使われていなかった空き家が菓子工房に!
今年(2024年)5月30日に「菓子工房賃貸推進プロジェクト」Vol.021『空き家の所有者さんと菓子工房を持ちたい方をマッチング!~東京都豊島区にある空き家・「弥生荘」を菓子工房にしたい方、募集中』という記事を配信しました。
JR山手線「池袋」駅から徒歩16分、東武東上線「北池袋」駅から徒歩9分という恵まれた立地にありながら空き家となっていた「弥生荘」を菓子工房にしませんか?とお呼びかけする記事で、専有面積50.41㎡ある1階を菓子工房にしていただくほか、2階の一部(専有面積26.45㎡)も住居としてご利用したい方があればご利用いただきたい。1階だけなら6万円、2階もセットの場合は10万円という格安の賃料で提供くださいますという記事を配信しました。
それを読んで、4組の方が現地説明会にお越しくださり、そのうち3名の方から入居申込みをいただけるという反響ぶりで、最終的に1階・2階をセットで利用することをご希望くださったOさん(仮名)と賃貸借契約を締結しました。
今回は、完成した菓子工房をご覧いただくとともに、菓子工房ができあがるまでのプロセスについて、お伝えしたいと思います。
家具・家電がそのまま残されていた空き家が、いかにして菓子工房に変わっていったか、詳しくご紹介いたします。
菓子工房になった「弥生荘」
はじめに、「弥生荘」1階のもともとの間取図(上図)と、最後にまとまった菓子工房プラン(下図)をご覧ください。
今回、賃借してくださったOさんは、5年間の定期借家契約を締結されましたが、借りられる期間に限りがあることから、手を加える範囲は必要最小限に絞られました。
オーナーさんは契約開始後6ヵ月間をフリーレントとしてくださり、月額賃料は10万円なので10万円✕6ヵ月=60万円が浮くことになるので、その金額をひとつの目安に菓子工房にリフォームすることにされました。
1階のダイニングキッチンと、そこに連なる4.5畳の和室を菓子工房にしましたが、ダイニングキッチンの床はところどころに傷みがあり、また畳は菓子工房の床材としては認められていないので、下地をつくって合板を張り、その上にクッションフロアを貼りました。
キッチンは元からあったものを使うことにし、冷蔵庫が置かれていた場所に手洗いのシンクを新設しました。
調理用のシンクと手洗い用のシンクの水栓は、ともにレバーハンドルにしています。
ガス給湯器は、手の甲を使ってボタンを押せばお湯が出るので、「レバーハンドルとする必要なし」と池袋保健所のご担当者に言っていただけました。
またガステーブルは処分し、IHクッキングヒーターを設置しました。
そのほか、既存の食器棚や冷蔵庫はオーナーさんに処分してもらい、Oさんご自身で新しい冷蔵庫と食器棚を設置。またフードドライヤーやオーブンレンジ、発酵機などを新調されました。
トイレは菓子工房スペースの外にあるので、前室を設けずそのまま利用できました。
トイレ使用後の手洗いは、洗濯機横の洗面台を使うことにし、水栓をレバーハンドルに変更しました。
Oさんは、菓子工房にするために必要なことは全て施工しましたが、それ以外はきれいに掃除をし、そのままのかたちで使うことにされました。
その結果、新しく購入した設備や食器棚、作業テーブルなどを除き、菓子工房にするためのリフォーム工事費用はフリーレントにしていただいた分の範囲内でおさまりました。
「弥生荘」が菓子工房になるまで
次に、「弥生荘」が菓子工房になるまでのプロセスをお伝えします。
国内には家具・家電の多くが残されたまま、使われていない家屋が非常に多く実在しますが、それらが菓子工房として有効活用される機会が増えていくことを願って、記録として残しておきたいと思います。
第一段階:家具・家電等処分の見積り
最初に行ったことは、「弥生荘」に残された家具・家電や衣服、書籍などの荷物を処分するのにどれぐらいの費用がかかるのか、専門業者さんに見積りをとっていただくことでした。
処分費はオーナーさんにご負担いただく考えでしたが、あまりに多額では計画を進めづらくなります。
オーナーさんには残しておきたい物(=自宅に持っていく物)に大きな付箋を張ってもらい、それ以外の物は全て処分するという前提で見積りを依頼。
結果、オーナーさんが無理なく負担できる範囲でおさまることがわかり、次のステップに進むことができました。
第二段階:入居者さん探し
続いて「菓子工房賃貸推進プロジェクト」でこの企画の紹介記事を配信し、「菓子工房」で空き待ち登録してくださっている方たちにご案内しました。
家具・家電等を処分するのには費用がかかりますが、どなたも借りてくださらないのであれば、処分せずそのままにしておけばよいわけなので、まずは借り手を探すことをご提案したのです。
その結果、4組の方が内見をご希望くださり、本年(2024年)6月9日(日)に現地説明会を開催しました。
現地説明会にはオーナーさん、企画者のひとりであるハウスメイトマネジメントの伊部尚子さん、私が説明者として参加し、このプロジェクトの主旨や菓子工房にするために必要な工事、契約条件などについて説明しました。
内見くださった4組の方々からもたくさんの質問を頂戴でき、オーナーさんとも顔合わせをしていただけたので、非常に有意義な会となりました。
説明会を受けて、入居申込みをするかどうかご検討いただくことにし散会し、すぐに3組の方が申込みをしてくださいました。
どなたに借りていただいても問題ないほど、素晴らしい方ばかりで、オーナーさんも非常に迷われましたが、1階と2階をセットで借りることをご希望くださったOさんと今回は賃貸借契約を締結することにいたしました。
第三段階:菓子工房のプランニング
私は「菓子工房賃貸推進プロジェクト」Vol.021の記事を書く前に、池袋保健所を訪ね、自分が考えているプラン通りに菓子工房をつくれば、営業許可をいただけるものかどうか、相談をしていました。
しかし、現地説明会を開催した際、ガス給湯器はそのままで大丈夫かどうかなど、いくつか疑問点が出てきたので、もう一度相談に行き、すっきり解決。
それをふまえて、Oさんと契約を締結する前に、私のほうで工事業者さんをご紹介し、現地で菓子工房にするための見積り打合せを行いました。
その日はオーナーさんも同席くださり、オーナーさんが「弥生荘」に残してあるものでOさんが欲しいものがあれば処分せずさしあげると言われ、その選定もしてもらいました。
その後、工事業者と打合せた結果をもとに最終プランを作成し、Oさんと一緒にもう一度池袋保健所に相談に行きました。
私たちが考えたプランは概ね問題なかったのですが、床の上に敷こうと考えていたフローリングマットは、水を吸ってしまう性質があったため、クッションフロアに変更することにしました。
しかしクッションフロアだと、畳の上に直接敷くことは難しいので、畳を撤去し床組みをしてもらい、その上にクッションフロアを敷いてもらう工事を追加で発注しました。
第四段階:家具・家電処分とハウスクリーニング
賃貸借契約を締結する前に、オーナーさん側は家具・家電等の処分とハウスクリーニングを行う約束をしていました。
家具・家電等の処分は従前見積りをお願いしていた業者さんに依頼し、ハウスクリーニングは私のほうで手配をしました。
借りてくださる方がいれば、オーナーさんにはこれらの費用を安心して出していただくことができます。
オーナーさんも、ずっと先延ばしにされていたことがどんどんと解決に向かっていくなかで、ヤル気スイッチが入ったようで、「弥生荘」にある荷物の整理にも熱が入り、暑い中、連日作業に通ってくださいました。
第五段階:契約締結
菓子工房のプランニングとともに、私のほうでは賃貸借契約書類をつくる準備を進めていました。
「弥生荘」を菓子工房としてご提供いただくにあたり、オーナーさん側では家具・家電等を処分し、ハウスクリーニングを行うだけで引き渡し、その後はOさん側で自由にリフォームをしてもらって構わないが、万一雨漏り等が発生しても、オーナーさんは修繕義務を負わない(雨漏りの程度がひどければ家賃減額で対処する)ことを条件としていました。
これは民法第606条の定めや消費者契約法等に抵触する可能性があるため、私の顧問弁護士に監修を願い、トラブルとならないよう特約を練り上げました。
その特約をオーナーさん、Oさんに事前に説明し、ご了承いただいたうえで、契約締結をしました。
古い空き家を賃貸物件にする際、一番ネックになるのはオーナー側の修繕義務をどこまで軽減・免除できるかだというのが、今回私の最大の学びでした。
最終段階:リフォーム工事
契約締結後、賃貸借契約の開始日をもって、菓子工房にするリフォーム工事が開始されました。
Oさんにとって想定外だったことは2つあって、ひとつは築古の家は想像以上に汚れが染み付いていて、拭き掃除に何日も費やすことになったこと、もうひとつはダイニングキッチンに貼られていたフローリング材を剥がしたら、床がかなり傷んでいて、結局床工事も必要となったことでした。
掃除の途中で心が折れかかってしまったこともあったそうです。
しかし、苦労の甲斐あって、「弥生荘」は素敵な菓子工房に生まれ変わりました。
そして、2024年9月13日に保健所の現地検査も終わり、営業許可を取得できました。
まとめ
豊島区役所の方の話によると、豊島区内にも「弥生荘」のように家具・家電が残され、使われないままになっている空き家はかなりの数あるそうです。
その有効活用の方法として、今回のプロジェクトはひとつの好事例になると思いますが、私はこの仕事に携わりながら、オーナーさん、菓子工房をつくりたい入居者さんが双方の立場や状況を理解し、積極的に歩み寄ろうという姿勢がないと難しいなと感じました。
それぞれが自分の考えを主張し、自分だけを守ろうとしたら、これはできないプロジェクトです。
間に入ったハウスメイトマネジメントの伊部尚子さんと私も、今回のオーナーさん、Oさんがお互いのことを思いやってくださる方たちだから、最後までしっかりやり遂げることができたように思います。
もしまたこの仕事をお引き受けするとしたら、オーナーさんとパートナーシップを上手に結べるかどうかが最初の判断基準となりそうです。
私としては、菓子工房を増やしていくために大切な方法のひとつだと思うので、今回の経験を活かし、頑張っていきたいと思っています。
文:久保田大介