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《 世界のワクワク住宅 》Vol.033

カーマニアのワンダーランド!<V8ホテル> 〜シュトゥットガルト(ドイツ)〜

投稿日:2020年8月13日 更新日:

特定のテーマやデザインに特化したホテルは、宿泊体験そのものを旅の目的の一つにしてくれる。これまでも氷でできたホテルフロアごとにデザイナーが異なるホテルなどを見てきたが、いずれも単に奇抜なデザインが耳目を集めるのではなく、優れたデザインチームが徹底してそのビジョンを貫き、ほかでは味わえない体験を提供していることが総合的な高評価につながっている。

今回ご紹介するのは、ドイツ南西部のシュトゥットガルトにある4つ星の<V8ホテル>。
車好きの方ならすぐにおわかりになると思うが、「V8」とは大型乗用車に使われるエンジンの名称である。ここは客室からレストランまですべての空間に車のモチーフやデザインが取り入れられている、カーマニア垂涎のホテルなのだ。

20世紀初頭にフランスで誕生したV8(V型8気筒)エンジンは、その後アメリカのキャデラックに採用されるなど、世界中に普及したことで知られる。低振動で静寂性に優れ、高出力を発揮するエンジンとして多くのカーマニアを魅了してきた。V8ホテルはホテルサービスでもこのエンジンのような人気と高いパフォーマンス性を実現しようと、その名を冠することにしたと言う。

シュトゥットガルトと言えば、ポルシェやダイムラーのお膝元。乗車体験ができるポルシェ・ミュージアムや、一日2,000台の出荷があるというメルセデス・ベンツ最大規模の生産工場など車産業にまつわる施設がたくさんあるが、その最たるものが、かつてヴュルテンベルク州の空港として使われていた50,000平方メートルもの敷地に広がる巨大な「モーターワールド」だ。

ここでは数多くの名車の展示のほか、車やバイクの販売、修理、貸し出しなどもしている。また、コレクターたちが自慢の車体を展示することができるガラス張りの展示ブースのレンタルも行っている。「見本市+博物館+テーマパーク」とも言えるモーターワールドは、車好きが一度は訪れたいメッカなのである。

モーターワールドの敷地内にあるV8ホテルはこうした来場者の審美眼に叶う質の高いデザインを空間の隅々にまで惜しみなく注いでいる。
およそ10年前に建設されたV8クラシックホテルに続き、2018年には計187室を誇るより豪華なV8ホテル・スーペリアがオープンした。二館にはそれぞれV4シングルルーム、V6デザインダブルルーム、V8テーマルーム、V10ジュニアスイートルーム、V12メルセデス・スイートルームといった具合に、大きさとタイプに分けられた部屋がある。
今回の取材に際し数多くの写真を提供していただいたが、どれも心踊る意匠とこだわりばかり! 可能な限りご紹介したい。

クラシックホテルで特筆すべきはV12メルセデス・ベンツ・スイート。かつての空港の管制塔の4フロアを占める特別な空間で、家族連れに人気だそう。この空港は世界中を周遊したドイツの巨大飛行船、グラーフ・ツェッペリンが1929年に着陸したことでも知られ、航空マニアにも大変な人気がある。

ご覧のように部屋の主役は中央にでんと構えるベッド。足先に本物の車体のノーズ部分が備えられている。カーマニアならずとも夢のような寝心地(乗り心地?)を想像するとかなりワクワクする。

壁面にはかつての空港のモノクロ写真があり、この地の歴史に思いを馳せることができる。そのほかキッチン、リビングルーム、サウナも完備。プライベートのルーフテラスからはモーターワールドが一望できる。

続いてV8の真髄とも言えるテーマルーム。それぞれの部屋につけられたタイトルと写真を見比べていくだけで楽しい。

「ドライブインシネマ」は夜空を思わせる天井に真っ赤なキャデラックをあつらえた空間。ご覧のように車体のライトも点き、室内で鑑賞できる映画のDVDコレクションも充実しているそう。

こちらの「モータースポーツ」の部屋は、F1の世界を余すところなく表現。サーキット、チェッカーフラグ、表彰台などディテールに注目していただきたい。シューマッハやセナといった歴代の優勝者の写真には月桂樹のガーランドが添えられている。

「カーウォッシュ」の部屋は、ヘッドボードに洗車機の大きな回転ブラシ(なんだかくすぐったい!)。ここでは車体のテール部分がベッド前方のテレビボードの下に添えられ、洗車の列を伺わせる。なんとも芸が細かい。

給油や整備をテーマとした部屋も実に楽しい。ベッドの下から整備士の足が覗く「ワークショップ」の部屋は秀逸だ。

このほかにもモーテルを思わせる内装にジェームズ・ディーンが描かれた「ルート66」や、あえて廃車を飾った「ノスタルジー」という部屋もある。いずれも車の意匠を表面的に取り入れるのではなく、車にまつわる物語や歴史を総合的に演出し、隙のない世界観を作り上げている。

続いて新館V8スーペリアへ。テーマルームは26室。
ラングラー(アメリカ)、シトロエン(フランス)、アルファロメオ(イタリア)、ベンツ(ドイツ)といった国別の部屋があり、それぞれのファンに非常に人気が高いと言う。

こちらはイギリスを代表するジャガーXJ2.S。グランツーリスモならではの高級感を部屋全体で表現している。

駆け足でいくつもの部屋を見てきたが、さて、どの部屋に宿泊するかと悩むのもまた楽しい。宿泊予定者は事前にスタッフに相談し、好みの部屋をセレクトしてもらうこともできるそうだ。

本物の車体を家具や内装に取り込み、ユニークな切り口の世界観を舞台装置のように作り込んでいくV8の高い芸術性は5人のアーティストチームによって支えられている。

現在は家具、内装、壁画、歴史的観点から車を検証するスペシャリストがいるそうだが、彼らについて責任者のシメオン・シャド氏はこう語る。「ここは多くのカーマニアのみならず、平日はビジネスクライアント、ホリデーは観光客で賑わう場所です。V8ホテルはみなさまにとって特別なホテルとなるよう、5人のアーティストとともに作り上げてきた空間であり、彼らの芸術がその心臓部だと言えます」。

自動車産業の本場シュトゥットガルトは車をひとつの文化として発信し続ける街。カラフルで刺激的なV8ホテルはその誇りと情熱を軽やかに体現し、この街を訪れる多くの人々を魅了し続けている。

写真/All sources and images courtesy of the V8 Hotel, Motorworld Region Stuttgart All photographs by Frank Hoppe

V8ホテルのサイトはこちらから

取材・文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

  • この記事を書いた人

河野 晴子(こうの・はるこ)

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文に『ジャン=ミシェル・バスキア ザ・ノートブックス』(フジテレビジョン/ブルーシープ、2019年)、『バスキアイズムズ』(美術出版社、2019年)、エイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。

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