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シャボン玉ハウスをつくる会社〜ナンテール(フランス)〜《世界のワクワク住宅》

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

〈Vol.005〉

写真を見て、「あれ? 前回の物件と似ている」と思う読者もいるだろう。たしかに、「オーロラを快適に体験できる部屋」と同様、このドームも透明な部屋で、見た目は似ている。だが、ここでは両者の違いに注目したい。フランスの透明ドームはフィンランドのガラスイグルーとはまた違った意味で開発者の創造性や革新性が光る物件で、使用材(ガラスとプラスティック)の違い以上に、それぞれ独自のコンセプトがおもしろい。

そう、まさにその対比をねらって、類似した建造物を連続して取り上げることにした。

Attrap’Rêves ©Video Vision 360

この透明ドームの製造元は、フランスのナンテールに拠点を置くバブルツリーという会社で、設立者・代表はデザイナーのピエール・ステファヌ・デュマ。地元メディアの取材に、デュマ自身が透明ドーム(製品名は「バブル」)の開発の経緯を語る。

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

契機となったのは2006年頃のツリーハウス・ブーム。この時期、世界の都市人口が農村人口を上回り、人と自然との関わりが重要なテーマに浮上する。そんな中、環境を破壊せずに自然と交感する、賢い建造物としてツリーハウスが注目を集める。だが、せっかく自然の中にあっても、ツリーハウスの壁に囲まれた閉鎖性がデュマには不満だった。そこで、プラスティックを使った「透明な球体」を思いつく。虚実皮膜ではないが、内と外の区別を曖昧にして、柱や壁や平面に囲まれるわれわれの日常を何もない球面で解放する効果をねらう。樹上の丸太小屋がシャボン玉となって地上に降りた瞬間である。

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

再生可能な資材やエネルギーの活用など、バブルの製造・使用法にもこだわる。画期的なのは、バブルを使わない時期を想定し、折りたたんでコンパクトに収納できるようにしたことだ。観光や季節のサイクルを考えれば「当然の結論」だったとデュマは言う。「オフシーズンに片付けてしまえば、自然への影響も少ないでしょう?」。こだわりはまだある————建造物として美しく、景観を壊さないこと。まさにデザイナー、デュマの本領である。

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

バブルツリーという社名自体、ありそうにない結びつきを表し、それはデュマのこだわりそのものでもある。「バブル」と言えば、シャボン玉、うたかた(泡沫)の世、はかない夢。一方、大地に根を張る「ツリー」は安定性や永続性を象徴する。星空の下、シャボン玉の中で眠る子どもの無邪気な夢。そして、それを実現させるのは、成熟した大人による冷静な判断と洗練された美学だ。デザイン、環境保護、観光…と、さまざまな対立要素を美しく賢く融合させてできあがったのがこのバブルなのである。

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

ここに到達するまで、デュマは多くの助成金を獲得して実験と研究を重ね、2008年のホテル業の国際見本市にバブルを出品するが、最初は理解されなかった。だが諦めずに、EUの衛生・安全基準を満たす完成形のバブルを欧州連合知的財産庁に意匠登録する。それからほぼ10年、今や世界30か国以上に出荷している。透明な球体が基本だが、安心感を求める声を受け、下の部分を白くしたモデルもある。

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

バブルは、その形状を維持するために、空気を入れ続ける必要がある。最小モデル「バブルクリスタル」の仕様を見てみよう。直径3.5〜4m、高さ3m。本体に接続する円筒形の出入口(1.95×1.25m)には扉が二つあり、どちらかは必ず閉じておかなくてはならない。付属品として、送風・換気用タービン、固定器具一式、収納バッグがある。タービンと聞くと騒音が心配だが、32dBでほぼ無音に近く、消費電力は55〜97w。また、送風・換気だけでなく、湿度・温度を調整し、バクテリアやホコリを除去する清浄機能もある。バイオトイレや簡易シャワーが使える浴室バブルを接続することも可能。いずれも下水道を引く必要はない。

Attrap’Rêves ©Video Vision 360

誰がどんなふうにバブルを使うのだろうか? バブルツリーによると、購入するのはホテル業者が多く、特にB&B〔民宿〕や郊外の小規模ホテル経営者の関心が高いという。バブルを客室にすれば、ゲストもホストもプライヴァシーが保たれ、屋外の珍しい透明ドームで眠れる魅力的な宿として評判になるようだ。さらに、収納可能なので、ハイシーズンだけオープンするなど、ホテル経営のオプションも増える。

Bubbletent Australia ©Mayumi Iwasaki

個人でも日本から注文できるのだろうか? バブルツリーのメディア担当、マリア・マグラケリズに聞いてみた。「日本にも発送します。個人か企業かは関係ありません」。ついでに値段を尋ねると、「設置条件などにより価格は大きく変わるので、答えられない」という。購入の手順は、設置場所の地形や気候をバブルツリー側に伝え、必要な付属品、タービンや気圧の設定、再生可能エネルギーの利用等々について助言をもらった後、購入手続き開始。「ご注意いただきたいのですが」と最後にマリアが言う。「私たちは製品を一般のショッピングサイトで販売していません。コンサルティングから受注・発送まで、すべてわが社が直接行います」。バブルツリーの写真を盗用し、バブルもどきを販売するサイトもあるらしいので気をつけよう。「バブルは単純な構造に見えますが、実際には複雑で繊細な設定が必要で、専門家の助言は必須ですよ」とマリアは警告する。

Bubbletent Australia ©Mayumi Iwasaki

最後に世界各地で使われているバブルを紹介する。さまざまな環境で多様な表情を見せるバブルを見れば、自然の景観をこわさない美しく賢い建造物を目指したデュマのこだわりが成功していることがよくわかるはずだ。

Attrap’Rêves ©Video Vision 360

Attrap’Rêves ©Video Vision 360

フランスはバブルツリー創業の国だけあって、バブルの設置件数が多い。ここでは、南仏・マルセイユ近郊で三つのホテルを展開するアトラップ・レーヴを取り上げる。アトラップ・レーヴには屋外ジャクージ、マッサージのスパメニュー、スペシャルディナーのほか、丘陵地帯のトレッキングやドライブなどプロヴァンスの自然を楽しむ滞在プランが揃っている。バブル全室に望遠鏡と星座表が用意されている。

©The 5 Million Star Hotel

アイスランドの冬なら、バブルの中でオーロラを楽しめる。タービンで温風を入れるほか、室内の暖房器具等で暖かさをキープ。ただし、ここ5ミリオンスターホテルのバブルは1泊2日のツアー申し込み者専用で、宿泊だけの利用は不可(2018年3月現在)。ツアーには、ゴールデンサークル(ゲイシール間欠泉、シークレットラグーンの天然露天風呂など)とサウスコースト(セリャランズフォスの滝、レイニスフィヤラビーチなど)の2コースがあり、いずれもレイキャビック出発。

Bubbletent Australia ©Mayumi Iwasaki

オーストラリアでは、2人用バブル3つでバブルテント・オーストラリアが最近オープンした。シドニーから約200キロ、ケーパーティ渓谷を見下ろす素晴らしいロケーションを誇る。スケールの大きな日の出・日の入り、満天の星など、大自然そのものを楽しむほか、1時間もドライヴすれば、トレッキング、ワイナリー訪問、フィッシング、ウォータースポーツなどアウトドアメニューが豊富。食事は近くの街のレストランやケータリングを利用する。自炊も可能。

©BubbleTree, www.bubbletree.fr, Pierre-Stéphane Dumas

バブルツリーのサイトには、世界のバブルのリストがある。どれも個性的で独創的、眺めて飽きない。さて、あなたはどこのバブルで自然とふれあいますか?

参考記事:『エコー・イル・ド・フランス〔Echo d’île-de-France〕』 (2016年8月19日)

文責:林 はる芽

※記事では触れませんでしたが、ヨルダン・ワディラム砂漠でのバブル設置やその意義についてデュマ自身が語るCNNの番組をご紹介します。ドローン撮影の映像もあります。

〇CNNインタビュー