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©️photo by David Brown, dabfoto

ビールの空き缶で覆い尽くされた家=ビアカン・ハウス 〜ヒューストン(アメリカ)〜

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©️photo by David Brown, dabfoto

「シャラン、シャラン」と涼しげな音を立てて風に揺れるのは、無数の薄く輪切りにしたビール缶の口部分。丸い銀色のアルミが針金で繋げられ、この家の軒先にカーテンのように吊るされている。目を転じれば、家の外壁にもコンクリートの外構にもビールの空き缶!

今回は、この摩訶不思議なビール缶に覆われた家をご紹介しよう。

©️photo by David Brown, dabfoto

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アメリカ・テキサス州ヒューストンの住宅街にその家はある。敷地を囲う塀にはビール缶が隙間なく並べられ、家の外壁は無骨なアルミ片に覆われている。そのほかにもビー玉、小石、ガラス瓶、、、家全体が大きなブリコラージュ(寄せ集め)なのだ。地元住民のみならず、今では観光スポットとして知られるこの「ビアカン・ハウス」の前で、皆一様に驚きの声を上げる。

©️photo by David Brown, dabfoto

「私の家の前でぴたりと足を止める人を見ると、しめしめと思う。皆そそくさと車で通り過ぎたかと思うと、必ずまた戻ってくる。それも今度は大勢の友人を連れて」。

©️photo by Janice Rubin 2008

かつてそう語ったのはこの家の持ち主、ジョン・ミルコヴィッチ(1912-1988年)。ビアカン・ハウスは彼が約20年の歳月を費やし、たった一人で行ったプロジェクト、、、いや、趣味だったのだ。

少し時を遡ろう。ジョンが育ったのは、1930年代のアメリカ。つまり世界恐慌と重なる時代である。大不況の最中、ジョンは手に職をつけるため室内装飾業を学ぶようになる。やがて鉄道会社に就職し、車両や寝台車の椅子張りなどを専門とする職人になった。

©️Milkovisch Family Archives

結婚後、ジョンは平屋建ての家に移り住む。キッチン、ダイニング、浴室、ユーティリティールーム、小さな廊下の先に3つの寝室。第一次世界大戦後に建てられた、平均的な作りの家。これが、のちに「ビアカン・ハウス」へと変身を遂げる家である。

©️photo by Janice Rubin 2008

1968年、50代半ばに差し掛かる頃、ジョンはこの家の裏庭に屋根付きのパティオを作った。仕事から戻り、ここで妻のメアリーとビールを飲み、一日の疲れを癒す。物を捨てないという子供の頃からの習慣が染み付いていたのか、ジョンは飲み終えた缶を捨てずに屋根裏部屋に保管するようになる。

©️photo by David Brown, dabfoto

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ほどなくして、ジョンはこのパティオに手を加え始める。手始めにスギの羽根板に穴を開け、そこにビー玉を埋め込みフェンスを組み立てた。続いてコンクリートの平板を敷き詰め、そこにもビー玉を埋め込むと、カラフルなパティオが完成。

©️photo by David Brown, dabfoto

最初は訝しげに作業を見つめていた近所の人たちも、朝日に照らされ虹色に光り輝くパティオに心惹かれていったそう。でも当のジョンは人々にこう説明したという。「雑草の手入れが面倒だったからコンクリートを敷き詰めただけだよ」。

©️photo by David Brown, dabfoto

やがてビール缶が登場し、装飾は敷地全体へと広がっていく。最初はたくさんの缶を紐で連ね、クリスマスデコレーションのように庭の木々にくくってみた。車庫に通じるドライヴウェイの上に缶のアーチを掲げるも、さほど長持ちはしなかった。6缶パックのプラスチック製ホルダーも軒板に下げてみたが、時代とともにプラスチックの性質が溶けやすいものに変わり、とても装飾に使い続けることはできなかった。

©️photo by David Brown, dabfoto

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そこでジョンは缶を切り開き、平たく叩くことを思いつく。アメリカでは、1970年代後半から家の外壁にアルミのサイディングをつけることが流行していた。ジョンはそこから着想を得て、家を覆うようにアルミ片を重ねていく。

©️photo by David Brown, dabfoto

残った缶底は家の西側の切妻屋根の破風板に、プルタブ部分は北側の軒先にカーテンのように下げた。

©️photo by David Brown, dabfoto

「父に計画性などありませんでした。ただ毎朝起きて、前の晩に思いついたことをしていく。そういうアプローチだったと思います」と、ジョンの息子は語る。しかし、缶素材をサイディングのように用いることによってペンキ塗りが不要になり、木材の補強にもなったのも確か。窓を缶で覆うと、光熱費が抑えられるという発見もあったそう。

©️photo by David Brown, dabfoto

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アルミ素材は丈夫だが、元はビール缶とあって、サビや退色は避けられない。しかし、真っ白に変色してしまったバドワイザー缶(赤色はもっとも早く色褪せするそう)の室内パネルも、こう見ると実に美しいではないか。

©️photo by David Brown, dabfoto

でもジョンはいつもこう言っていたそう。「別にきれいだとは思わないよ。この家がここから数軒先にあったとしても私はわざわざ見にいかないだろうね」。

©️Milkovisch Family Archives

そんな父について息子はこう回想する。「父は人を煙に巻くようなことをよく言ってました。自分のことをあまり深刻に考え過ぎない人でした。ましてや自分をアーティストなどとは思っていなかったでしょう」。

©️Milkovisch Family Archives

1987年、ジョンは激しい発作に襲われ、家の装飾の中断を余儀なくされる。翌年、76歳で死去。遺されたビアカン・ハウスは現在、ヒューストンの歴史的建物を保存管理する団体「The Orange Show Center for Visionary Art」が一般公開している。

©️photo by Janice Rubin 2008

この家には芸術然としたコンセプトも、仰々しい理念もない。でもそれこそが、ここを訪れる人を魅了する要因なのかもしれない。中流階級地区であったこの住宅街も時代とともに、ロフト付きのコンドミニアムが並ぶアッパークラスなエリアへと変貌を遂げた。しかし、ビアカン・ハウスは今日も変わらず陽光の中でキラキラと輝き、ビール缶たちは風に舞い、歌っている。

©️photo by David Brown, dabfoto

The Beer Can House

◇住所:222 Malone St, Houston, TX 77007, USA

◇開館時間&休館日:季節によって変わるので、下記公式ホームページをご参照ください。
◇入館料:大人$5、12歳以下の子供は無料(2019年4月18日現在)
◇公式ホームページ:https://www.orangeshow.org/beer-can-house/

写真/all images and sources courtesy of The Orange Show Center for Visionary Art

文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

 

  • この記事を書いた人

河野 晴子

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文にエイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。夫、娘、猫と都内に在住。

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