《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.017

アトリエ・工房・作業場探しのサポート専門サイト「東京アトリエさがし」

投稿日:2022年4月28日 更新日:

アトリエをすぐに必要とする方たちのフォロー

昨年(2021年)3月に「アトリエ賃貸推進プロジェクト」の連載を開始して以来、「アトリエ賃貸を借りて暮らしたい」と空き待ち登録してくださった方は148名にのぼります(2022年4月25日現在)。
その多くはすぐにでもアトリエ賃貸を必要としている方たちなのですが、当プロジェクトは「アトリエ賃貸を増やしていくこと」を目的にしており、「今すぐ借りたい!」というニーズには上手に応えられないでいます。

現在、編集部でできるサポートは、
◯大家さんや管理会社さんから編集部に「アトリエ賃貸として紹介いただけないか?」と依頼された物件情報をご登録者さんたちにすぐにメールでお知らせする。
◯お探しのエリア、部屋とアトリエの広さ、上限家賃などを詳しくお訊きし、編集部のほうでもアンテナを張って「これはどうだろう?」と思った物件をご紹介する。あるいは熱心にサポートしてくれる不動産会社とお引き合わせする。
という程度で、良いお手伝いができているとは正直言い難いです。

このままでは申し訳なくて、「もっとご協力できることはないだろうか?」と模索していたところ、「東京アトリエさがし」というウェブサイトを見つけました。
「アトリエ・工房・作業所探しをサポートするサイト」というコピーに惹かれ、中身をじっくり拝見ましたが、誠実にお仕事をされていることがよく伝わってくる素敵なサイトでした。ひょっとしたら、こちらに相談することで、空き待ち登録くださった皆様のお役に立てることがあるかもしれない。そう考え、このサイトを運営するラビットホーム株式会社の兼松信吾社長にお会いしてきました。
サイトの内容はもちろんのこと、アトリエ探しをする際の留意点なども伺ってまいりましたので、すでに「東京アトリエさがし」をご存知だったという方もご一読いただければと思います。

[兼松信吾(かねまつ・しんご)さんのプロフィール]
ラビットホーム株式会社 代表取締役。
1977年生まれ。大手不動産会社のPM(賃貸管理)部門等での勤務を経て、2017年5月にラビットホーム株式会社を設立。
2019年、「東京アトリエさがし」の運営を始める。
店舗のある国分寺市や隣の小金井市で10数年暮らしている。趣味は自転車と街歩き。

「東京アトリエさがし」とは?

「東京アトリエさがし」に掲載されているアトリエ物件。

⎯⎯⎯⎯ はじめまして。私が「東京アトリエさがし」を発見したのは昨年(2021年)暮れのことで、読んでいるうちに、どうしても兼松さんにお会いしてみたくなりました。でも兼松さんの本業は賃貸不動産の仲介業で、1月から3月までは賃貸業界のハイシーズンですから、4月まで連絡するのをじっと我慢していたんです(笑)。

兼松:お気遣いくださり、ありがとうございます(笑)。

⎯⎯⎯⎯ 都内でアトリエを必要とする作家さんたちは「東京アトリエさがし」をすでにご存知の方も多いと思いますが、あらためて「東京アトリエさがし」とはどんなサイトかお聞かせいただけますか?

兼松:一言でいえば、アトリエや工房、作業場を探しているお客様に物件をご紹介し、仲介させていただくサイトです。タイトルに“東京”とつけていますが、関東一円であればどこでも探して紹介しています。

⎯⎯⎯⎯ お客様に紹介するのは「東京アトリエさがし」に掲載している物件が中心ですか?

兼松:いや、そうではありません。掲載しているのは大家さんなどから頼まれたものや、お客様に案内したときに見て「掲載したい」と思い、こちらから管理会社さんへお願いし同意が得られた物件です。掲載物件がお客様のニーズと合致していればもちろんご紹介しますが、実際はひとりひとりのご要望に合わせて、一緒に物件探しをしています。

⎯⎯⎯⎯ なるほど。「東京アトリエさがし」で紹介されている物件は“氷山の一角” というわけですか。

兼松:サイトの運営を始めたのが2019年のことで、これまで80人ぐらい仲介をさせてもらいましたが、ほとんどの物件はサイトには載せていません。

⎯⎯⎯⎯ 「お仕事一覧」というコーナーで、成約事例を紹介していらっしゃいますが、これもほんの一部ということですね。

兼松:「お仕事一覧」の記事を書いているのは、アトリエとなり得る物件を紹介してもBeforeの姿からAfterをイメージできない人が多く、リフォームをしたり、自分たちで工夫をしたりすると、こんなふうに変わる、あるいは変えられるのだということを知ってほしいと考えたからです。

⎯⎯⎯⎯ これまで成約したなかで、特に印象に残っている事例をひとつ教えてください。

兼松:どのお客様の事例も思い入れがあって、どれかひとつと言われると困ってしまいますが、物件が一番劇的に変わったと思うのは「葛飾区のアパートの1階の店舗・倉庫募集物件をセルフDIYでアトリエギャラリーに~spade・KUSHIGAKATAさん」という記事でご紹介した事例でしょうか。

⎯⎯⎯⎯ どんなふうに変わったのですか?

兼松:「さすがにこれは厳しいかな」と思うぐらい改装する箇所の多い物件だったのですが、大きな作品を描くためにアトリエ兼ギャラリーとして使いたいという美術作家さんが借りてくださいました。借主さんの作家仲間に「自分のアトリエは自分でつくるべき」と考えている方がいて、その方の手も借り、床はコンクリート塗装したり、コンパネで新たな壁を造作したりして、素敵な空間に仕上げられました。管理会社さんも完成した姿を見て、とても喜んでおられました。

⎯⎯⎯⎯ 「自分のアトリエは自分でつくるべき」とはいい言葉ですね。こんな事例を目にすると、「DIYでこんなふうにすることもできるんだ!」と励みに思う作家さんがたくさん現れそうです。

「東京アトリエさがし」を始めたきっかけ

「東京アトリエさがし」に掲載されているアトリエ物件。

⎯⎯⎯⎯ 「東京アトリエさがし」は、アトリエや工房などを探している方と一緒になって物件探しをするサイトだということがわかりましたが、そもそもなぜこの事業を始められたのですか?

兼松:「東京アトリエさがし」を運営しているラビットホームは、2017年、私が40歳のときに独立して開業した不動産会社です。賃貸仲介を柱としていく方針でスタートしましたが、お店はJR中央線「国分寺」駅から歩いて15分と離れているから、飛び込みでお客様が来店されるとは考えづらい。できたばかりの不動産会社に大家さんから募集を依頼されることも少ないから、ポータルサイトに物件掲載をして集客することも難しい。それがわかっていたので、当初から一緒にお部屋探しをしてほしいと希望される方に寄り添ってお手伝いしようと考えていました。

⎯⎯⎯⎯ はじめから、アトリエ探しをしている方をお客様にしたいと考えていたのでしょうか?

兼松:いいえ、最初の1年ぐらいは普通の住まいを探す方のお手伝いをしていました。それは今でも続けていますが、アトリエを柱にしたのは「東京アトリエさがし」を始めた2019年ごろからのことです。

⎯⎯⎯⎯ 何かきっかけみたいなことがあったのですか?

兼松:当時、私は趣味で革製品をつくっていて、教室にも通っていました。そこで個人事業主として取り組んでいる方たちと知り合ったのですが、皆さん、作業場探しに苦労していることを知ったのです。そのお手伝いをさせていただこうと思ったのが、きっかけと言えばきっかけですね。

⎯⎯⎯⎯ 兼松さんご自身が革製品をつくっておられたとは!

兼松:今は仕事が忙しくなってしまって、ちょっとお休み中なんですけどね。それと私の弟がグラフィックデザイナーをやっていて、ラビットホームのロゴマークもつくってくれたのですが、彼から「美術系の作家も同じような苦労をしている」と聞かされたことも影響していると思います。

⎯⎯⎯⎯ なるほど。身近におられる作家さんたちをサポートしたいという想いから始められた事業だったのですね。
親身になってお世話をするスタイルが確立された背景がよくわかりました。

弟さんがつくってくれた会社のロゴマーク

⎯⎯⎯⎯ 作家さんたちひとりひとりに寄り添ってアトリエ物件を探すとなると、希望条件もさまざまで、かなりご苦労されているのでは?と思います。実際、兼松さんはどんなふうに探しておられるのですか?

兼松:レインズやATBB(アットビービー)など、不動産業者間のB to Bサイトから図面を出し、一つずつ見て探しています。

⎯⎯⎯⎯ B to Bサイトでも、アトリエとか工房とかの検索項目があるわけじゃないから、なかなか見つからないでしょう?

兼松:倉庫や事務所、店舗などの物件からピックアップしていきます。倉庫物件はトイレや水回りがあると、昔は事務所として使われていたろうから許容してもらえそうだな、など、いろいろな勘所があります(笑)。

⎯⎯⎯⎯ 私も似たような作業をしているのですが、不動産会社に「アトリエとして使えますか?」と訊くと「ダメ」と言われることがよくあります。

兼松:私は長年物件を探し続けているので、情報を見れば「これは認めてくれそう」ということがわかるようになってきました。

⎯⎯⎯⎯ さすが、その道のプロは違います(笑)。

兼松:でも制作過程で音が出るジャンル、特に木工・金属加工系の作品をつくる方の場合はNGとされることが多いですね。具体的にどんな音がするかなどを説明しても、理解されない場合があります。

⎯⎯⎯⎯ 音の問題はやっぱりネックになりますか。

兼松:あと、個人で利用するのはいいけれど、不特定多数の人が出入りするのはNGというところもあります。

「東京アトリエさがし」に掲載されているアトリエ物件。

アトリエ探しをしている方へのアドバイス

⎯⎯⎯⎯ ところで、今、ホットに物件探しをしておられるお客様は何人ぐらいですか?

兼松:今は7人ぐらいでしょうか。サイトをご覧になってアプローチしてきてくださった方たちとは専らメールで連絡を取り合い、どのようなアトリエを探しておられるのか、何がネックになっているかなどを伺い、借りたいと思っているアトリエのイメージを共有していきます。でも、その過程で連絡が取れなくなる方も少なからずおられます。

⎯⎯⎯⎯ そんなに丁寧にお仕事をされておられるのに、連絡が取れなくなるのは残念ですね。

兼松:いえ、そうでもありません。他社さんにも問合せている方が多いですが、そうされたほうが物件が見つかる可能性は高くなりますよね。当社は物件探しのひとつのツールとして考えてもらえばよく、大切なのは実際に借りたい物件が見つかることですから、そのへんは割り切っています。どう探しても当社で紹介できる物件が見つからない場合もありますから。

⎯⎯⎯⎯ そんなふうに懐深く構えていただけるとありがたいです。ところで、これまでアトリエの仲介をされていて、たくさんのお客様と接してこられたかと思いますが、アトリエ探しをしている方たちに、何かアドバイスをいただけますか?

兼松:アトリエを探している人が「安く借りたい」と考えるのは当然ですが、条件の良い物件ほど借りたい方も多いわけで、どうしても賃料は高くなりがちです。だからまずはある程度相場を理解した上で、エリアや設備などの条件をどこまでゆるめられるのか、自分のアトリエに最も必要な条件は何か、ということを一緒に考えていただけたらなと思います。

⎯⎯⎯⎯ 「一緒に考える」という姿勢をお客様側にも持っていただくことはとても大事だと私も思います。不動産屋に行くと、「自分はお客様だ」という態度をとってしまいがちですが、それでは決まりづらくなるはず。

兼松:大家さんに対しても同じかなあという気がします。借り手の要望がすべて認められるというのは難しく、要望される大家さんの立場になって考えることも必要です。

⎯⎯⎯⎯ 音の問題なども、きっとそうでしょうね。

兼松:そうだと思います。大家さんや管理会社さんは借り手の状況を完全に把握できているわけではないですから、どんなふうに伝えたら理解してもらえるか、考えるべきですね。ただ作家さんたちがそれを一人でやるのは大変なので、事前にしっかり打ち合わせし、「音が出るのは◯分程度です」、「◯時以降は音を出しません」、「クレームが来たら自分で対応します」など、こまかなことは当社のほうからお伝えするようにしています。それが間に立つ者の重要な仕事だと認識しています。

⎯⎯⎯⎯ 私は以前、「制作中の様子を動画に撮って、作業音もしっかり録音して、大家さんや管理会社さんにお見せしたら?」と提案したことがあります。

兼松:そういう工夫も必要ですよね。「大家さんや管理会社さんがちっとも理解してくれない」と嘆くのでなく、どうやったら理解してくれるだろう?と考え、実行する。そうしていくことで貸主と借主の信頼関係が生まれていって、契約に結びつくのではないでしょうか。

⎯⎯⎯⎯ ほかに気をつける点はありますか?

兼松:作家さんの中には、どんなアトリエを借りたいかということを抽象的に表現される方がいらっしゃいますが、それだとなかなか探すことができません。広さ、エリア、設備、上限家賃などをより具体的に言っていただけると、お手伝いしやすくなります。

「東京アトリエさがし」に掲載されているアトリエ物件。

「東京アトリエさがし」と「ワクワク賃貸」の連携

⎯⎯⎯⎯ 最後になりますが、兼松さんの今後の目標をお聞かせください。

兼松:アトリエを探している方たちと数多く接してきた過程で、手掛けておられる作品の種類に応じたアトリエのニーズがある程度わかるようになってきました。探し手の方に、できる限り多くの物件を素早くご提案できるように、今以上に物件のアンテナを張れるようにしていきたいです。

⎯⎯⎯⎯ 「ワクワク賃貸」でアトリエ賃貸に空き待ち登録をしてくださっている方の中には、「今すぐ紹介して欲しい」という方が少なくありません。そうした方たちを兼松さんにご紹介し、お世話していただくことは可能でしょうか? お客様紹介料などは一切いただくつもりはありません。

兼松:ありがたいお話ですが、できることなら久保田さんのほうで具体的な希望を聞いていただき、ある程度明確になっている方に絞ってくださると助かります。

⎯⎯⎯⎯ それはよくわかります。兼松さんに負担をかけすぎてはいけないので、そのあたりはよく考えておつなぎするよう心がけます。それと、これだけアトリエ賃貸に精通しておられると、兼松さんのほうでもアトリエ賃貸をつくってみたくなりませんか?

兼松:作家さんたちのニーズに見合った物件はとても少ないので、そう考えることはよくあります。アトリエを探しきれない人、条件が厳しい人の一時避難のような場所を自社でつくれればいいなとぼんやり夢想することもあります。ただ、あくまで仲介業のスタンスは崩したくなく、ひとりでも多くの方が制作スペースを確保していただくために仕事を続けていきたいというのが本心です。

⎯⎯⎯⎯ 「アトリエ賃貸推進プロジェクト」は、アトリエ賃貸の「仲介」ではなく、より良いアトリエ賃貸を「プロデュース」していくことが目標ですから、兼松さんとは事業が重なるところとそうでないところとがありますね。たとえば物件企画の際、助言いただくなんてことは可能でしょうか?

兼松:それは是非に! 作家さんたちが本当に必要としているものが備わったアトリエ賃貸がたくさん産まれてくるのであれば、喜んでお手伝いさせてもらいたいです。

⎯⎯⎯⎯ それは嬉しいです! そうして理想のアトリエ賃貸が完成した暁には、是非兼松さんに仲介していただきたいです。一緒にお仕事ができる機会が増えていったらいいですね。本日はどうもありがとうございました。

文:久保田大介

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久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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