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DIYでツリーハウスを30棟建てたひと《ワクワク賃貸妄想中》

 

〈番外編001〉

佐藤さとるの童話『おおきなきがほしい』(1971年 偕成社刊)をご存じだろうか?

幼稚園児のかおる君がツリーハウスを夢想する物語で、僕はたぶん通っていた幼稚園で読んだように思うが、そのときのワクワクした気持ちはいまでも忘れられない。

かおる君が思い描くツリーハウスはお父さんとお母さん、かおる君と妹のかよちゃんの4人が手をつないで周りをようやく囲めるぐらいの太くて高い木につくられている。

木の幹は空洞になっていて、その中にあるはしごで上へ上へと登っていくと小屋に着く。

小屋には水道とガステーブルを備えたキッチンがあり、かおる君はここで得意のホットケーキを焼いて食べる。

かよちゃんはまだ小さく、はしごを登れないので専用のブランコをつくり、それに乗せてスルスルと小屋まで運び上げてあげる。

小屋から先にはしごはまだ続いていて、途中にはリスの家、ヤマガラなど小鳥の休息所があり、最後は小さな見晴台へ到達する。

そこから見下ろされる景色は実に雄大。その風景をかおる君は小鳥たちと一緒にうっとり眺め続ける・・・。

そんなツリーハウスの物語だ。

これはおそらく僕が初めて「ワクワク」を感じた住宅である。

子ども時代にはほかにもフジテレビのアニメ『トム・ソーヤの冒険』で登場したハックルベリー・フィンのツリーハウスに強い憧れを抱いたりしたが、そう考えると、ツリーハウスへのワクワク感は、今の仕事の原点になっている気がする。

 

さて話は昨秋(2017年)にさかのぼる。

そのころ当ウェブマガジンの構想を練っていた僕は、休憩中にネットで「ツリーハウス」のことを検索していたら、DIYで30棟ものツリーハウスをつくったというひとの記事に行きついた。

那須塩原で「おだぎりガーデン」というツリーハウス村を営んでいる小田切進さんという方なのだが、それを読んで「小田切さんに会いたい!」と強烈に思った。

お会いして、小田切さんがつくったツリーハウスをこの目で見てみたい。

そのツリーハウスは宿泊できるとあったので、ツリーハウスでの「生活」も体感してみたい。

そう考えたらもう矢も楯もたまらなくなり、すぐさま小田切さんご本人に連絡した。

電話をしたのは10月下旬で、「11月3日に宿泊したい」と伝えると、

「11月はもうかなり寒くなっているから閉めようと思っていたのだけど、今年はもう1組泊まりたいという人がいるから、オープンしますよ」

と気さくに言ってくださった。

僕はすぐにアウトドア好きの友人に連絡し、一緒に旅に出ることにした。

小田切さんのツリーハウス村は東北新幹線の「那須塩原」駅で下車し、それから車で40分ほど走ったところにあった。

道路(と言っても広大な畑のなかの脇道)沿いに平家があり、そこに受付という看板が掲げられているのだが、呼び鈴を押しても誰も出てこない。

近くで電気のこぎりで木を切っている音がするので、その方向へ歩いていくと、高齢の男性を発見した。

この方がお会いしたかった小田切さんご本人で、ちょうど電灯をつくっておられるところだった。

小田切さんは作業の手を止め、僕と友人が泊まるA棟に案内してくれた。

道すがら、「おだぎりガーデン」の施設についてさらりと説明してくださったが、必要以上に営業用スマイルを振りまくようなことはされない。

この感じ、何かに似てるなと思ったら、新築やリフォーム工事の現場で作業をしている職人さんに現場を見せてもらっているときに近いと気づいた。

案内はてきぱき終わらせて、早く作業の続きをしたい。そんなふうに考えておられるんじゃないかと思わせる様子なのだ。

でも悪い印象はまるでない。かえって「作業中お邪魔してすみません」と謝ってしまったぐらいだ(笑)。

案内して連れて来てくださったA棟は、小田切さんがつくった記念すべき第一号のツリーハウスである。

縁あって1万坪ある雑木林を購入することになった小田切さんは、最初、普通のキャンプ場にしようと考えた。でもそれではありきたりだからとツリーハウスをつくることを思い立ち、手始めに1棟建ててみたら面白くなってしまい、次から次へとつくり続け今に至る。

「全部で何棟あるのですか?」と質問すると「30ぐらい」とボソリとお答えになられた。ご自身でも正確な数がわからないのかもしれないし、答えるのが面倒なだけかもしれない。

小田切さんをあまりお引き留めしては悪いので、鍵を受け取って作業に戻っていただき、さっそくツリーハウスの中に入る。

ツリーハウスには木の階段を使って上がる。

階段は大人が登っても窮屈に感じないだけのゆとりがあり、ステップも平たんにしてくれているので怖さはない。

階段を登り切って最初に目に入るのがこのデッキだ。

デッキは小屋の周囲をぐるりとめぐっている。

ただ小屋をつくるのでなく、快適さも求めているところに小田切さんのセンスの良さが伺える。

玄関扉までは短い渡り廊下を歩いていく。

この渡り廊下も頑丈に作られていて、木の上に建てられているという不安を感じさせない。

廊下からにょっきり出ている枝々が安定感を演出しているように思う。

ツリーハウスの玄関扉はガラス製で、一応鍵もついている。

泥棒がやって来るとしたら扉や窓のガラスを割って入るだろうから、鍵はあんまり意味がないと思ったが気は心だ。

ツリーハウスのなかは8畳ぐらいのサイズで、四方に大きな窓があるので、とても広く感じる。

写真をご覧いただくとわかると思うが、とても緻密につくられていて、素人がDIYでつくったものには見えない。

小田切さんは元・大工ではないそうだけど、それって本当かな?と疑問に感じてしまうほど見事な出来栄えだ。

ツリーハウスは当然ながら窓からの眺望が素晴らしい。

普通の家の2階から眺める風景と、ツリーハウスから眺める風景と、高さ的にはさほど変わらないはずなのに、爽快感がまるで違うのが不思議だ。

自分が鳥になって、木の枝にとまって眺めているような気分になるからだろうか?

こちらは夜に撮影したものだが、室内や階段にもちゃんと照明(裸電球)がついている。

小田切さんは電気工事の資格も取得されたそうで、この照明設置はご自身でなさった。

話は少しそれるが、このA棟をつくった時分はまだ重機を持ってなくて、板材やサッシはひとりで木の上に持ち上げたと伺った。何だかすごい話である。

室内には水道とガスコンロはないので、「おおきなきがほしい」のかおる君のように小屋の中でホットケーキを焼くことはできない。

調理はツリーハウスの下にある炊事場などで行う。

ここで薪をくべ火をおこし、バーベキューをする。

ツリーハウス村には共用のキッチン棟(もちろん小田切さんがDIYで建てたもの)があり、冷蔵庫のほかに電子レンジ、ガス台などが一通り揃っているので、普通に料理をすることもできる。

少し長めに滞在するとき、食事のたびに火をおこすのは面倒だから、このキッチン棟は重宝するはずだ。

こちらはトイレ棟(敷地内に複数ある)。

ちゃんと水洗式になっていて、お尻を洗浄する機能はないがウォームレットがついている。

掃除もけっこう行き届いていて、キャンプ場にありがちな不潔感がない。

 

あと、「おだぎりガーデン」には入浴施設がない。

お風呂に入りたい人には、提携している近隣ホテルの大浴場の大幅割引チケットが渡される。

もっとも那須塩原は有名な温泉地。日帰り入浴できる有名な温泉がいっぱいあり、それらを渡り歩いたので、僕はそのチケットを使わなかった。

そう考えると敷地内にお風呂を設ける必要はない。

夏なら水浴びで済ませてしまう人も大勢いるだろう。

以上が「おだぎりガーデン」のツリーハウスの全体像だが、こうして整理してみると、ここで暮らそうとしたら、かなり余裕で可能だと思われる。

今回泊まったのは11月3日で、高原地だから朝晩の冷え込みはけっこうきつかった。しかし厚着して、寝るときは寝袋にくるまれば大丈夫、寒さはさほど感じない。

真冬はこのままではさすがに無理だろうけど、もう少し電気容量を増して暖房も使えるようになったらオールシーズン暮らせてしまう気がする(夏用の冷房は要らないはずだ)。

今はまだ建築基準法の範疇にはおさまらないだろうが、ツリーハウスが賃貸住宅として提供されることになる日もやがてやってくるかもしれない。

山林につくられるツリーハウスが「駅徒歩〇分」というような賃貸マンションなどと並んで住宅情報サイトに並んだら、とても愉快だろう。

さて最後にひとつ、この旅で僕がしでかした最大の「ヘマ」をお伝えしたい。

「おだぎりガーデン」の入口付近にある小田切さんのご自宅(受付棟兼用の平屋)のことだ。

チェックアウトをして宿泊料金を支払う際、中に入れていただき部屋の様子を見ていたら、妙な違和感を覚えた。ちょっと変わった造りをしているのだ。

この家も小田切さんがつくったに違いないと思い、水を向けたが、小田切さんは口を開いてくださらなかった。

しかし帰宅したあともずっと気になったので、ネットで調べ直すと、何と古い電車をつなぎあわせて、DIYで住宅にリノベーションした家だと紹介している記事を発見した。

目の前にあったすごいワクワク住宅を僕はあっさりスルーしてしまったのだ。

ああ、ちゃんと事前に調べていくべきだった、もっと見させていただくべきだったとひどく後悔した。

以前、「世界のワクワク住宅」でバスをリノベーションしたイスラエルの女性2人の話を紹介したが、この電車リノベもすごく面白い話だ。

もう一度お邪魔して、今度は電車リノベの話を詳しく聴いてみたいと思う。

 

小田切さんはかおる君のような自由でやわらかい発想力をご高齢になってもずっと保ち続け、電気工事の資格を取り、重機も扱えるようになり、DIYでこの素晴らしいツリーハウス村をつくりあげられた。

『北の国から』の黒板五郎みたいな方だ。

今日もきっとお元気で、黙々と作業を続けておられるだろう。

この次訪問したとき、この村がどんな進化をとげているか、とても楽しみだ。

文責・撮影:久保田大介

ツリーハウスvillage「おだぎりガーデン」

所在:栃木県那須郡那須町大字高久丙4597-12

電話:090-3316-0475

URL:http://www13.plala.or.jp/nasu-treehouse/index.html