《 案内人 和久幸太郎 》

第1話 光風
#インナーバルコニー#ベンチ棚#川辺の部屋#荻窪

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東京・「荻窪」駅。
JR中央線・総武線と東京メトロ丸ノ内線の2路線を利用できるこの駅はいつも多くの人でにぎわっている。
4月28日(土)午後1時。
白シャツにブルージーンズの女が足早に南口の改札から出てきた。
キョロキョロと辺りを見回していると、黒いスーツ、スカイブルーのシャツを身にまとった長身の男が近づき声をかける。

「戸田奈緒さんですか?」
「はい」
「お待ちしていました。ワクワク不動産の和久幸太郎です」

男は少し照れた笑みを浮かべながら名刺を差し出した。

「あら、和久さんだからワクワク不動産?」
「まあ、そんなところです」

はにかむ和久の顔が可笑しくて、奈緒はくすっと笑った。
戸田奈緒は文部科学省で働く34歳の国家公務員。
5年前に実家を出て、今は世田谷区の賃貸マンションでひとり暮らしをしている。

「通勤が楽で、癒される賃貸物件をお探しということでしたね」
「ええ。今借りている部屋にもそんなに不満はないので急いでませんが、そんなお部屋があるなら見てみたいです」
「ご趣味は読書と音楽鑑賞・・・それに半身浴ということでした」
「ええ・・・それはそうなのですが、部屋探しと何か関係があるのですか?
 趣味を聞く不動産屋さんは初めてなので・・・」
「当社の場合、お客様の趣味はお部屋探しをするうえでとても大切な要素なので、いつもお訊ねしています。
 気に障ったらすみません」
「いいえ、別に構いませんが・・・」
「でもおかげで戸田さんが気に入ってくださりそうな部屋を見つけることができました。
 さっそくご案内いたします」

和久と奈緒はエスカレーターに乗って地上に出た。

「荻窪はお勤め先の霞が関駅まで丸ノ内線で約30分。
 丸ノ内線は始発駅だから朝は待てば確実に座れます」
「同僚からもそういう話は聞いたことがあります。
 帰りは眠ってしまっても乗り過ごすことがないからいいよって」

荻窪南口仲通りを並んで歩く。
飲食店、喫茶店、信用金庫、不動産屋などが立ち並び、人通りはかなり多い。

「この商店街、なかなかいい感じですね」
「たくさんの人が歩いているので、夜道も怖くないですよ」
「それは安心だわ」
「戸田さんは外食がお好きなのですか?」
「ええ、よくわかりましたね」
「さっきから、良さげなお店全部に目が行っておられますから」
「あら、恥ずかしい・・・」
「すみません」
「でも雰囲気のいいお店がいっぱいあるから、夜ひとりで食事するときなんか便利そうね」
「コンビニもありますから帰宅が遅くなっても大丈夫だと思います」

商店街をまっすぐ歩いているうちに橋が目に入る。

「あの橋は?」
「善福寺川を渡る橋です。ほら、渡った先に大きな木があるでしょう。
 あれは桜の木なのですが、このあいだまできれいに咲いていましたよ」
「へぇっ。それは見たかったな・・・」

今は豊かな緑の葉を茂らせている桜の木を奈緒が見ていると、和久は急に左に曲がった。

「あら、橋は渡らないの?」
「はい、すぐそこに見えるのが本日ご案内するマンションです」
「川のほとりに建っているのね」
「はい」
「ビジネスバッグにハイヒールで7分ってところかしら?」
「商店街を見ながら歩いていると時間を忘れてしまいますが、だいたいそんなところだと思います」

建物の前まで来て、和久は間取図を奈緒に手渡した。

「こちらがこれからご覧いただくお部屋です」
「あら、バルコニーがないのね。洗濯物が干せなくて不便そう…」

奈緒の顔に失望の色が浮かぶ。
しかし和久はあまり気にするふうでもなく、静かにオートロックのボタンを押した。

「エントランスがオートロックというのはいいわね」
「女性のひとり暮らしですのでセキュリティーも大切な要素だと思いました」
「男のひとには大切じゃないのかしら?」
「いえ、男にとっても大事だと思います」

和久は頭をかいた。

ふたりはエレベータで5階まで上がり、すぐ右側の部屋の前に立った。
緑色の玄関扉がとても印象的だ。

「玄関ドアもデジタルキーとディンプルキーのWロックシステムを採用しています」
「デジタルキーって初めて見たけど、鍵穴がないのね」
「ええ。ですからピッキングができません」

そう言いながら和久は暗証番号を押し、扉を開けた。

「あら、玄関ドアを開けてもすぐに部屋が見えないのね」
「ええ、もう一枚扉を開けてお部屋に入るようになっています。
 宅配便屋さんやピザ屋さんが来た時にお部屋を見られるのが嫌だという方は多いので・・・」
「私もそうよ。
 忙しくて部屋を片付けている暇があまりないから」

そう言って奈緒は軽く頭をかいた。

「あら、窓のところが少し変わっているわね。あれは何かしら?」
「ベンチ棚です」
「ベンチ棚って?」
「リビングは8.6畳大ですから決して広いとは言えませんが、食事をしたり、テレビを見たりするには十分なスペースだと思います」
「あの…ベンチ棚って何ですか?」
「ふふ、何でしょう?
 ひとまず先にキッチンをご覧ください」

和久は奈緒の視線をキッチンに向けさせた。

「キッチンはワイド1350というサイズです」
「う~ん・・・料理をあれこれするには十分なサイズとは言えないわね」
「料理好きな方はサイドワゴンなどを使うのもありかと思います」
「なるほど」
「料理はあれこれなさいますか?」
「いいえ。料理に時間をかけてられないわたしには十分よ」
「なるほど」

和久は続いてキッチン脇の引き戸を開けた。
あらかじめ窓を開けてあったらしく、爽やかな風がさっと渡っていく。

「こちらは寝室です。
 決して広いとは言えませんが、ダブルベッドまで入ります」
「私はセミダブルを使っているから、この広さがあれば十分ね」

・・・と、ここで奈緒はあることに気付き怪訝な表情を浮かべた。

「すみません。収納はどこにあるのですか?」
「収納はこちらのパイプスペース付きの枕棚だけです」
「そうなの・・・。
 私、服がとても多いので、収納がこれだけだとちょっと困るわ…」

奈緒の顔は明らかに不満な気持ちを物語っている。
しかし和久は今度もまたあまり気にしているそぶりを見せず、

「戸田さんにご覧いただきたい場所があります。
 リビングルームに戻っていただけますか」

そう言って静かにリビングに向かった。
失望した気持ちを隠せぬまま和久のあとをついていった奈緒だが、リビングに立てかけてある梯子に目がいくと、途端に破顔した。

「梯子があるということはロフトがあるってことね!」
「はい、しかもただのロフトじゃありません」

そう言って和久はロフトの図面を奈緒に手渡した。

「梯子、登れますか?」
「もちろん!」

奈緒はするすると梯子を登っていく。
登った先には6畳大のロフトが広がっている。

「広い!これなら収納にも困らないわ」
「広いだけでなく天井もロフトにしては高いです」
「そうね!だったらこっちを寝室として使うのもアリね」
「それはいいアイディアだと思います」
「それに、なんだかとても開放的だわ」
「吹抜けの部分まで窓が設けられていますから、明るいですし風も通ります」
「ホントだ・・・」
「戸田さんの言われた通り、このロフトを寝室にするのなら、先ほどの洋室はまるまるウォークインクローゼットとして使うという手もありますね」
「あ、それ、いいなあ・・・。
 ね、ちょっと腰をかけていいかしら?」

和久の返事を待たず、奈緒はロフトに腰掛け窓を眺めた。
南向きの窓から入ってくる眩しい光が目に痛いほどだ。
・・・と突然「あらっ?!」と短く叫び、急いで白い梯子を下り、窓辺のベンチ棚に座った。

「ああ、このベンチ棚はこうして使うわけね!!」

奈緒の快活な身のこなしに驚きながら、和久はゆるゆると梯子を下りていき、ファッション雑誌を1冊手渡した。

「ふふ。ここで読書をするのも素敵ね」
「ここはベンチになっていますが、棚も兼ねてます。
 棚に本やCDを並べておけば、座ったまま取ることができます」
「だからベンチ棚っていうのか」
「川にはカモの親子がいるので、それを眺めているだけでも飽きませんし、春になると…」
「あっ。桜が見えるのね!」
「ご明察!」

ふたりは声をそろえて笑った。

「こっちのスペースは何かしら?」

奈緒はベンチ棚の隣にある引き戸を開けようとした。

「そちらをご覧いただくときは、これが必要です」

和久はそう言って、いつの間に用意したのか、冷えたビールを奈緒に手渡した。
奈緒は不思議そうな顔をしながら扉を開けた。

「あら、ここは何?」
「こちらはパウダールームです。
 右側を見てください」

「ああ、ここにお風呂があるのね」
「そうなんです。
 バスルームは1216サイズとかなりゆったりしたつくりになっています」
「それだけあったら半身浴もゆっくり楽しめるわ」
「そうですね。そして半身浴を楽しんだあとは…」

ふたりは同時に奈緒が持っているものに目をやり、声をそろえる。

「冷えたビール!」

そう言って一緒に笑った。

「この間取りならお風呂からあがってすぐ川風にあたってビールをグイっといけるでしょう?」
「うん、いける!」

奈緒はそんな自分の姿を夢想した。確かに気持ちよさそうだ。

「現実的な話に戻りますが、窓の脇には室内物干しがついていますから、洗濯物を干すこともできます」
「なるほど。この部屋にはバルコニーがないなと思ったのだけど、ここがインナーバルコニーになっているというわけね」

「洗濯機置場はパウダールーム内にあるから、洗ってすぐ干せるのも便利ですよ」
「なるほど」
「浴室乾燥機を使って干すのもいいですが、自然乾燥も選べるってところがいいでしょう。
 南向きで陽当たりもいいからすぐ乾くと思いますよ」
「ええ、確かに」
「洗濯機置場の奥にあるのは電気温水器です。
 このマンションはオール電化になっていてお湯は深夜電力を使って沸かします。
 ガス代がかからず、電気代も節約できるように工夫されています。
 生活費が安くなった分、ビールをいっぱい買えます」

和久の口がだんだん早くなってくる。

「ついでに言いますと、インターネットとWi-Fiも無料で利用できます。
 インターネットは最大速度が1Gbpsまで出ますので、動画もサクサク見られます。
 通信費が安くなった分、ビールがいっぱい買えます」
「あの・・・ビールじゃなくてもいいですか?」
「あ、すみません。ビール、お嫌いでしたか?」
「いえ、それだけ生活費が安くなるならおつまみも買いたいなと思いました」

ふたりはまた声をそろえて笑った。

「ねぇ、ベンチ棚に座って少し考えさせてもらっていいかしら?」
「はい、どうぞゆっくり寛いで、お考えください。
 私はちょっと電話を掛けてくるので・・・」

そう言って和久は部屋を出て行った。
ひとり残り窓辺のベンチ棚に座る奈緒の横を風がそよぎ過ぎていく。
明るい陽射しを浴びた川面がきらり光を放った。

物件情報

  • 物件コード:ワク賃009
  • 住   所:東京都杉並区荻窪5丁目
  • 構   造:鉄筋コンクリート造5階建
  • 築 年 月:2017年6月
  • 専 有 面 積 :(メゾネットタイプ)32.21㎡ (ロフトは面積に含まれません)
  • 間 取 り:1LDK+ロフト
  • 共 用 部 分:オートロック・防犯カメラ・エレベータ・宅配ボックス・メールボックス・ダストボックス
  • 専 有 部 分:インターネット・Wi-Fi無料・オール電化・システムキッチン(W1350・2口IHクッキングヒーター)・バストイレ別・バス(追い焚き機能・浴室乾燥機付き)・シャワートイレ・独立洗面台・エアコン2台・フローリング・TVモニターホン・室内照明・室内物干し・Wロックシステム(デジタルキー&ディンプルキー)・ペアガラス・窓辺のベンチ棚

募集条件

  • メゾネットタイプのお部屋は賃料が13万円~14万円、共益費が8,000円となっています。
  • メゾネット以外のお部屋は賃料が11万円台後半~13万円台前半、共益費は同じく8,000円です。
  • 入居者は、インターネット(光回線)が無料で利用可能。
  • 敷金・礼金は賃料の1ヵ月分ずつ。
  • ほかに火災保険加入料、仲介手数料などがかかります。
  • 「空室が出たら連絡がほしい!」という方は
    「お問合せ」ページを利用してご登録ください。
    空室が出た場合と、類似のワクワク賃貸®物件ができたときのみ、ご連絡いたします。

企画・構成:武田直樹
編集:久保田大介

  • この記事を書いた人

武田 直樹

フリーランスの脚本家・演出家・演技講師 主な作品に、ちびまる子ちゃんミュージカルの脚本・演出(全国・上海・北京・香港・深圳・蘇州・広州・台湾・マカオほか)、ケロロ軍曹ミュージカルの脚本・演出(全国)、愛・地球博閉幕1周年記念ミュージカル「あした」作・演出(名古屋)、EXPOマスコットミュージカル「mañana」作・演出(サラゴサ万博)、デジタルサイネージミュージカル「ココロのまほう」作・演出・総監督(上海万博)など。著書に「お値うち!ぜーたく地球旅」(三一書房)がある。 18才の間借生活から、51才の現在のファミリーマンション住まいまで、賃貸生活歴33年。まだまだ続きそう。

-案内人 和久幸太郎

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