《 DIY賃貸推進プロジェクト 》Vol.018

賃貸住宅でも壁に穴を開けたい!でも、原状回復費用はどうなる?《壁に浮いたように棚や鏡を取り付け編》

投稿日:2021年2月25日 更新日:

壁に開けてしまった穴は、退去時にどうなるのか?

「住まい手がDIYできる賃貸住宅(=DIY賃貸)を日本中に増やしていくために連載している「DIY賃貸推進プロジェクト」。第18回目となる今回はテーマが2つあります。
もともとは壁に棚や鏡を取り付ける際、取付金物が表から見えないように、かつ壁になるべく隙間なくピッタリと取り付ける方法をご紹介する予定でした。しかしDIY賃貸推進プロジェクトとしては、「賃貸住宅の壁に穴を空けてしまった場合、退去時の原状回復費用はいったいどうなってしまうのか?」という問題も一緒に考えたいと思いますので、これを2つ目のテーマとして織り交ぜながら話を進めます。

フックが見えないように箱を取り付け直したい

以前の記事「Decor Interior Tokyoに行って、もっとDIYを楽しもう!《アンティークワックス塗り編》」で、節分の豆まきに使った枡をリメイクして、石膏ボードフックで壁に取り付けました。

このようにフックが見えている状態なので、いずれはホチキスで石膏ボードに金具を留められる壁美人を使って、表から金具が見えないように取り付けようと考えていました。しかし、豆まき枡の裏側がフラットなので、どうしても金具の厚み分の隙間ができてしまいます。
なるべく隙間なく壁にピッタリと取り付けできる方法がないかを検討したところ、便利な金具を発見しました! 老舗の金具メーカーさんで、DIY用の商材も多く扱われている八幡ねじさんの「吊り下げ金具タテ」です。

これも金具自体に厚みがありますが、小さいので豆まき枡の裏側を削って金具がはまるサイズの穴を開けようと考えました。
豆まき枡をフックから外し、石膏ボードフック自体を壁から取り外していきます。

キャップを外すとこのように、石膏ボードピン3本で留まっているのがわかります。

ラジオペンチを使って石膏ボードピンを一本ずつ外していきます。

壁の穴を広げないように、ピンが刺さっている向きと逆方向にまっすぐ引っ張ります。

穴はこんな感じです。3つ開いているので結構目立ちますね。

壁に穴を開けてしまった場合の原状回復費は?

さて、壁に開けた穴があらわになったところで、ここから一旦2つ目のテーマに移り、賃貸住宅の壁にこのような穴を開けてしまった場合、退去時の原状回復費用はどうなるのかを考えていきましょう。
以前の記事「賃貸住宅の壁に穴を開けられるのか問題」を追及しよう!」では、原状回復義務の基本的な考え方の指針となっている国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」をご紹介しました。

このガイドラインでは、お部屋を借りた人の原状回復義務について「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しており、それを補修・修繕する場合の費用についてはお部屋を借りた人が負担すべきと示しています。 そして、今回の記事のテーマである壁の穴については、このように分類されています。

原状回復義務がないと考えられるもの:
壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張り替えは不要な程度のもの)

ポスターやカレンダー等の掲示は、通常の生活において行われる範疇のものであり、そのために使用した画鋲、ピン等の穴は、通常の損耗と考えられる。

原状回復義務があると考えられるもの:
壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張り替えが必要な程度のもの)

重量物の掲示等のためのくぎ、ネジ穴は、画鋲等のものに比べて深く、範囲も広いため、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる。

つまり、原状回復のための費用を負担する必要があるかないかで言えば、画鋲やピン等の穴については負担する必要はなく、くぎ穴やネジ穴については負担をする必要があるということになります。
しかし、実際にくぎ穴やネジ穴が開いていた場合に下地ボードの張り替えまで必要なことはあまりなく、私たち管理会社が実務上行う補修・修繕作業はどんなものかというと、『壁の穴を埋めて目立たなくする』のが大半です。

壁の穴を埋めて目立たなくするにはいくらかかるのか

壁の穴を埋めて目立たなくする作業とはどのようなものか、今回開いた3つの穴で実際にやってみましょう。今回の穴はくぎやネジによる穴ではなくピン穴なので原状回復義務はありませんが、補修・修繕作業自体はくぎ穴やネジ穴も似たようなものです。
今回使うのは、いつもDIYについて相談している合同会社クラディの石井麻紀子さんお薦めの「クロスの補修キット」です。賃貸住宅のリフォームをしているプロの業社さんも、似たようなものを使って壁紙の穴埋め作業をしています。

まずは穴の周辺の汚れを落とし、穴の周辺に壁紙の膨れがあれば、押して平らにします。3種類の穴埋め材の色の中から壁紙の色に一番近い色を選びましょう。今回はホワイトが良さそうです。

穴に押し込む感じで少量ずつチューブから押し出します。

ヘラを使って穴埋め材を穴の中にしっかり押し込みつつ、余分なものをすき取ります。あまり強くすき取ると穴が目立ってしまうので、手加減しながら行います。

水で濡らしたスポンジで穴周辺の壁紙に付いてしまった穴埋め材を拭い取ります。穴埋め材が壁紙に付いたままになると、乾いたときに変に光ったりゴミが付いて汚れたりして目立ってしまうので、丁寧に拭い取りましょう。

一連の作業を2回繰り返した状態です。穴がかなり目立たなくなりました。

これらの穴埋め作業を原状回復費用として負担することになった場合、いくらかかるのか気になりますよね。考え方としては、穴埋め作業に使うものの材料費+作業を行う業者さんの工事費となります。穴埋め作業だけのために業者さんが来る場合は割高になりますが、大抵は壁紙の張り替えやルームクリーニングその他の作業が一緒に行われるので、穴埋め作業自体はさほど高額にはならないと思います。ケースバイケースですが、あえて金額を示すなら2,000円前後という感じでしょうか。

壁紙を張り替えることになったらいくらかかる?

そして、穴埋めでは補修しきれず目立ってしまう状態の場合には、『壁紙を張り替える』必要があると判断されることになります。これは具体的にどういう状態かというと、穴が数多く開いていたり、大きく開いていたり、穴を開けて取り付けたものの色が壁紙に移っていたり、取り付けたものが擦れて壁紙が傷ついていたり、取り付けたものの上に長年の埃が積もって壁紙に落ちない汚れが付いたりしている場合です。
重たいものを取り付けてしまって下地ボードにヒビが入ったり割れたりしている場合は、壁紙を張り替えるだけでは補修・修繕できず、下地ボードの張り替えになる場合もありますが、そこまでの状態になることはそんなに起こりません。

壁紙の張り替えが必要になった場合、どの範囲を張り替えるのかということについても、ガイドラインに記載があります。

賃借人の負担単位等:
㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張り替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。

つまり、ネジ穴やビス穴を開けてしまって原状回復義務が発生し、穴埋め補修では目立ってしまって壁紙の張り替えが必要になった場合には、穴を開けてしまった壁の「一面単位」での張り替えが必要になるということです。
そして、壁紙には経過年数を考慮するというルールもあります。新品の壁紙を傷つけた場合と、数年経った壁紙を傷つけた場合とでは、原状回復義務も違ってくるはずだからです。

経過年数の考慮等:
6 年で残存価値 1 円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。

ガイドラインではこのような図で、経過年数と負担割合が示されています。

ガイドラインでは壁紙は6年で償却することになっており、入居開始のときに張り替えてから何年経過していたかを考慮して償却をスタートします。張り替えてから3年経ってから入居開始した場合には、スタート時に残っている価値50%からのスタートになるのです。

さて、ここまでの話をまとめましょう。ネジ穴やビス穴を開けてしまって原状回復義務が発生し、穴埋めでは補修しきれず壁紙の張り替えが必要になった場合の原状回復費用は、大体以下の2パターンに分類されます。

①壁紙を張り替えてから6年以内の場合:穴を開けてしまった壁の一面単位の張り替え代金を基礎として、6年の償却期間を考慮して残った価値分の金額。

②壁紙を張り替えてから6年以上経過し、今回開けたネジ穴やビス穴と関係ない経年劣化や自然損耗が原因で、次の人に貸すために張り替えが必要な状態の場合:原状回復費用の負担なし。

しかし、まれに次の第3のパターンになる可能性もあります。

③壁紙を張り替えてから6年以上経過していても、今回開けたネジ穴やビス穴がなければ張り替えしないで次の人に貸せそうな状態の場合:壁紙は償却終了しているため原状回復義務はないが、張り替えの工事費や人件費に原状回復義務が生じる場合がある。

この③についてはガイドラインではこのように表現されています。

経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。

つまり、「6年経った壁紙には何をしてもOKで、原状回復費用を請求されない」という考えは間違いということになります。「賃貸住宅は大家さんからの借り物なので、大切にしなくてはならない」という考え方は、原状回復義務の基本になるので、そこを忘れないようにしてくださいね。

原状回復義務が発生する行為と、その金額についての考え方をまとめてみました。

さて、説明が長くなりましたが、壁紙を張り替えることになってしまった場合の原状回復費用について、具体的に見ていきましょう。
壁紙張り替え費用は、壁紙の材料費+作業を行う業者さんの工事費となります。小さな壁一面の張り替えだけのために壁紙職人さんを呼ぶとなると工事費が割高になる場合もありますが、材料と工事費込みでだいたい1㎡あたり1,000円〜1,500円くらいだと思います。
穴を開けた壁一面の大きさが10㎡、張り替え代の㎡単価が1,500円だった場合、その一面を張り替えるのに15,000円(税別)かかります。入居したときに新品の壁紙に張り替えしてあって3年入居したとしたら、50%償却しているので残った価値は7,500円(税別)で、これが原状回復費ということになります。

壁紙を貼る作業は結構大変です。自分でやってみると、材料費と作業費のイメージがつくようになります。

壁に浮いたように豆まき枡を取り付けるには

壁の穴も無事にきれいに補修できたので、やっと1つ目のテーマに戻ろうと思います。豆まき枡を壁に浮かんだように取り付ける作業です。まずは、フックに引っ掛けるための金具を外します。

この場所に吊り下げ金具を取り付ける予定です。普通に取り付けると金具の厚み分壁との間に隙間ができてしまいます。

隙間をなるべくなくして壁にピッタリと付けられるように、金具の大きさに穴を彫りたいと思います。金具のサイズに印をつけます。

印どおりに彫刻刀で彫っていきます。

案外簡単に穴が掘れました!

引っ掛ける側の金具は本来ビスで留める形になっていますが、穴を掘った分底板が薄くなっておりビスが突き抜けてしまうので、木材と金属に使える強力両面テープで金具を貼り付けました。

壁側に取り付ける金具は、位置がずれると引っ掛けられなくなるため、いろいろ考えた挙げ句良い方法を思いつきました。画鋲を穴に刺してマスキングテープで固定し、それを壁に押し付けて穴の位置に印をつけるのです。これは我ながらナイスアイディア!

画鋲の穴の場所に金具をビス留めしていきます。この壁は石膏ボードですが、取り付けるビスが短く枡も軽いので、アンカーはつけないで留めました。

豆まき枡を引っ掛けて完成です! 金具が見えなくなっていい感じに仕上がりました。

横から見たところです。壁にピッタリと設置できています。

実はもう1つ、壁に取り付けたい物を購入していました。バッグを引っ掛けているフックの場所に、鏡とアクセサリーを置ける棚が欲しかったのです。

鏡には裏側に隠れる金具が付属品として付いていましたが、棚の方に正面から見えてしまう吊り下げ金具が。これも見えない金具で取り付けたい!

そこで購入したのが、ピクチャーレールや美術金具のメーカー福井金属工芸さんのパネルフック。これは同じ形の金具を上下組み合わせるタイプのものです。

元の金具を外して、下穴を開けてパネルフックを取り付けていきます。

鏡には付属品の金具を取り付けます。これは壁側に取り付けたビスの頭に引っ掛けるタイプ。

取り付ける場所を慎重に測り、マスキングテープで印をつけます。

こちらも完成! 壁に浮いているように取り付けられました。こうして穴を開けて取り付けたものを、将来外したくなったり、位置を変えたくなったりしたら、その時はまた穴埋め剤が活躍するはずです。

横から見たところ。壁にかなり隙間なく付けられました。

鏡が壁に平行になるように、下側には厚みのあるタイプの両面テープを片面だけ剥がして貼り付けました。

アクセサリー棚に付けたパネルフックも壁にほぼ隙間なくピッタリ付いています。

賃貸住宅に長く住んでいれば、壁紙にも経年劣化や自然損耗が発生してきますので、退去時には穴以外の理由で大家さんが壁紙を張り替えなければならない状態になっていることが多くなります。そのときに壁に小さな穴が空いていたとしても、壁紙を張り替えれば下地ボードに開いた穴も見えなくなりますので、穴はきっと不問に付されるでしょう。
居住期間が短かった場合でも、穴埋め補修で目立たなくなるような穴の場合は2,000円程度で済みますので、もし壁に穴を開けたいのであれば、補修するときのことを考えて小さく上手に開け、かつ穴のまわりの壁紙を汚したり傷つけたりしないようにするとよいでしょう。費用負担は嫌だという人は、石膏ボードフックや壁美人を使うとよいと思います。
管理会社の立場としては、短期間しか住まない人には、新しく張り替えた壁紙に穴を開けられたくないなと思ってしまいます。たぶん大家さんも同じことを思うでしょう。短期間で退去する可能性がある場合には、壁に何かを取り付ける際には穴が開かない方法を検討して欲しいと思います。「借りたものは大切に扱う」という基本を忘れないでくださいね。

文:伊部尚子

  • この記事を書いた人

伊部 尚子

独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。好きな工具はBOSCHのコードレス電動ドライバー。DIYアドバイザー、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP®

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