《 菓子工房賃貸推進プロジェクト 》Vol.013

菓子工房シェアのご提案

投稿日:2023年6月1日 更新日:

菓子工房シェアとは?

「菓子工房賃貸推進プロジェクト」第13回目となる今回は、自前の菓子工房を持つための方策のひとつとして「菓子工房シェア」という新しい切り口をご提案したいと思います。
菓子工房シェアと聞いて、「シェアキッチンのこと?」と思われた方も多いのではないかと思いますが、シェアキッチンとは違います。
シェアキッチンは運営事業者がいて、会員になっている方たちが一日単位や時間単位でキッチンを利用しますが、菓子工房シェアはひとつの菓子工房を特定の誰かとシェアをするという方法です。
言ってみれば、シェアハウスとルームシェアの違いと一緒です。
もっとも、シェアハウスとルームシェアを混同される方が少なくないので、このたとえではまだわかりづらいかもしれません。
そこで、菓子工房シェアのメリット、デメリットをご紹介しながら、シェアキッチンとの違いも詳しく説明していきたいと思います。

菓子工房シェアのメリット

菓子工房シェアの一番のメリットは、24時間いつでも好きなときに使えるということです。
シェアキッチンは多数の会員が予約をして利用するため、使いたい日時に先約があれば利用できませんが、菓子工房シェアは2人ないし3人程度のシェアメイトと一緒に同じ工房を使うので、必要なときは確実に使うことができます。
また「シェア」とは言っても自分の城ですから、自分の調理道具や材料をずっと置いたままにしておけます。
つくるお菓子によって道具や機具は異なるので、シェアキッチンの場合は利用するときに自前の道具を持ち込まなければならないことが多いけれど、菓子工房は堂々と置きっぱなしにできます。
調理道具だけでなく、小麦粉などの材料もストックしておくことができますし、冷蔵庫につくったお菓子や調味料などを入れたままにできるので、作業効率は格段に良くなることと思います。

シェアキッチンは利用時間に応じて利用料が課されますが、菓子工房シェアはオーナーに家賃を支払います。立地が良く、広さも十分にあるスペースの場合、家賃も高くなるけれど、家賃はシェアメイトと等分できるため、経済的な負担が大幅に軽減されます。
たとえば家賃が10万円のスペースでも、2人でシェアすれば5万円ずつで済みます。これは大きいですよね。
経済的な負担という点で言うと、菓子工房にするにあたり、キッチンや手洗い、トイレを増設するなど、初期投資が必要なことが多いですが、シェアメイトと一緒に出し合えば、初期投資の負担もずいぶん楽になります。
将来、シェア利用を解消するときに、この投資分をどうするかという課題はありますが、これはいくらでも解決の方法はあります。

ほかにも、「悩みや不安を分かち合える」、「商品開発や販売戦略を協力しあえる」、「マルシェの企画がしやすくなる」など、ソフト面でのメリットも大きいでしょう。
保健所からの菓子製造許可は、それぞれが個別に取ることになりますし、経営は別ですから一蓮托生というわけではないけれど、同じ志を持った仲間がそばにいると、きっと心強いと思います。

菓子工房シェアのデメリット

菓子工房シェアのデメリットも列挙しておきましょう。
真っ先に挙げられるのは、ひとりで使う気楽さはないということです。
シェアキッチンであれば、予約している時間帯は自分一人で利用できますが、菓子工房シェアはシェアメイトが同じ時間帯に作業しているということが普通にあります。
利用する曜日や時間帯を分けるという方法もあるけれど、それではシェアキッチンとの差が少なくなってしまうので、少し広めのスペースを確保して、2人同時にお菓子づくりをしても大丈夫なようにすることをお薦めします。
ただ、そうなると当然、同じ場所で同時に作業しているシェアメイトに対して気を遣うことになるでしょう。
またシェアメイトが片付けや整理整頓の苦手な人だったり、おしゃべり好きでずっと話しかけられたりなど、相性の悪い相手とシェアしなければならない可能性があります。
さらには食中毒リスクという課題もあります。自分は完璧に衛生管理をしていたのに、シェアメイトがだらしなくて食中毒を引き起こしてしまったら、菓子工房全体が営業停止処分を受けるので、自分自身も一定期間使えなくなってしまいます。

これらデメリットのほうがメリットを上回ると感じたり、そもそも人がそばで作業しているのが苦手だったりするならば、菓子工房シェアはお薦めしません。
しかしデメリットの多くは、利用上のルールをお互いによく話し合い、それをしっかり守れば解決できる可能性が高い問題です。
自前の菓子工房を確保しないと、菓子製造業ができないという方同士であれば、ビジネスライクに対応できるのではないかと期待しています。

菓子工房シェアの事例

私は「菓子工房シェアには大きな可能性がある」と考え、昨年(2022年)暮れに、菓子工房シェアの運営にチャレンジしてみました。
初めての試みの舞台となったのは、Vol.006の記事で、菓子工房付き住居をつくったとご報告した東京都世田谷区の新築マンションです(「ワクワク賃貸物件集」Vol.047でもご紹介しています)。
菓子工房付き住居としたのは102号室でしたが、2階の201号室も間取図を眺めているうちに、菓子工房としてのみ利用するのであれば保健所の施設基準をほとんどクリアしていることに気が付き、オーナーに「菓子工房シェア物件として貸してみませんか?」と提案しました。
上の間取図は201号室のものですが、Room3.70Jとなっている部屋とLDKとの間には当初扉がありませんでした。ここに扉さえつければ、Room3.70Jが前室となるため、菓子製造場所としての営業許可が取れると判断し、世田谷区の保健所に相談に行きましたら、「大丈夫」と言っていただけました。
オーナーはこの提案をとても面白がってくれ、すぐにマンションの施工会社に扉設置を発注してくださいました。

その後、見学会にお越しくださった空き待ち登録者さんなどにピンポイントでご連絡し、菓子工房シェアの企画を説明したところ、お二人の方が「是非やってみたいです!」と名乗りを上げてくださり、オーナーも交えて一緒に契約やルールづくりに取り組みました。
契約締結後、お二人はそれぞれ世田谷区の保健所に営業許可の申請をし、無事に承認され、現在、201号室をシェアして使っておられます。

光熱費はオーナーが一時的に負担し、共益費として徴収することにしたり、菓子工房シェアのための賃貸借契約書を私が弁護士と相談しながら作成したり、損害保険もビジネスパートナーにアレンジしていただいたりなど、いくつかあった実務上の課題も解決することができました。
まだこれから問題は浮上してくるかと思いますが、「あとは走りながら考えるほかないね」とオーナーやビジネスパートナーたちと話しています。

菓子工房シェアメイトのマッチング

菓子工房シェアは、シェアキッチンでは不足して、自分の城を持ちたいと思っている方たちにとって有効な方法のひとつだと考えているので、興味を持たれた方はお菓子づくりの学校や教室、マルシェなどで知り合った方などに一度話を持ちかけてみてはいかがでしょうか?
ただ、誰もがシェアメイトをすぐに見つけられるとは限りません。同時に自前の菓子工房を必要としているというタイミングの問題もありますし、希望エリアが一致する確率も高いとは言えないでしょう。
そこで当プロジェクトでは、菓子工房シェアに関心があるという方たちのご登録も受け付けていくことにしました。
希望のエリア、負担できる家賃の上限、必要とする広さなどを具体的にお知らせいただけたら、その条件に該当する物件をつくったり、募集の依頼をオーナーから頂戴したりしたときに、ピンポイントでお知らせするようにしたいと思っています。
マッチングに際しては、いきなり契約をしてしまうのではなく、オンラインなどで面談をし、お互いの相性や考え方などをまず確かめ合い、合いそうだなと感じていただいたら、スタートするようにします。
また、先の菓子工房シェアの事例では、スタート時に契約期間3ヵ月の定期借家契約を締結しました。
どちらかに(あるいはどちらともに)問題があり、シェアの継続が難しいと判断された場合は、解約をしやすくするためです。
私もまだ手探りの状態ですが、一緒に話し合いながら、良いスタイルを作り上げていきたいと思っています。
関心のある方は是非「菓子工房シェア希望」としてご登録ください。
すでに「菓子工房」に空き待ち登録してくださっている方々も、あらためてシェアの希望をメール等でお寄せいただけたら幸いです。
質問も随時受け付けていますので、気軽にご相談ください。
皆様からのご連絡をお待ちしています。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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