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都市の隙間にすっぽり収まる土管ハウス〜香港〜

投稿日:2019年5月16日 更新日:

世界の都市の中でも飛び抜けて人口密度が高い香港。約1,104平方キロメートルの面積に、700万人以上が居住している。これは世界人口密度ランキング(2019年)で4位となる過密度だ。香港は傾斜の多い山地が多く、また陸地の40%が国立公園や自然保護区となっているため、住宅を建設する土地が極めて少ない。人口のほとんどが数十階を有する高層住宅に住むうえに、地価の高騰も年々深刻化している。

こうした香港の住宅事情を憂いた建築家のジェイムズ・ローが考案したのは、コンクリート製の土管を利用した住宅ユニット「OPod チューブハウス」(以下、OPod)だ。

「ある日、建設現場に置かれているたくさんのコンクリート製の送水管を目にしました。これをそのまま小さな住居として利用できるのではないかと、ふとひらめいたんです。住宅価格が高騰している香港の若い人たちが使えるような、安価な住宅ユニットを作ってみようと考えました」とローは語る。

コンクリート管は大量生産されているため、低コストで簡単に入手できる。断熱性が高く、強度があり、積み重ねも可能。こうしたコンクリート管の性質と利点を最大限に活用するOPodは、斬新な住居コンセプトとして各方面から注目を集めている。

コンクリート管の直径は、約2.5から3メートル。これを一つの部屋として利用するために床板を設置すると、室内面積はおよそ100平方フィート(約9.3平米)になるという。「ベリー、ベリースモールな空間ですよ」とローは認める。しかし、梁や柱を一切使用せず、土管の曲面にビルトイン家具を用いるので、実際には150平方フィート(約13.9平米)ほどに感じられるという。

では、住宅の機能がまるごと収まるという「マイクロ住居」のディテールを見ていこう。ソファは座面を開くと二倍の大きさになり、ベッドの用途を兼ねる。壁面の棚板はカスタマイズできるというから、センスよく空間を仕上げていくのも、居住者にとっては一つの楽しみになるかもしれない。

冷蔵庫と電子レンジは市販されている中で最小のものを使用。トイレとシャワー室はOPodの後方部分をタイル貼りにして収めている。これで基本の居間、調理スペース、バスルームが完備されるというわけである。

ポップなイエローのアクセントカラーや、先ごろ流行ったシンプルライフやミニマリストの風潮を汲むような住居スタイルも注目を集めている。「ある種のファッション・ステートメントとしてOPodを購入する人がいても不思議ではないですね」とローは言う。

しかし、OPodが第一のミッションとするのは、香港の人たちの切実なニーズに応えることだ。世界中の中間所得層の住宅取得能力を見てみると、8年連続で香港の不動産は収入に対して取得がもっとも難しいという結果が出ている。OPodの価格は日本円で約170万円。大きさがさほど変わらないアパートでも平均して5000万円以上というから、OPodが実現すれば、その利点は明らかだ。

OPodは、1年から3年ほど住む一時的な住まいとして想定されている。居住人数は1名から2名。例えば、公営住宅への入居をキャンセル待ちしている人や、住宅ローンの頭金を用意する間の仮住まいとして利用することをローは提案している。

その一方で、複数のOPodを積み上げて都市の空き地や隙間空間に設置し、集合住宅を形成するという考えもある。特別な補強はせずに、4段まではスタッキングができるそう。引っ越しの際にユニットを丸ごと移送することも理論上は可能だ。

「このプロジェクトの唯一の願いは、香港の若い人たちに(住宅事情の現状に対して)前向きになってもらうということです。香港の若者たち、さらには世界中でこうした問題に直面している人に対して、社会がどのような具体的な解決案を示せるのかを考えていきたいと思っています」とローは言う。

さて、あなたはこのOPodに実際に住むことを想像できるだろうか。狭小であっても、一時的な住まいとしての安息を得る。あるいは、秘密基地めいた近未来的な住宅に心躍らせる。切実なニーズからワクワクする期待感まで、人々のさまざまな思いに応えるであろうOPodの実用的な展開に期待したい。

写真/all images and sources courtesy of James Law Cybertecture
   ジェイムズ・ロー・サイバーテクチュア
   URL  http://www.jameslawcybertecture.com/?section=home

文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

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河野 晴子

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文にエイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。夫、娘、猫と都内に在住。

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