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自宅地下室に実物大車両を再現、鉄道オタクの夢のプロジェクト!<トレイン・イン・ザ・ベイスメント> 〜オンタリオ(カナダ)〜

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カナダのオンタリオ州、ヴォーン市。ここに、自宅の地下室に旅客列車の実物大模型を作ってしまった一人の男性がいる。 「誰しも自分のお気に入りの場所を持っている。ストレスも悩みも溶けてなくなってしまうような、落ち着ける場所。僕にとってそれは子供の頃に乗った列車の中だ。今、自分の家にこの特別な場所がある」と彼は言う。 まさに鉄道好きにとっての夢のプロジェクト! まずは、その原点を紐解いてみよう。

今から遡ること31年の1987年。カナダのトロントに住む12歳のジェイソン・シュロン君は国営のVIA鉄道宛に手紙を書き、こう尋ねる——「列車の座席を手に入れるには、どうしたらいいですか」。

1980年当時のジェイソンと、その頃よく乗車していたターボトレイン

少年の夢は大好きな鉄道車両のパーツを手に入れること。モントリオールに住む祖母に会うため高速のターボトレインに頻繁に乗車することをきっかけに、鉄道にのめり込んでいたのだ。

VIA鉄道からジェイソン少年(1987年当時)への断りの手紙。「残念ながら、一般の方への座席の譲渡や売却はしておりません。代わりにVIA鉄道の最新のパンフレットを同封いたします」と書かれている。

VIA鉄道からは座席の譲渡や売却はしていないという返答があったものの、ジェイソン少年の夢は膨らむばかり。その願いがようやく叶ったのは、およそ10年後。VIAの車両補修センターの廃品の山から座席を持ち帰ることができたのだ(もちろん許可を得て)。その後もスクラップ前の車両からさまざまなパーツを引き取るなどして、徐々にコレクションを増やしていった。

地下室の北側の壁を壊し、新たな壁を造作。この壁はその後二回作り直している。

しかし当然ながら、この特殊なコレクションにはそれ相応の置き場所が必要だった。そこでジェイソンが思いついたのは、いつか車両そのものを家の中に再現すること。

大人になり妻と新居を探す際には、とにかく地下室の形状にこだわった。仲介業者が苦労して探し出したのは、後方が一段低くなっている地下室つきの物件。この3.6×6メートルのスペースの天井高は約2.7メートル。ここに車両がすっぽり入るという試算で、ジェイソンは購入を即決する。

2008年5月から地下室の改造を開始。まず既存の壁をぶち抜き、木材で車両の側面と床を再現した。すでに入手していた列車ドアはかなりの重量。戸口の側柱を地下室の天井の梁に直接固定するなど工夫を凝らした。翌年にはデッキを再現。角が湾曲した天井部分が作られると、いよいよ列車らしい形状が見えてきた。

カナダ東部のモンクトンに長年置かれていたVIA車両。特徴は青と黄色の車体。

2010年、転機が訪れる。観光列車を運行するロッキー・マウンテニア社から、使われていない車両を譲り受ける話が浮上する。

それは1954年にカナダ国鉄の列車として作られ、1980年代に件のVIA鉄道が運行していた旅客列車の「5647号車」。1990年代後半に観光列車に作り変える計画が頓挫し、その後10年以上もの間、東部の都市モンクトンに放置されていたのだ。車両を丸ごと動かすには多額の費用がかかる。そこでジェイソンは仲間とともに現地に入り、可能な限り車両を解体。たくさんのパーツを持ち帰った。

座席4組、荷物棚、デッキ、折れ戸。さらには、ゴミ箱、コート掛け、照明器具、救命キットといった小物類まで。「70年代のグルーヴィーな(イカした)デザインのカーペットも持って帰ったよ」とジェイソン。

5647号車の一角(上図の黄色い部分、約6メートル幅)を地下室に余さず組み込むには、それまで作り込んでいた大部分をやり直す必要もあり、結局4年半かかった。

徹底したディテールの再現の一方で、ジェイソンは遊び心も忘れない。トイレは再現せず、代わりにレコードのコレクションとターンテーブルを置いた。「まったりと音楽でも聴こうと思っていたけど、結局は列車の走行音を流しているよ」と笑う。ドアの向こうには、隣の車両を思わせる写真パネルを貼った。

「あの時僕らが行かなければ、VIA列車そのものがゴミとなるところだった。この座席も、壁も、ドアも、天井パネルも、ずっとカナダを横断し、人々の歴史を見つめてきたんだ。それを再現できたことを光栄に思う。ここに座ると、自分の足元から40年の歴史を感じることができるんだ」とジェイソンは振り返る。

さて、音も埃も立てながら何年もこの模型部屋の制作に没頭してきたジェイソン。彼の妻、シドゥラはどう思っているのだろうか。

「私はrail nut (鉄道オタク)と結婚したの。夫は美術史の修士課程を中退して、鉄道模型を製造する会社を始めたほど。辛抱強い妻だってよく言われるけど、彼を見ていて学んだわ。幸せは他人の価値観では測れないということを。このプロジェクトはジェイソンに計り知れないほどの喜びを与えている。子どもたちの想像力も掻き立てている。どんな家でも目に見えているものので、何か素晴らしいことが起きていると思わせてくれるの」。

ジェイソンの「トレイン・イン・ザ・ベイスメント」。それは尽きることのない列車愛と理解ある妻が可能にした、まさにlabor of love(愛に溢れた労働)なのである。

*「トレイン・イン・ザ・ベイスメント」のビデオはこちらから。

The Guy with the Train in his Basement

写真/all images from “Coach 5647 The VIA Train in a Vaughan Basement” KingstonSub.com

and the video “The Guy with the Train in his Basement

出典/sources: Jason Shron

文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

 

  • この記事を書いた人

河野 晴子

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文にエイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。夫、娘、猫と都内に在住。

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