《 世界のワクワク住宅 》Vol.014

350万個のレゴブロックを2000人の手で組み立てた家<レゴハウス> 〜サリー州(イギリス)〜

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イギリス・サリー州にある国内最大のワイナリー、デンビーズ・ワイン・エステート。2009年夏、緑生い茂るこの敷地の一角にひときわ目を引くカラフルな二階建ての家がお目見えした。

外壁は、赤、黄、黒、青、白の横縞模様。太陽の光を受けると、艶のある質感。でもよく見ると、無数の細かい繋ぎ目がある。これってもしかして?

そう。答えは、レゴブロック。なんとこの家、350万個のレゴを組み合わせたものなのだ。

説明するまでもないが、レゴとはプラスチック製ブロック。上部についた突起(スタッド)と下部の空洞が結合することで、組み立てが無限に広がる知育玩具の一種だ。デンマークの小さな木工所としてスタートしたおもちゃ会社のレゴが1958年に製造を始め、世界中に普及させた。昨年秋には、レゴ本社のあるビルンにアトラクション型「レゴハウス」が誕生したばかりだというから、その人気と需要は未だ衰えていないようだ。

レゴはモジュール式、つまり交換可能な構成単位から成るおもちゃである。繋ぎ目をずらしながら積み上げていくという基本原理は伝統的な粘土質煉瓦と変わらない。ならば、レゴを使って本物の家を建てられないだろうか?

そう考えたのは、イギリスのテレビ司会者、ジェームズ・メイ。

メイは、BBC製作の人気テレビシリーズ『ジェームズ・メイのトイ・ストーリー』のホスト役として知られる。番組では子供用玩具を用いていくつもの型破りな挑戦をしてきた。粘土で草花を成形した庭を作ったり、メカノ(金属製組み立て玩具)を使って運河に橋を渡したり。イギリスの二都市の間をホーンビィの線路模型で繋ぎ、おもちゃの鉄道を走らせたこともあった。

中でもこのレゴの家を作る企画は、多くの人を巻き込む壮大なプロジェクトとなった。メイは、単に三角屋根のおもちゃの家を拡大するのではなく、レゴ自体の属性——色、質感、構造上の特徴——を存分に生かす建物を追求した。

まずメイは、設計事務所のバーナビー・ガニング・アソシエイツと、構造工学設計を専門とするアトリエ・ワンに協力を仰ぐ。大勢の手を借りなければレゴの組み立てが不可能と考えた建築家のガニングは一般の参加者を集うこと、そしてそれぞれが組み立てるパーツを統合していくことで家を完成させるという青写真を描いた。

2000人のボランティアが招集された「集団製作」の当日。イギリスの夏場特有の大雨に見舞われたが、老若男女が長い列をなして参加を望んだ。まずは34個のレゴで長方形を作り、それを8段積んだ、計272個からなる枠状の「レゴ煉瓦」を基本の構造単位とした。

「テレビ番組の気まぐれな企画だと思ったものが、とても真剣なデザインと構造工学の実践になったんだ。伝統的なおもちゃを通してさまざまな世代が協働するのを目の当たりにした。二つのレゴピースをカチッと組むほど、いとも簡単にみんなが繋がっていったんだ」とガニングは回想する。なんだか楽しそう!

その後、約6週間に渡りボランティアがチームに分かれ、数千個の小さな塊を製作。それをどんどん繋げて壁や柱を立ち上げていった。

さて、実際にレゴは住宅の構造材として使えたのだろうか?

そもそも3歳児の握力ではずせるように作られているレゴ。当然、長く繋げるほどその強度は下がる。そこでアトリエ・ワンがレゴプレート(基礎盤)を使って、床板や天井を支える根太や小梁を考案した。いくつものプロトタイプを製作し、最終的には10段×2メートルの長さ分で住人となるメイの85キロの体重を支えられるだけのものが仕上がった。

一方で、テレビ番組の企画としてレゴハウスに保険もかけなくてはならない。当然、前例がないので保険のかけようがない。そこでガニングは軸材を木で作り、その周りにレゴを組み立てていくことを考えた。そうすれば保険に適する建造物でありながら、レゴは木材に触れることなく積み上げられるので、確かに自立したレゴハウスとなるというわけだ。

こうした手堅い計算と実践に柔らかな遊び心を吹き込んだのは、インテリアデザイナーのクリスティーナ・ファラ。家具、小物類、室内の壁面などをレゴの色彩でモダンに仕上げた。テーブルに置かれた新聞紙(やたらと角ばった体つきのモデルの広告付き)からメイのペットをモデルにした「レゴ猫」まで、くすりと笑えるディテールが散りばめられた。

窓は外壁に大きな開口部を作り、透明なレゴをはめ込むことで実現。周囲のレゴの色を反射しながら透過する光が室内を明るく照らした。

家にあったレゴを持ち込んだボランティアもいたが、それらは階段先の壁にランダムにはめ込まれることで十分に役目を果たした。「ステンドグラスのような美しい壁面が出来上がったよ」と、ガニングは満足気だ。

実はメイ、たった一日しかこのレゴハウスに住むことはなかった。ぶどうの収穫時期を間近に控えたワイナリーが土地の返却を求めてきたのだ。ウィンザーにあるレゴランドへの移送はコストの関係で叶わず、建物の買取りをフェイスブックで呼びかけるも、最後まで手をあげる人は現れなかった。

そうしてレゴハウスはいとも簡単に、そしてドラマチックに解体された。350万個のレゴはチャリティー団体に寄付されたそう。(レゴ猫をこっそり持ち帰った人がいるらしいので、彼はまだどこかにいるはず)。

レゴの無限の可能性のみならず、住宅建材の再利用性など「未来の家」をも想起させたレゴハウス。田園の地にしばし出現した家は、人々に多くの思い出と課題を残したのである。

Architect: Barnaby Gunning Studio Ltd.

Client: James May / Plum Pictures

Interior Design: Christina Fallah

Lighting Design: Lightplan 

Structural Engineers: Atelier One

写真・出典/all images and sources from Barnaby Gunning Studio Ltd.

文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

 

  • この記事を書いた人

河野 晴子

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文にエイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。夫、娘、猫と都内に在住。

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