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氷点下の客室で一夜を過ごす<アイスホテル> 〜ユッカスヤルビ(スウェーデン)〜

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そこに宿泊するだけで、証書が授与されるホテルがあるらしい。

あなたは北極圏から200キロに位置するユッカスヤルビのアイスホテルで一夜を無事に過ごされました。そのことをここに認定し、証します。
・室内温度 -5℃

Design: Lkhagvadorj
Photo: Asaf Kliger

チェックアウトの際にこんな文言が書かれた「ディプロマ」がプレセントされるとは、さぞや達成感が伴う宿泊体験なのだろう。今回は、スウェーデン最北の都市キルナ近郊の小さな集落、ユッカスヤルビにある「アイスホテル」をご紹介する。

Photo: Asaf Kliger

Photo: Paulina Holmgren

アイスホテルはその名の通り、氷と雪で建造されている宿泊施設。毎年12月にラップランドの荒野を流れるトルネ川から切り出した氷を使って建てられ、厳しい冬が終わりを告げる4月頃に解けてなくなるという幻想的なコンセプトと、唯一無二の宿泊体験が多くの宿泊客を魅了し続けている。およそ30年の歴史があるホテルだが、今では世界中から年間約7万人のゲストがここを訪れるそう。

Design: João Mota & Volker Schnüttgen
Photo: Asaf Kliger

アイスホテルにはシンプルなアイスルームと、芸術的な意匠が楽しめるアートスイートがある。後者では毎年、客室のインテリアや彫刻作品をデザインするアーティストを公募し、その中から20人弱が選ばれる。

Design: Ground Rules Design Ulrika Tallving & Carl Welander

雪像の制作経験がなくてもアイディアのオリジナリティーが評価されれば現地に滞在し、専門スタッフとともに客室の制作を丸ごと任されるとあって、アーティストのみならず多くのデザイナー、建築家、エンジニアがコンペに参加するそう。

©️Asaf Kliger

制作にはすべてトルネ川の氷が使われるが、自然の氷は人工的に作られたものよりも透明度が高く、堅牢で解けにくいという特徴がある。トルネ川を流れる水の量はたった10秒の間に4,000トンの氷に相当する。氷の部屋や彫刻が毎年生まれ変わるというにわかには信じがたいコンセプトは、このダイナミックな自然のサイクルが可能としているのだ。

©️Martin Smedsén

では、実際の宿泊体験をたどってみよう。
キルナ空港から車で30分。アイスホテルに到着すると、まずは別棟のデスクでチェックイン。常時氷点下のアイスホテルには普通の客室にあるような収納や水道設備がないので、この別棟がいわばホテルの機能面を担う「ハブ」となっている。シャワー、サウナ、薪暖炉、ロッカーがあるほか、24時間スタッフが常駐。

©️Martin Smedsén

チェックイン後は、ガイドがアイスホテルに宿泊する際の「サバイバル術」をレクチャーしてくる。

Design: Natsuki Saito & Shingo Saito
Photo: Christopher Hauser

レクチャーでは、適切な防寒着や寝袋の使い方が紹介される。提供されるサーマル寝袋は-25℃対応のもので、-5℃に保たれる室内では十分に暖かいそう。この寝袋に入り、保温性の高いトナカイの毛皮が敷かれた氷のベッドで寝る——それこそがアイスホテルに滞在する際のメインのアクティビティ、そして件の証書がもらえる体験なのだ。部屋はまさに寝るための場所で、午後6時からしか入室できない(犬ぞり、ラフティング、オーロラ鑑賞など、寝ること以外のアクティビティには事欠かないのでご心配なく!)。

Design: Peder Istad, Oskar Gustafsson and Emil Olofsson
Photo: Asaf Kliger

Design: Aleksandra Pasek & Tomasz Czajkowski
Photo: Asaf Kliger

「ほとんどのゲストの方にとって寝袋に入り、氷点下で一夜を過ごすことは初めての体験です。みなさん緊張をされてベッドに入られるのですが、翌朝、澄んだ冷たい空気の中で目覚めるのは思いのほか気持ちいいと驚かれるんです」とは、ゲストサービスのクリスチャン・ヴンダーさんの談。氷の部屋にはドアはなく、トナカイの毛皮でできたカーテンが下げられているだけ。朝はスタッフが温かいベリージュースを持って起こしてくれる。

Photo: Asaf Kliger

ユッカスヤルビはもともと、川下りなど夏のアクティビティがポピュラーな場所。長く厳しい冬の間、どう人々を惹きつけるかが一つの課題であった。1989年、のちのアイスホテル創設者・イングヴィ・ベルクヴィスト氏が日本から雪像やかまくら制作の技術者を呼びユッカスヤルビでワークショップを開く。その時の経験を元に、翌年、トルネ川の畔にアートギャラリーとホールとして利用できるイグルーを建設した。「どうせならここに宿泊もしてみたい」という来訪者のリクエストが、本格的なホテルの構想へと繋がったと言う。

Illustration: PinPin Studio

今では、この地の代名詞となったアイスホテルでの滞在。逆に、夏季にそれを体験できないという新たな課題に対応すべく、2016年には年間を通して滞在できる常設の「アイスホテル365」がオープンした。
夏に白銀のホテルが本当に可能なのだろうか?

Design: Tommy Alatalo
Photo: Asaf Kliger

仕組みはこうだ。夏至の前後である6月を中心に、北極圏内の街は白夜に覆われる。太陽は地平線の上をただ移動し、沈むことはない。真夜中でも薄明が続くこの間に、アイスホテル365の屋根に設置された巨大なソーラーパネルで8万kWh分もの太陽光エネルギーを蓄える。それを冷却エネルギーに変換することで、年間を通してこの常設棟の氷が解けることなく、運営が続けられるというわけだ。

Photo: Asaf Kliger

アイスホテル365にはアートスイートが11室、暖かい部屋と浴室が併設されている9室のデラックススイートがある。また、氷のグラスでドリンクを飲めるアイスバーや、美しい氷の彫像が展示されているアイスギャラリーも一年中楽しめる。

春先に雪と氷を解かした太陽が、ここでは年間を通したさまざまな体験を提供するエネルギー源となるわけだが、この壮大な自然の循環が狂うことなく、永続する保証はないだろう。アイスホテルでは、エネルギーやサステイナビリティーの専門家を置き、可能な限りユッカスヤルビの環境に配慮したホテル運営に努めている。

Photo: Martin Smedsén

それにしても、なぜ人は氷や雪に魅せられるのだろう。
時が止まったような静寂の世界と、自然の摂理として跡形もなく消えていく雪や氷。「永遠」と「刹那」が表裏一体となる美しさがそこにあるのかもしれない。そして、抗えない自然の力を受け入れ、知恵と労力で最大限にそれを利用する生活もまた、雪国の魅力だと言える。
ユッカスヤルビの地で青く輝くアイスホテルは、そのすべてを体現する、かくも美しいホテルなのである。

Design: Natsuki Saito & Shingo Saito
Photo: Asaf Kliger

写真/all sources and images courtesy of the ICEHOTEL

アイスホテルのサイトはこちらから

取材・文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

  • この記事を書いた人

河野 晴子(こうの・はるこ)

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文に『ジャン=ミシェル・バスキア ザ・ノートブックス』(フジテレビジョン/ブルーシープ、2019年)、『バスキアイズムズ』(美術出版社、2019年)、エイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。

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