025年の2月半ばのことでした。
西田さんはその時点で京王線「笹塚」駅徒歩2分の場所にある店舗を借りることをほぼ決めておられ、その店舗を菓子工房に改装したいというご相談でした。
管理会社さんは改装の検討のために少し時間をくださるとのことだったので、まずはzoomで図面などを見ながらお話を伺いました。
その話のなかで、西田さんがおつくりになりたいのは生米を使ったパンであること、つくった生米パンの販売スペースとつくり方を教える教室スペースが必要であること、菓子店舗を経営しているご友人には「工事代が1000万円以上かかるのでは?」と言われていて、その覚悟はできていることなどをお聞きしました。
娘さんが大手建設会社に勤務する一級建築士で、西田さんの要望を入れた仮プランをつくってくださっていたので、まずはそちらを拝見。結果、西田さんが菓子工房の要素として誤解されている点が散見され、工事代はもっと安くできることなどをお伝えし、3月上旬に、私がご紹介したい工事業者さんと一緒に現地調査に伺う約束をしました。

賃貸の募集図面に掲載されていた間取図
西田さんが賃借したいと希望している店舗は、代々、不動産屋さんが入っていたという事務所物件(1階)で、同じビルの隣にはお蕎麦屋さんが入っていることから「菓子工房にすることは問題なし」と管理会社さんからは言われていました。

工事前の店舗内
歩道に面して大きなガラスサッシと扉があり、間口もまずまずの広さ。部屋の形状もよく、素材としてはバッチリです。

入り口側から見た工事前の店舗内
部屋の奥の扉の向こうには給湯室とトイレがあります。
西田さんは、この間仕切り壁を抜くことも検討されていましたが、構造上抜くことはできず、逆に給湯室をトイレの前室と見立てれば、保健所の要件はこのままで満たすことができるというお話をしました。そうすることで工事代も抑えることができることから、西田さんはそのままとすることを即断されました。

工事前の給湯室
奥の給湯室には古いミニキッチンが残っていましたが、これは撤去し、トイレのための手洗いに変えることをご提案。
トイレの前室とする既存の給湯室スペースは、生徒さんのための更衣室も兼ねようという話もしました。

工事前のトイレ。和式だった
トイレは和式だったので、解体し、洋式に変えることに。
少々コストがかかりますが、それは必要なことだと、西田さんはこれまた即断されました。
西田さんにとって、生米パンの販売スペースを持つことが重要で、それは入口部分に設けることになりますが、販売スペースは工房スペースと天井まで完全に仕切る必要があることから、壁と菓子工房への入口扉を新たに設ける必要があります。
それにはかなりのコストがかかるけれど、西田さんが想定していた予算からは大幅に安く・・・できれば半分ぐらいに抑えることを目標にプランをつくっていきましょうという話をして、この日はお別れしました。
菓子工房プランづくり

初期プラン(1)

初期プラン(2)

初期プラン(3)

初期プラン(4)
次は菓子工房のプランづくりです。
菓子工房プラン策定のために、はじめにしなければならないことは厨房機器や設備など、工房のなかに入れたいものをリスト化してもらう作業です。
西田さんが何を設置したいか、私や当社のプランナーにはわからないので、西田さんにまず頑張っていただきますが、基本的なこと(たとえば、キッチンや冷凍冷蔵庫は業務用にしなければならないわけではないことなど)はあらかじめお伝えしました。
入れたいもののリストを作成いただくのと同時に、西田さんの好みの配置プランもざっくりと書いてもらいました。それを伺うことで、西田さんの好みや使い方を把握することができます。
入れたいものリストと希望の配置プランを頂戴したあと、当社のプランナーはA・B・Cの3パターンのプランを作成しました。それぞれのパターンには2~4つのバリエーションをもうけ、合計9つの初期プランを西田さんに提示し、それぞれのプランの長所・短所を説明。それをもとに西田さんと話し合いを重ね、長所を組み合わせるなどして3つのプランをつくりました。

工事前の店舗内。柱のピッチなどが平面図と違っていた
次にその3プランを持って再度、施工業者さんと現場打合せを実施。
3プランは机上でつくりあげたものなので、現場を確認し、施工業者さんにも検証いただかないと実現可能かどうかはわかりません。
管理会社さんからは古い平面図をいただいていましたが、実際のお部屋とは柱のピッチをはじめ、かなり違っている部分があり、また窓の高さなども平面図だけではわからないので、現場確認が必要でした。
そのほか電気の引き込み方法や容量、排水管の設置場所(排水管が長くなると床を高くしなければならなくなります)なども検証し、3プランのなかからひとつ選び、最終プランとしました。

最終プラン
こちらが確定した最終プランです。
お時間があれば、初期の9プランと最終プランを見比べてみてください。
どのように組み合わせたら、この最終プランになるのか、考えながら見ると面白いと思います。
プランが確定したら次は見積りです。
見積り作業には電気工事業者さん、水道工事業者さん、ガス工事会社さんにも現場を見ていただく必要があるので、1ヵ月近くがかかります。
見積り漏れがあると、あとで追加工事が多数発生してしまうことになるため、必要そうな項目はできるだけ多く列挙してもらい、提出された見積書を西田さんと見ながら、不要と思われる項目を削除していく作業を行いました。
単純に不要だと切り捨てるばかりでなく、「これはつくってもらうのではなく、既製品を購入したほうがいい」など、安くできる方法も助言します。
結果、西田さんが当初想定していたご予算より30%ほど安くすることができました。
完成した西田さんの菓子工房

完成した西田さんの菓子工房
見積りが確定したら、施工業者さんと西田さんとの間で工事請負契約を締結し、工程表を組んでもらいます。
工事にはゴールデンウィークをはさんで1ヵ月半ほどかかりましたが、特に大きなトラブルもなく順調に進み、2025年5月末に西田さんの菓子工房が完成しました。
西田さんが相談してくださってから3ヵ月半ほどかかったことになります。その途中で西田さんは賃貸借契約を締結し、家賃が発生し始めていたので、気苦労もひとしおだったと思いますが、工事期間中に設備や棚を選んで購入するなど、着々と開業準備を進めてくださっていました。

白を基調としたデザイン
それでは完成した西田さんの菓子工房を、写真で簡単にご紹介いたしましょう。
工房の内装や厨房機器、食器棚、テーブル、椅子などは白を基調とされています。

西田さんの菓子工房の販売スペース
入口から入ったところに設けた販売スペースは、販売数をさほど多くしない予定なので、広さは最小限にしています。

販売対応の窓
販売スペースの窓向こう(工房内)には、レジなどを置く可動式の棚と作業テーブルを置いてあります。
販売するときはガラス窓を開けて、お客様対応をします。

トイレの前室を兼ねた更衣室スペース
こちらは元・給湯室だった更衣室スペース。
前述のとおり、ここはトイレの前室を兼ねるので洗面台があります。
そのほか西田さんや生徒さんが使うハンガー台や椅子などの備品が置かれます。

トイレも洋式になった
トイレも洋式になりました。
和式だったときと広さは変わらないのに、ゆったりした印象があります。
西田さんへのインタビュー

お菓子をつくりながらインタビューに答えてくださる西田さん
最後に、西田さんに菓子工房ができるまでの感想などを伺いましたので、インタビュー形式でご紹介します。参考にしていただける点が多々あると思いますので、ご一読ください。
⎯⎯⎯⎯ 菓子工房の完成、おめでとうございます! 西田さんは今回、借りる店舗を見つけてから私どもにご相談くださいましたが、その点、不安はなかったですか?
西田さん:以前から「ワクワク賃貸」さんに空き待ち登録をしていて、桜上水の菓子工房兼住居を見学したり、大久保の菓子工房の記事を読んだりしていたので、お頼りすればいいと思っていましたから、あまり不安はありませんでした。それに私は、できあがった菓子工房を借りるのではなく、一から自分でつくりたいと思っていたので、お金や時間がかかることもある程度覚悟していました。

生米パンの販売も始まっている
⎯⎯⎯⎯ 西田さんと3ヵ月近くお付き合いしていて、いつも感じていたことですが、西田さんは度胸があって素晴らしいです。zoomで面談したときにも伺いましたが、西田さんはなぜ自前の菓子工房を必要としたのか、あらためて聞かせてください。
西田さん:私の活動の源となっているのは「生米パンの素晴らしさを伝える仕事をしていきたい」という想いです。普通に食べていただいても生米パンはふっくら、もちもちしていて美味しいですが、小麦アレルギーの方やビーガンの方も生米パンなら食べることができます。でも、シンプルな生米パンを売っているところが少ないので、実際に食べていただくためには小さくても販売スペースを持つことが必要だし、つくり方をお教えして自分でつくってみたり、お知り合いの方たちに食べてもらったりするために教室スペースも必要。そうした活動をコンスタントに続けていくためには拠点を設ける必要があるので、自前の菓子工房を持つことはとても大切なことでした。
⎯⎯⎯⎯ これまでは、どこで活動をしておられましたか?
西田さん:シェアキッチンを利用させてもらいましたが、生米パンをつくるのに必要なミキサーやコンベクションなしのオーブンがないので、その点は苦労しました。教室は自宅でやっていたのですが、うちではネコを2匹飼っているので、教室に向いているとは言えませんでした。

生米パンづくりの教室も始まった
⎯⎯⎯⎯ 生米パンづくりの教室は、現在何名ぐらいの生徒さんがおられるのですか?
西田さん:現在は10人ぐらいです。月1回の3~4人クラスが2つあって、ほかに単独開催の生徒さんやzoomでご指導している生徒さんなどです。自前の菓子工房を持つことができたので、今後は毎週1回教室を開くことが目標です。
⎯⎯⎯⎯ 新しい菓子工房で、すでに教室を開催されたと聞きましたが、生徒さんの感想などはいかがでしたか?
西田さん:評判は上々です。「白い内装が気持ちがよい」とか、「使いやすい」とか、いろんな感想を言ってくださいます。中には「ネコちゃんがいなくなって寂しい」という方もおられますが、これは仕方がない(笑)。
⎯⎯⎯⎯ 自前の菓子工房を時間貸しする方などもおられますが、西田さんはそうした使い方をして収益を得ることは考えていますか?
西田さん:生徒さんやインストラクター仲間にはお貸ししようと思いますが、知らない方にお貸しすることは考えていません。3大アレルギー源をコンタミネーションさせたくないですしね。

生米パンを西田さんに実際につくっていただいた
⎯⎯⎯⎯ 菓子工房をつくっている過程で、苦労されたことはありましたか?
西田さん:完成するまでにどれぐらいの時間を要するのかわからなかったので、その点は不安でした。プラン作成も工事も、想像していたよりは時間がかかったように思います。
⎯⎯⎯⎯ ああ、その点は最初にご説明すればよかったですね。すみませんでした。
西田さん:それと自分で決めなければいけないことがとても多いのには驚きました。何を入れるかから始まって、クロスや床材、建具、トイレ、洗面台などの建材もカタログを見ながら決めなければいけなかったし、色やデザインをどうするかも考えなければいけなかった。私には一級建築士の娘がいて相談することができたけれど、娘がいなかったら?と思うとゾッとします。菓子工房をつくるというのは、本当に大変なんだなあと身に沁みました。
⎯⎯⎯⎯ 建材やデザインなどを選ぶ経験をしたことがない方は多いですから、確かにぶっつけ本番で難しいと思います。娘さんがおられて、本当によかったですね。

焼き上がったばかりの生米パン
⎯⎯⎯⎯ 話しづらいかもしれませんが、私どものコンサルティングはいかがでしたか?
西田さん:プランをつくっていただけるとは聞いていましたが、こんなにたくさん提示してもらえるとは思っていませんでした。いろいろな発想でパターンを考えてくださって、ありがたかったです。知らない事がたくさんありましたから、プロならではのアドバイスがありとても助かりました。あと、ご紹介くださった施工業者さんは、私が購入した家具も一緒に組み立ててくださるなど、とても親切でした。
⎯⎯⎯⎯ お支払いくださった報酬に見合いましたかね?(笑)
西田さん:最初に10万円と聞いたとき、やってくださる内容からするととても安いと感じました。もし設計士さんや店舗業者さんに相談したら、そんな金額ではとても済まなかったと思います。完成して振り返ってみると、3倍ぐらいの価値は十分あったんじゃないでしょうか?
⎯⎯⎯⎯ リップサービスも含めてのことと思いますが、嬉しいお言葉、ありがとうございます。菓子工房づくりのお手伝いも、だいぶ経験を重ねてきて、ご指導申し上げる自信もついてきたので、今後はもう少しUPしたいな、と思いつつ、あまり高くすると、菓子工房にお金が回らないなんてことにもなるので、慎重に考えてみたいと思います。 貴重なご意見の数々、どうもありがとうございました。これからのご活躍を楽しみにしています。

文:久保田大介