《 小商い賃貸推進プロジェクト 》Vol.001

新企画「小商い賃貸推進プロジェクト」を始めます!

投稿日:2023年1月26日 更新日:

「小商い賃貸」とは?

「家」という空間は“生活を営む場”であることには違いありませんが、「家の役割って、それだけではないですよね?」と問いかけてみたくて、2018年に「ワクワク賃貸」を起ち上げました。
当初は「趣味をとことん楽しめる賃貸住宅」をご紹介していましたが、配信を重ねていくうちに、コレクティブハウスなど新しい暮らし方のご提案や、アトリエ付き住居(=アトリエ賃貸)や菓子工房付き住居(=菓子工房賃貸)など、仕事をする場と生活の場を一体化させる空間づくりにも対象が広がってまいりました。
その延長線上で新年(2023年)より新企画「小商い賃貸推進プロジェクト」をスタートすることにしました。
「小商い(こあきない)」を辞書で検索すると、「わずかの元手(もとで)で細々と行う商売」などと解説されていて、何だかせせこましい印象を受けますが、ここでは「small business(スモールビジネス)」という意味合いで捉えます。
そのうえで、カフェ・雑貨屋・少人数制の美容室・リラクゼーションサロンなどの小さなお店、カメラマン・デザイナー・建築家・ライター・システムエンジニア・税理士・弁護士・起業家などのミニ・ワークスペース、そうした家で働くための小さな空間と住まいが一体となった賃貸住宅を小商い賃貸と定義づけし、より良い住環境を整えた小商い賃貸を日本中にさらに増やしていくことを目的に、本連載を開始します。
職住一体型の賃貸住宅をつくるには何が大切で、どのような設備やサービス、コミュニケーションづくりが求められているかなどをじっくり考えながら、良い物件をつくっていきたいと思います。

「小商い賃貸推進プロジェクト」の内容と執筆者

「小商い賃貸推進プロジェクト」の連載は、「ワクワク賃貸」の編集者である私(=久保田)のほかに、神永侑子さんにも加わっていただくことにしました。
神永さんは建築家で、小商い建築をテーマとした活動にも取り組んでおられ、『小商い建築、まちを動かす』というご著書も出されています(西田司氏、永井雅子氏、根岸龍介氏、若林拓哉氏、藤沢百合氏との共著)。また「ミニマルライフ」、「タイニーハウス」、「多拠点居住」を通じ、暮らし方の選択肢を増やし、「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信している「YADOKARI」のスタッフでもあります。私は、同社が企画から運営までを行い、神永さんが設計デザインを手がけた「ニューヤンキーノタムロバ」(「ワクワク賃貸物件集」Vol.044でご紹介)の取材を通じ、神永さんと知り合いました。
取材後、神永さんは『小商い建築、まちを動かす』を出版されたと伺い、すぐに購読。紹介されている12の事例もさることながら「小商い建築」という言葉の響きに魅了されました。
神永さんは仕事がら多くの小商い賃貸物件をご存知で、独自のネットワークも築いておられるので、本連載ではそれらをご紹介いただけないかと依頼したところ、ご快諾いただけました。
私のほうは、私自身がつくっている小商い賃貸をご紹介するとともに、小商い賃貸のつくり方や探し方などをご案内したいと考えています。

これまでにつくってきた小商い賃貸

ところで、「小商い賃貸」という言葉を聞いても、即座にイメージできない方が多いと思いますので、連載開始にあたり、私がこれまでにつくった小商い賃貸物件をご紹介します。
「小商い賃貸」にはさまざまなタイプがあることをご理解いただければ幸いです。

事例1 「働きながら暮らす」をコンセプトに新築されたマンション

「ワクワク賃貸物件集」Vol.047にてご紹介した新築マンションです。
1階に菓子工房付き住居があるほか、2階の2室は店舗を訪れるお客様が出入りしやすいよう外階段を設けたり、ワークスペースとライフスペースを段差で区切ったりなど、全室が小商いや事務ワークをしながら暮らすにはどのような間取りや設備がよいか考慮し、設計されました。

事例2 グラフィックデザイナーがDIYでアトリエ兼仕事場にリノベーションした戸建て物件

「ワクワク賃貸物件集」Vol.005にてご紹介した物件で、奥様がグラフィックデザイナーというご夫婦が8ヵ月かけてDIYを行い、元・接骨院兼住居だった物件の店舗スペースをアトリエ兼奥様の仕事場にリノベーションされました。
アトリエでは地元の美術作家さんが個展を開催したり、映画の上映会、ギター教室が開かれたりと、街のアート発信基地として生まれ変わりました。

事例3 アトリエ・工房として利用いただくために新築された戸建て物件

「ワクワク賃貸物件集」Vol.040にてご紹介した戸建て物件で、オーナーさんが美術作家さんや“ものづくり”をして生計を立てている方のために、アトリエ兼住居として新築されました。アトリエ賃貸や事例1でご紹介した菓子工房賃貸も小商い賃貸の一種です。

事例4 “SOHO物件の課題あるある”の解消を目指し新築したSOHO専用マンション

「ワクワク賃貸物件集」Vol.028にてご紹介したSOHO専用の新築マンションです。
「SOHO可」を謳うマンションは数多くありますが、ほとんどの物件は普通の住居をSOHOとして利用することを許可しているだけで、SOHOとしての使いやすさが追求されたものはほとんどありません。この物件ではワークスペースを広く取るために浴槽をなくしシャワールームだけにしたり、キッチンを見えないようにしたりするほか、屋上ラウンジを設け、休憩や応接に自由に使っていただけるようにしました。

事例5 海を見ながらリモートワークできる部屋

「ワクワク賃貸物件集」Vol.043にてご紹介した部屋で、窓から海が一望でき、温泉の出る大浴場やコワーキングスペースなどがある物件です。
週や月に1度ぐらい出勤すればよいという方ならば、出勤に時間がかかっても、普段は釣りやダイビング、温泉めぐりなどを楽しめるリゾート地で暮らしてもよいのでは?という提案をしています。

このように小商い賃貸にはさまざまなスタイルがあります。
借り手(=入居者さん)を明確にし、使いやすさを追求する新築、住まいに対する考え方・暮らし方を変えるだけで小商い賃貸になってしまう既存住宅、そのどちらもが立派な小商い賃貸で、どのような物件を求めるかは読者の皆様次第です。

関東以外の先進事例からも学びたい

先月(2022年12月)、小用で京都を訪ねた折、西陣地区の町家を訪ね歩いてまいりました。 西陣地区に限った話ではありませんが、ご存知の通り京都には戦災を免れた町家が多く残っていて、飲食店舗やミニホテルなどにリノベーションされた好事例がたくさんあります。 町家の多くはもともとが商家、あるいは職人さんの仕事場兼住宅だったもの、つまりは小商い建築だったわけで、その用途のまま新しい住まい手のもと有効活用されている家も多いです。
訪ねた先のひとつに三上家路地がありました(上の写真)。こちらはかつて西陣織の職人たちが暮らしていた長屋が10軒連なる路地で、いまその長屋は建築家、陶芸家らのアーティストや、蜂蜜専門店などが借りておられます。
京都だけでなく、関東以外のエリアにはたくさんの小商い賃貸の先進事例があると聞いていますので、少しずつ取材をし、ご紹介してまいりたいと思っています。そこから多くのことを学ぶことができるはずで、その予感ですでにワクワクしています。

小商い賃貸が簡単には増えない理由

「小商い賃貸推進プロジェクト」では、小商い賃貸が増えていかない要因についても詳しく調べ、その打開策も検討していきたいと考えています。
たとえば都市計画法・建築基準法で定められた用途地域とその利用制限による問題、小商い賃貸とした場合に適用外とされる可能性がある固定資産税の特例措置、賃料・共益費・礼金・更新料等にかかる消費税などは、小商い賃貸をつくるための阻害要因となっているように思います。
また、多くのオーナーが特殊な物件をつくることをリスクと感じておられることも事実です。リスクのうちの最大のものは「小商い賃貸をつくっても借りてくださる方がおられるのだろうか?」と不安に思っている点だと考えます。
たとえば小商い賃貸で暮らしたい方が、大手ポータルサイトを使って探そうとすると、かなり苦労されるはず。なぜなら店舗・事務所と住居は探すときの入り口そのものが違うためです。いまのシステムでは店舗・事務所の中で「暮らすことも許可されている物件」を探すか、住居の中で「店舗・事務所として使ってもいい物件」を探すかのいずれかになっています。
小商い賃貸を求めても、情報に出会うチャンスが少ないので、オーナーにとっては空室リスクが高いということになるのです。

「空き待ち」登録が増えると小商い賃貸も増えます

小商い賃貸を探している方が、小商い賃貸物件の募集情報に出会えるチャネルはゼロではありませんが、現状では極めて少ないです。
そこで「ワクワク賃貸」も微力ながらそのチャネルのひとつになりたいと考えています。
「私も小商いをしながら暮らしたい!」、「快適なSOHO環境が欲しい!」、「起業して、働きながら暮らせる賃貸住宅が見つからず困っている」などという方は、是非「空き待ち登録」のシステムを使って、私たちにアプローチしていただけますでしょうか。
待望する多くの声が寄せられれば、潜在顧客がこれだけいるという証にもなり、小商い賃貸をつくろうかどうか迷っているオーナーさんたちに勇気を与えることができると信じています。
遠回りのように思われるかもしれませんが、空き待ちの声をあげていただくことが小商い賃貸を増やしていく早道です。
皆様の空き待ち登録をお待ちしています。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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