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《 世界のワクワク住宅 》Vol.035

創作意欲を刺激する農村滞在<アーティスト・イン・レジデンス、ヴィラ・レナ>〜トスカーナ(イタリア)〜

投稿日:2020年10月8日 更新日:

想像してほしい。
ここはイタリア・トスカーナの丘陵地帯。500ヘクタールもの広大な敷地にはオリーブやぶどう畑が広がり、その中心には19世紀に建てられた瀟洒な赤壁のヴィラ(邸宅)が鎮座している。

Photo by Ellie Tsatsou

Photo by Frederik Vercruysse

迎えてくれるのは、ここで飼われているイゴールという名の一匹の犬。彼に導かれ中へ進むと、そこには歴史を感じさせる漆喰の壁とフレスコ画の天井に彩られた居間がある。
そしてあなたに与えられるのは、このヴィラの奥にある一人部屋。

Photo by Lottie Hampson

日当たりの良いトスカーナはどの季節も快適だ。森の散策をし、ヨガやアートに触れる充実した一日。夕暮れ時、テーブルに並ぶのは敷地内で採れた食材を使ったフレッシュなサラダやパスタだ。そして、ワインを片手にここで出会った人々と語り合い、一日を終える・・・。
こんな美しい環境で数週間を過ごせるとしたら、あなたは何を感じ、何を生み出すだろうか。

Photo by Coke Bartrina

今回はこの歴史あるヴィラに世界中からクリエイティブな活動をする人々を招聘し、ここでの創作活動を奨励するアーティスト・イン・レジデンスと、一般客が利用できるホテルが併設された農村<ヴィラ・レナ>をご紹介しよう。

Photo by David Kaliga

ヴィラ・レナが立つこの敷地は19世紀後半にイタリアの貴族、デル・フラーテ家が所有していたもの。森に囲まれた一帯は狩猟や社交の場となり、一家は20世紀初頭にもっとも栄えた。

Photo by Annabel Sougne

しかし、一家の長が他界した後にその息子が負債を抱えることになり、1931年に敷地は銀行に差し押さえられてしまう。以後、所有者が幾度も代わり、建物の老朽化も進んだと言う。

Photo by Lotti Hampson

時を経て2007年に、現在の所有者であるレナ・エヴスタフィエヴァがこの一帯の再生に取り組むことになった。レナはロンドンのペース・ギャラリーのディレクターを務めたこともあるアートのプロフェッショナル。人脈を生かし、音楽プロデューサーやレストランオーナーとともにアートの要素をふんだんに盛り込んだ観光形態を模索すべく、「ヴィラ・レナ財団」を設立する。

Photo by Ellie Tsatsou

彼女たちが目指したのは、こうした歴史ある邸宅や農村家屋での宿泊や、食材の収穫体験などを提供する「アグリトゥーリズモ」(イタリア語で「農業」と「観光」を掛け合わせた造語)。

Charlie Duck Photo by Niklas Adrian Vindelev

そこにさまざまなクリエイターを滞在させ、その創作を全面的に支援する「アーティスト・イン・レジデンス」を融合させた。

<ヴィラ・レナ>の全体写真 Photo by David Kaliga 奥にある左右対象の建物が19世紀に建てられたヴィラ。ここにアーティスト・イン・レジデンスの参加者たちが滞在する。その周りに点在する建物が厩舎や家屋を改造したモダンなホテル棟。レジデンス参加者と一般宿泊客はともにこの敷地内に滞在し、交流する。

まずはアーティスト・イン・レジデンスの仕組みから説明しよう。
財団が受け入れるのは、美術、音楽、映像、文学、ファッションなどの分野で活動するアーティストのほか、シェフやヨギー(ヨガの専門家)など。

絵画スタジオ Photo by Frederik Vercruysse

参加希望者はこれまでの活動実績と応募動機を提出し、キュレーター、デザイナー、音楽プロデューサーなどを含む諮問委員の審査にかけられる。彼らの目にかなった参加者は春から秋までの間の6週間、一日2,000円程度という安価でヴィラでの滞在、アトリエやスタジオの使用、そして一日二食までが提供される。

Photo by Lottie Hampson

レジデンスは各人が自己の表現を高めたり、新たな挑戦を試みるための期間となるが、文化や国籍を越えてネットワークを構築したり、互いに刺激を与え合う交流のチャンスでもある。そのため彼らは参加者同士、あるいはホテルの滞在者と積極的に関わることが求められる。

テーブルクロス・プリントのワークショップ Nadine Workshop Photo by Lottie Hampson

たとえば、ぶどうやオリーブの収穫、森でのトリュフの採取などにともに取り組んだり、ホテル滞在者に向けて自身の専門分野のワークショップを開催するなど、ここでしか得られない経験と交流を積み上げていくことが大切なのだ。

Photo by Lottie Hampson

実際の活動内容も見てみよう。
シェフの場合、森で採れる食材(春にはアスパラガス、夏にはズッキーニ、秋には白トリュフやイチジク!)を使いながら新たな一皿の創造に挑戦する。ここで出会う食材と自国の食文化の融合を試みる人もいるそう。料理のワークショップを行ったり、レストランのランチメニューを週に一度担当するなど「課題」もある。

Photo by Lottie Hampson

ヨギーであれば、屋外・室内スタジオでホテルの滞在者にクラスを提供しながら技術を高めていく。

音楽スタジオ Photo by Lottie Hampson

そして、画家、音楽家、写真家などのアーティストたちは、各々の活動に合ったアトリエで作品の制作に励む。

Workshop by Anna Skladmann

陶芸や木工スタジオのほか、120平米の大きなスペースもあるというから、アーティストの制作環境としては申し分ない。

Photo by Marina Denisova

ヴィラやホテル棟の至るところにはアート作品が掲げられているが、これはアーティストたちがレジデンスを完了した暁に滞在中に制作した作品を一点寄贈するという約束事があるからだ。

Photo by Coke Bartrina

このコレクションはアーティストたちの成果と思い出を大切に蓄積していくためであり、また必要であれば作品を少しずつ売却し、レジデンスの事業継続資金に充てるためだと言う。

Il Fantasma by Kristen Usui

こちらの作品は、昨年レジデンスに参加したフローラル・デザイナーのクリステン・ウスイさんが寄贈した「Il Fantasma」という作品。ヴィラ・レナの近くにあるトイアノという廃村をイメージして、敷地内で採れた植物を使って制作した儚げなインスタレーションだ。これはホテル棟のレセプションの天井に掲げられている。

Hesselbrand Interior Art Direction Victor Melchior Olsson Photo by Henrik Lundell

さて、アーティストではないけれども、ここに滞在してみたいと思われる方のためにホテル棟も少しご紹介しておこう。

Hesselbrand Interior Art Direction Victor Melchior Olsson Photo by Henrik Lundell

敷地内に点在するかつての狩猟小屋や家屋がホテルとしてリフォームされているが、こちらの写真は厩舎を改装したファットリア棟。改装デザインはロンドンの建築事務所、ヘッセルブランドが手がけた。天井高のあるクラシカルな造りを生かしながら、室内には大理石やオーク材をモダンに使用している。

Photo by Marina Denisova

宿泊客は図書室、ヨガスタジオ、音楽室などの利用のほか、レジデンス参加者たちによるトークやワークショップに参加することもできる。アーティストならずとも、ここでのつかの間の生活は心がほぐれ、インスピレーションが沸く実り多い時間となることに違いない。

BLAD Photo by Lottie Hampson

ヴィラ・レナはさまざまなクリエイターやアーティストたちに、創作の糧となる経験や環境、そして他者との交流を惜しみなく提供する。そして、テーブルに並ぶ料理であれ、壁に掲げられた絵画であれ、その成果物を享受する側として一般のホテル客もまたここで多くの心の糧を得る。
ぶどう、オリーブ、トリュフと続く収穫の秋。ヴィラ・レナをつかの間の住まいとしている人々は今まさに豊かな時間を共有しているに違いない。

Photo by Coke Bartrina

写真/All sources and images courtesy of the Villa Lena Tuscany

取材・文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

  • この記事を書いた人

河野 晴子(こうの・はるこ)

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文に『ジャン=ミシェル・バスキア ザ・ノートブックス』(フジテレビジョン/ブルーシープ、2019年)、『バスキアイズムズ』(美術出版社、2019年)、エイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。

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