《 DIY賃貸推進プロジェクト 》Vol.009

このDIYやってOK?「内装制限」の基礎知識[前編]

投稿日:2020年4月23日 更新日:

大家さんがOKでも、やってはいけないDIYがある

DIY可能な賃貸住宅は少しずつ増えてきているように感じていますが、自由にDIYできる賃貸物件を借りられたからと言って、何でもやっていいのかと言うとそうではありません。
建物を建てるときには守らなければならない法律がいろいろあるのですが、そのルールはその後のリフォームでも守らなければならず、もちろんDIYも例外ではないのです。
賃貸住宅でのDIYに関係があるのは主に内装材料に関してのもので、建築基準法と消防法に、「内装制限」というルールが規定されています。
名前からして何だか厳しそうですし、法律と言うと難しそうに感じますが、そのポイントを理解すれば恐れることはありません。今回は、「内装制限」についてわかりやすく解説したいと思います。

なぜ「内装制限」というルールがあるのか

内装制限を規定している建築基準法や消防法とは、どんな法律なのでしょうか。それぞれ第一条を見てみましょう。

建築基準法 第1条
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

消防法 第一条
この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。

両方とも、暮らしの安心・安全のための法律なのだとわかりますね。
そして、その両方の法律で規定されている内装制限とは、建物内部で火災が発生した際に、内装が激しく燃えて火災が広がったり、有害なガスを発生したりして、建物内部にいる人の避難を妨げる状況がないようにするために定められたルールなのです。
火災のニュースを見て胸を痛めた経験のある方も多いと思いますが、令和元年度の消防白書によると、住宅火災で人が亡くなる原因は逃げ遅れが全体の54.9%で最も多く、無事に避難するまでの時間を稼ぐことがとても大切なことがわかります。
DIYを行う際に内装制限をきちんと守るということは、万一火災が発生してしまった際に、自分や自分の同居家族だけでなく、同じ建物の別の住戸に住んでいる人や近隣に住んでいる人の命も守ることに繋がります。
「自分は火災に気を付けているから大丈夫」と思っていても、火は他の住戸からも燃え広がって来ます。みんなで守らなければ意味がないルールなのです。

火災の危険はどこにでもあります。 一人一人が気を付けなければなりません。

火災の際の危険度はどう違う?

内装制限は、賃貸住宅の内装について全て同じルールになっているのかと言うと、実はそうではありません。賃貸住宅で火災が発生した場合の危険度は、建物の構造や規模、その部屋の位置する場所によって異なるからです。火災発生時の危険度が低く、内装制限がない場合もあります。
危険度の違いをイメージしやすくするため、住戸で火災が発生した場合の様々なパターンを考えてみましょう。
木造のアパートと鉄筋コンクリートのマンションでは、火の燃え広がる範囲やスピードが違います。鉄筋コンクリート造の建物は、万一の時に全焼しにくい構造になっています。
戸建て貸家と複数の住戸からなる共同住宅では、火元の数も住んでいる人数も異なるため、火災が発生する頻度や他の住戸に燃え広がる確率が異なります。また、万一の時の避難経路を共有する人数が少ないほうが、避難も容易となります。
1棟の賃貸住宅の中の住戸でも、上の階に別の住戸がある住戸と最上階で上に誰も住んでいない住戸では、火災発生の際の被害が異なります。火は上に向かって燃え広がる性質があるので、下の階の住戸で火災があるほど建物全体の危険度は高まります。
1つの住戸の中の空間でも、キッチンのある部屋のほうが、火元の無い部屋や玄関やトイレなどよりも、火災が発生する可能性は高いはずです。

住宅火災の原因は、たばこ・ストーブ・電気器具などに次いで、 キッチンのコンロが挙げられます。

火災が発生した場合の危険度に応じて、万一のときに避難する時間を稼ぐため、内装に使う材料の不燃性能を変える必要があります。不燃性能とは、燃えにくい、加熱されたときに有害な煙やガスなどを発生させにくいなどのことであり、不燃性能が高い順に、不燃材料、準不燃材料、難燃材料となっています。
ちなみに、内装制限があるのは壁と天井だけで床材には制限はありません。火は上に燃え広がる性質があるので、壁や天井がより危険だからです。

「内装制限」はどうやって調べるのか

「内装制限」の重要性がおわかりいただけたと思いますが、では、どうやってDIYしたいお部屋の「内装制限」を調べればよいのでしょうか。
困ったことに、実はこれが一筋縄ではいかないのです。「内装制限」は複数の法律や条令などが関係してくるため、建築士などの専門家でもきちんと調べるのが大変だとお聞きしています。
「内装制限」を誰でも調べられるようにすることが、賃貸住宅での自由なDIYの普及に繋がるはずだと立ち上がったのが、私も所属している一般社団法人HEAD研究会のメンバーでした。
現場の第一線で活躍する一級建築士や、DIYを促進したい不動産管理会社、メディア関係者などの有志が集まり、2年の歳月をかけて「賃貸DIYガイドラインver.1.1」を完成させ、無料公開したのです。
制作チームの中心となったのは、前回のコラムでもご紹介した、優秀な一級建築士の皆さんです。

頼りになる一級建築士さんたち。左から、新堀アトリエ一級建築士事務所の新堀学さん、株式会社建築再構企画の佐久間悠さん、株式会社SPEACの宮部浩幸さん。

建築の知識がない人でもフローチャートをたどって行けば、DIYしたい部屋に内装制限があるかどうかを調べることができて、DIYをする際に使って良い内装材料もわかるようになっています。

「内装制限」を実際に調べてみよう!

それでは、賃貸DIYガイドラインver.1.1を使って、実際の物件の内装制限を調べてみましょう。

賃貸DIYガイドラインver.1.1

調べてみるのは、このコラムでもたくさん登場している、練馬区春日町にあるファミリー物件、「ワク賃023」の2LDKタイプのお部屋です。 早速フローチャートをスタートします。 「鉄筋コンクリート造ですか?」の質問に「はい」と回答すると、「イ.RC造集合住宅編へ」となります。

「集合住宅は3階建て以上の建物ですか?」という質問は、3階建てなので「はい」に進みます。次の「住戸は100㎡以上ですか?」という質問は、55.68㎡なので、「いいえ」に進みます。すると「イ-2.消防法についてご覧ください」となりました。

次の「集合住宅の延べ面積は2100㎡以上ですか?」という質問は、大家さんにお願いして竣工図面を確認してもらいました。

「延べ面積」などの専門用語は、関連用語集のページに その用語の意味や調べ方が書いてあります。

延面積は1018.8㎡と書いてあるので、「いいえ」に進み、次の質問「集合住宅の延べ面積は1400㎡以上ですか?」も「いいえ」に進みます。次の質問「集合住宅4階以上の各階の床面積が300㎡以上450㎡未満ですか?」も、この建物は3階建てなので「いいえ」です。
さあ、ゴールにたどり着きました!「内装制限はありませんので、【ガイドラインを踏まえたDIYの実例】などを参考にDIYを楽しんでいただけます。」となっています。このお部屋には内装制限がないことを、ちゃんと調べられましたね。

ちなみに、フローチャートのゴールが「内装制限はありません」となった場合でも、キッチンのコンロ周辺には別の内装制限があるため、それもガイドラインの別のページで解説しています。建築基準法や消防法だけでなく、都道府県の火災予防条例等も守る必要があり、コンロから壁やレンジフードまでの離隔距離が決まっていたり、コンロ周りの内装材料に決まりがあります。また、ガスコンロでなくIHクッキングヒーターの場合は、建築基準法上の内装制限はありませんが、都道府県の火災予防条例等で内装制限や離隔距離についての決まりがある場合がありますので注意が必要です。キッチンのある部屋にDIYをしたいという人は多いと思いますが、火災が起こりやすい場所でもありますので、きちんとルールを調べてから行いましょう。
内装制限があるかないかを調べるのに専門的な判断が必要なものは、ゴールが「建築士にご相談ください」となっていますが、このガイドラインを使うことで多くの人がDIYをやりたいお部屋の内装制限を調べることができるはずです。

壁紙を選ぶ前に内装制限を確認しましょう。

次回(後編)では、「内装制限がある」という結果になった場合に、どうやって内装材料を選べば良いのかを詳しくお伝えします。内装制限がある場合でもDIYをあきらめる必要はありませんので、どうぞお楽しみに!

文:伊部尚子

「賃貸DIYガイドライン」はこちらから

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  • この記事を書いた人

伊部 尚子

独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。好きな工具はBOSCHのコードレス電動ドライバー。DIYアドバイザー、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP®

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