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《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.005

アトリエ機能を分散させ、アーティストの成長を地域ぐるみで応援する新・アトリエ村構想

投稿日:2021年8月5日 更新日:

JIAN代表理事・小路浩さんに聞く

小路浩さん@「KONOYO Studio」

美術作家やものづくりをされている方たちが、どのようなアトリエ・工房を望んでいるかということを学ぶところから開始した「アトリエ賃貸推進プロジェクト」。
前回は人気画家の金丸悠児さんに、過去から現在に至るまでのアトリエをご紹介いただき、アトリエにもさまざまなタイプがあることを学びましたが、今回は地域とアートを結ぶ活動を通して、次代のアーティストたちを支援している一般社団法人JIANの代表理事・小路浩さんにお話を伺ってきました。
小路さんはアート・ディレクターでいらして、事業を通してこれまでたくさんのアーティストたちと交流してこられた方です。JIANの代表者ならではの理想のアトリエ賃貸像を語っていただきましたので、さっそくご紹介します。

[一般社団法人JIAN]
2016年に設立された美術作家団体。JIANはJapanese Independent Artist’s Networkの各頭文字をとったもの。代表理事はアート・ディレクターの小路浩氏。アーティストやアート関連事業者、教育機関、行政、地域団体などと公益型のネットワークを結び、次代を担うファインアーティストたちの成長を応援する活動を行っている(支援するジャンルは美術・音楽・映像・身体芸術など多岐に渡る)。
2019年9月、「KONOYO Studio」(東京都豊島区東長崎)に拠点を移す。主な事業は美術展「KENZAN」、「IAG AWARDS」など。

古民家を改修した元カフェを再活用した活動拠点

「KONOYO Studio」の1F

久保田:「ワクワク賃貸」の編集長をしている久保田と申します。「ワクワク賃貸」では今年(2021年)3月から「アトリエ賃貸推進プロジェクト」という連載を始めまして、前回は美術家の金丸悠児さんのアトリエを訪ね、お話を伺ってきました。その金丸さんが関わっておられるアートフェスティバル「池袋モンパルナス回遊美術館」のスタッフの方からJIANさんをご紹介いただき、本日はお邪魔させていただきました
ここがJIANさんの活動拠点だということですが、素敵な空間ですね!

小路:ありがとうございます。以前は世田谷区にオフィスを構えていたのですが、「池袋モンパルナス回遊美術館」関連の企画・運営など、豊島区での仕事が増えてきて、2019年にこちらに拠点を移しました。
元は大家さんが今の内外装に改修して、前の入居者さんは一階でカフェを営んでおられたのですが、閉店後、そのままの状態でお借りすることができました。

久保田:「KONOYO Studio」という名前だと伺っていますが、ちょっと変わったネーミングですね。

小路:「あの世、この世」のKONOYOです(笑)。芸術分野では、「あの世」と「この世」に象徴される二つの対をなす世界観、たとえば「永遠の魂」と「有限の肉体」とか、「理想」と「現実」などといった概念の関係性が古来、大きなテーマとなっており、芸術家の心情としては、どちらかといえば、こちら側よりあちら側にあるわけです。また、それが、芸術家の社会的役割でもあるのですが、そこには常に、怒りや反骨といったものとともに、あきらめや不遇といったにおいがつきまとうんです。でも、物質的にこれほど豊かになり、また、情報技術の飛躍的な発展により、人間の精神活動への物理的な制約が限りなく弱まっていくことを前提に考えれば、もっと「この世」に期待してもいいのではないかと、理想と現実を対語として考えなくてもよいのではないかと、そんな想いがあっての「KONOYO」なんです。
まあ、単純に「コノヨで待ち合わせね」って言わせたかったっていうのもあるんですが(笑)。

久保田:「KONOYO」は2階建ての木造家屋ですが、どんな使われ方をしているのでしょうか?

小路: 1階部分はギャラリー&ブックカフェとして、アーティストや美術ファンだけではなく、地域の方々も含めいろいろな方がフラッと立ち寄りやすいスペースとして営業を開始するつもりだったのですが、コロナの影響でそれどころではなくなってしまい・・・。今は、うちが関わる展覧会に合わせて出品作家インタビューをYOUTUBE配信するスタジオとして不定期に使っているくらいで、ギャラリー&ブックカフェとしての正式オープンのタイミングを図っているところです。

久保田:2階のほうはいかがですか?

小路:2階はJIANのオフィスとして使っています。お風呂もあるので、忙しいときはここで寝泊まりすることもしばしば。今は7月から始まる「池袋モンパルナス回遊美術館」のメイン企画である、「IAG AWARDS 2021」の準備が佳境に入っていて、夕べもここで寝てしまいました(苦笑)。

「KONOYO Studio」の1F

久保田:お忙しいときにお邪魔してしまってすみません。ここ(1階)はアートギャラリー兼ブックカフェとのことで、個展開催の予定もあるんですか。

小路:月に1~2回ペースで開催していきたいと考えております。ブックカフェの方も、いずれはお酒も出せるお店にしたいです。アーティストやアート好きな住民たちが気楽に集まれる場所にしたいんですよ。 あと、ネーミングに関しては、今は配信スタジオとして使っているので、「KONOYO Studio」と言っていますが、正式オープン時には、「-IAG Salon&Gallery- KONOYO」という名称にします。 IAGというのは「池袋アートギャザリング」の略で、街とアーティスをつなぐことをコンセプトに画家の金丸悠児さんが命名したプロジェクトです。私が企画運営する公募展「IAG AWARDS」もその一環をなす活動で、ここも、IAGの作家たちが気軽に展示できる場所として、また地域との接点となる場所にしようと思っています。

久保田:街なかにそういう場所があるのは素敵ですよね。憧れます。

小路:本当はここでアーティスト・イン・レジデンスもやってみたいのですが、そこまでなかなか手が回りません(苦笑)。

「IAG AWARDS2021」会場の様子

若手アーティストたちのアトリエ事情

久保田:小路さんはアート・ディレクターですので、活動を通してたくさんのアーティストと深く交流していらっしゃいます。今日は若手アーティストたちのアトリエ事情についてお話を伺いたいと思って参りました。ご存知のことからお聞かせいただけますか?

小路:詳しく調査したわけじゃないので、正しいかどうかはわかりませんが、経済的にまだ成立していないアーティストたちは埼玉県などでアトリエや住宅を借りている人が多いように思います。

久保田:それはなぜですか?

小路:都心に出やすく、比較的安い家賃で広い空間を借りることができるからでしょう。

久保田:地方に拠点を構えるアーティストもいるとよく耳にしますが・・・。

小路:いやぁ、作家としての活動が軌道に乗る前の段階で完全に地方に行ってしまうのは勇気がいりますよ。都心ならばアーティストができる仕事が得やすいですが、地方では限られますし、アーティスト同士が会って意見交換をしたり、新しい作品、作家に出会ったりすることが大事なので、都心がやはり有利です。

「IAG AWARDS2021」で自作を来場者に紹介するアーティスト。

久保田:なるほど。でも都心のど真ん中だと家賃が高いから、埼玉などでアトリエ兼住居を構えるわけですね。

小路:家賃と広さですね。美術作家は通常、何点も同時進行で創作するから、制作スペースにもそれなりの広さが必要ですが、ストックスペースがさらに重要です。個展を開くために何十点もの作品を保管するし、まだ売れていない作品も置いておく必要がある。

久保田:これまで本田晴彦さん、金丸悠児さんに話を伺ってきましたが、おふたりともストックスペースのことをおっしゃっていました。

小路:ストックスペースは別に住居と一体でなくてもいいと思います。たとえば同じ埼玉県でも、住まい兼アトリエは都心に出やすい場所にして、ストックスペースは秩父など少し離れたところでもいいです。

久保田:アトリエとストックスペースは分離していても構わないというわけですね。

小路:ストックスペースは、安くて広い空間をシェアするのでもいいと思います。そこに小さくてもいいから写真スタジオが併設されているといいですね。ストックする前に作品をきれいに撮影することができたら、作品整理にも便利ですし、ネットに作品を掲載して売却活動をすることもできます。

久保田:なるほど。大きな作品を撮影するのにも大きな空間が必要だから、“一粒で二度美味しい”とできたら最高ですね!

「IAG AWARDS2021」会場の様子

アトリエ機能が点在するアトリエ村構想

小路:先ほど「アトリエ兼住まいは都心に出やすいところがいい」と言いましたが、久保田さんが目指しているアトリエ賃貸がひとつのエリアに点在し、アーティスト仲間が集う居酒屋やカフェがあるとより良いと思います。
私の「KONOYO Studio」も豊島区のこのエリアで、そのひとつになれたらいいなと思っています。

久保田:まさに往年の池袋モンパルナスのような感じですね。

小路:アーティスト一人ひとりが自分のアトリエをどうするか考えるのでなく、地域全体にアトリエの機能が分散しているといいと思うんですよ。アトリエ、アーティストが集う場所、共同の保管場所などが点在している街。学校の跡地を活用できるのが理想なんですけどね。

久保田:アトリエも大・中・小いろんなサイズがあって、それを互いに貸し借りできたらいいかもしれませんね。大きな作品をつくりたいときは天井の高い、大きなアトリエを借りられるとか。

小路:それもありですね。選ばれたアーティストが5年間などの期限付きでアトリエ村に住まい、エリアのアトリエ機能を存分に使えたらいいかもしれません。期限が来たら、最後に作品をアトリエ村に寄贈し還元する。街全体でアーティストを育てる仕組みがあると面白いだろうなと思います。

「IAG AWARDS2021」で小路さんが作品解説をしてくれました

アーティストと賃貸不動産とのマッチング

久保田:小路さんの構想はとても素敵だと思います。街全体となると行政などにも関わっていただく必要があるかと思いますが、「池袋モンパルナス回遊美術館」の活動などは、そうしたことも視野に入れて取り組んでおられるのかな、という気がいたします。
一方、私のほうはスケールが小さくてお恥ずかしいのですが、不動産オーナーや不動産会社が事業として取り組んでいける規模のものを考えておりまして・・・。

小路:もちろん、それも大事な取り組みだと思います。思えば池袋モンパルナスも、当時の大家さんたちが慈善事業として取り組んでいたわけでなく、ちゃんと事業として成り立っていたようです。入居者のターゲットをアーティストに絞り、アーティストたちが望むアトリエ付きの賃貸住宅をつくった。結果、入居者はアーティスト同士のネットワークで向こうからやってくるようになった。これは私見ですが、当時の画家は裕福な家の出の人が多かったから、大家さんたちは家賃を取りっぱぐれる心配があまりないとふんだのかもしれません。

「池袋モンパルナス回遊美術館」の企画展示

久保田:そう言われると、池袋モンパルナスにますます親近感が湧いてきます(笑)。 私の身の回りにもアート好きのオーナーさんがたくさんおられますが、事業としてきちんと採算がとれ、好きなアートも支援できるとなったら、アトリエ賃貸に取り組んでみたいという方も増えてくると思います。

小路:これは一案ですが、JIANにはたくさんのアーティストとのネットワークがありますから、オーナーさんがつくられたアトリエ賃貸の情報をアーティストたちに配信するというのもいいかもしれません。

久保田:ああ、そんなことをしていただけたら最高に嬉しいです。アーティストの方たちにも、情報をお届けするだけならお邪魔にはならないでしょうし。

小路:独力でアトリエ賃貸を探すのに苦労している作家も多いでしょうから、お互いにとってメリットはありそうです。

久保田:それは若手アーティストの成長を応援するというJIANの活動目的とマッチする気がしますね。
是非、今度、具体的な相談をさせてください。
今日は小路さんから、アトリエ賃貸に関するたくさんのヒントをいただけたように思います。ひとつひとつのご提言をしっかりと噛み締めて、アトリエ賃貸を増やしていく活動に役立ててまいりたいと思います。どうもありがとうございました。

「KONOYO Studio」の外観。

文:久保田大介

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久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。合同会社コンセプトエール・代表社員。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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