《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.009

美術作家111人に聞いた「アトリエの現在と未来」~アトリエに関するアンケート調査結果報告<前編>現在のアトリエの実態

投稿日:2021年12月2日 更新日:

JIANに登録されている美術作家へアンケートを実施

アトリエ・工房付きの賃貸住宅(=アトリエ賃貸)を増やしていくことを目的に連載している「アトリエ賃貸推進プロジェクト」では、美術作家をはじめモノづくりに取り組んでいる方たちがどのようなアトリエ・工房を望んでおられるか、リサーチするところからスタートしています。
不動産業界にはアトリエ賃貸をつくろうと考える方が少なからずおられますが、アート関係者の意見をほとんど聞かずに事業を始めてしまうことがほとんど。その結果、ニーズとマッチしない失敗事例がいくつもできてしまっており、本当にもったいないことだと思っています。
そこで当プロジェクトでは、1~2年かけてできる限りリサーチ活動を行い、そのうえで新しいアトリエ賃貸をつくっていきたいと考えています。

この方針に基づき2021年10月にVol.005の記事で取材した美術家団体「JIAN」さんにご協力いただき、JIANに登録されている美術作家の方々へアトリエに関するアンケート調査を実施いたしました。
アンケートは主に「現在のアトリエの実態」と「今後希望するアトリエ像」との2つに分けて質問しました。
その結果と私なりの分析をご報告します。非常にボリュームがあるため、前編・後編の2回に分けてお届けします。今回は前編として「現在のアトリエの実態」をお伝えします。

[アンケート調査概要]

調査対象:JIANに加盟する美術作家764名
調査対象の平均年齢:32.8歳
実施時期:2021年10月3日~10月11日
調査方法:ウェブ調査
有効回答数:111名
回答者の平均年齢:33.6歳

アンケート回答者の分析

アンケート調査の結果をご報告する前に、ご回答くださった美術作家さんたちについて、簡単にご紹介いたします。
まず制作ジャンルですが、「平面」、「立体」、「インスタレーション」、「映像」、「パフォーマンス(音楽含む)」と多岐にわたっておられました。
これらについて、「立体」と「インスタレーション」を含む活動をされている方たちを「立体グループ」、「平面」と「映像」だけの方たちを「平面グループ」と分け、報告をさせていただきます。
立体と平面では創作環境が大きく異なるため、混ぜないほうがより実情に近い報告ができるのではないかという考えに基づくものです。
全体の回答数が111人と決して多くはないため、大雑把な分け方になってしまっていることをご容赦ください。

もう1点、現在のアトリエがあるエリアを伺っているので、ご紹介します。
東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県にアトリエを構えている方の割合が多いのは、JIANに登録されている美術作家がこの4都県に集中しているためです(全体の69%)。住宅事情も都道府県によって異なりますから、今回の調査結果はこの4都県に比重が置かれていることを理解し、読み進めていただければと思います。

[現在のアトリエの実態](1)アトリエの分類

それではアンケート調査結果の報告と分析を始めます。
前編では現在利用されているアトリエの実態をご報告しますが、最初はアトリエのタイプについて伺った結果です。
この設問では「住居の一部(家族と同居を含む)」、「住居とは別にアトリエスペースを賃貸」、「シェアアトリエ(共同アトリエ)」、「所属する教育機関等内のスペース」、「その他」に分けて伺いました。
上の表はその結果ですが、「住居の一部」をアトリエとして使っている方が立体グループで68.0%、平面グループで82.0%、全体でも75.7%と圧倒的に多いことがわかります。
住まいとアトリエが一緒となっている点についてメリットを伺ったところ、
◯移動時間が少なく、いつでも作業ができる
という点を挙げられた方が多く、
◯家賃が別にかからない
という費用面での利点を挙げられた方もおられました。
一方、デメリットとしては、ほぼ全員の方が
▲狭い
とお答えになりました。住居の一部をアトリエにされているのであれば、この不満は当然だと思います。
ほかに、
▲電気容量が低い
▲天井が低い
▲保管スペースがない
▲作品の搬出入がしづらい
など、創作環境として不足している点も伺うことができました。
これらは普通の住宅で解決するのはまず不可能で、課題の克服のためにはアトリエ機能に特化したスペースづくりが必要だと言えそうです。

ところで、「住宅とは別にアトリエを賃貸」している方たちのアトリエがどのようなものかも伺っているので、立体グループと平面グループとに分けて簡単にご紹介します。

こうして並べてみると、平面グループの方は住居とは別にマンションの1室を借りて専用アトリエとされている方が多いのに対し、おそらく倉庫を利用されているのだろうAさんをはじめ、立体グループの方たちの専用アトリエはかなりユニークです。音の問題をクリアし、天井の高さ、電気容量など創作には欠かせない条件があるため、普通のマンション等では厳しいということでしょうか。

[現在のアトリエの実態](2)アトリエの広さ

続いて、現在のアトリエの広さについても伺いました。
便宜上、「10㎡未満」、「10㎡以上20㎡未満」、「20㎡以上30㎡未満」、「30㎡以上50㎡未満」、「50㎡以上」という括りにいたしました。これも大雑把な感じは否めませんが、傾向を捉えることが目的の調査ですので、お許しください。
結果ですが、「10㎡未満」の方が立体グループで38.0%、平面グループで52.5%、全体でも45.9%にのぼりました。「20㎡未満」として集計すると、立体グループで66.0%、平面グループで77.1%、全体で72.0%となります。
創作するスペースだけでなく、作品を保管するスペースも必要としている美術作家の方たちにとって、「狭い」という問題は深刻であろうことがこのデータからうかがい知ることができます。
住居の一部をアトリエとして使っている方が多かったことを先ほどお伝えしましたが、狭さの原因の多くはおそらくそこにあると思います。単身者はワンルームや1Kの部屋で寝起きをしながら創作もしていて、家族と一緒に暮らしている方は個室をアトリエとしておられる方が多いようです。
ところで、「30㎡以上」の広さを確保している方を集計しますと、平面グループが8.2%なのに対し、立体グループは22.0%もおられ、明らかに差があることがわかりました。立体グループの方が広さへのニーズが強いことも読み取ることができます。

[現在のアトリエの実態](3)アトリエの満足度

現在のアトリエについて3つめの質問は「アトリエの満足度」です。
「大変満足している」と「まあまあ満足している」を「満足」グループ、「あまり満足していない」と「不満である」を「不満」グループに分類しますと、立体グループは「満足」54.0%に対し「不満」46.0%、平面グループは「満足」64.0%に対し「不満」34.4%となっており、立体グループのほうが現状に満足していない方の割合が多くなっています。それはおそらくアトリエ・工房に求められるものの要素が多いためだと思います。
しかし、私はもっと「不満」グループの方のほうが多いと予想していたので、この結果には少し驚きました。「狭さ」の点を含め課題はあるものの、皆様いろいろと工夫をし、納得のできる創作環境を作り出しておられるのでしょう。その点はさすが美術作家だと感心いたしました。

それではアトリエを移ること、新たにつくることを求めていないのかというと、そうではありません。
「よりよいアトリエを新たに賃貸したい希望はありますか?」という設問に対し、立体グループで72.0%、平面グループで62.3%、全体でも66.7%と約3人に2人の方が「ある」と回答しておられます。
雑なつかみになりますが、満足度の設問で「まあまあ満足している」と回答された方のうち約半数がよりよいアトリエを求めておられるという計算になります。
後編では、どのようなアトリエを求めておられるのかを明らかにしていきます。また、調査結果を見て、私がどのようなアトリエ賃貸をつくっていったらいいと考えたのかもお伝えしたいと思います。

前編のエンディングは、「不満」グループの方たちの不満な理由、「満足」グループの方たちの満足の理由をいくつかお届けして結びます。美術作家の方たちの生の声としてお聞きください。

「不満」グループの方たちの不満な点

※△は「あまり満足していない」方、▲は「不満である」方の声です。

「満足」グループの方たちの満足な点

※◎は「大変満足している」方、◯は「まあまあ満足している」方の声です。

【調査協力】
[一般社団法人JIAN]
2016年に設立された美術作家団体。JIANはJapanese Independent Artist’s Networkの 各頭文字をとったもの。代表理事はアート・ディレクターの小路浩氏。アーティストやアート関連事業者、教育機関、行政、地域団体などと公益型のネットワークを結び、次代を担うファインアーティストたちの成長を応援する活動を行っている(支援するジャンルは美術・音楽・映像・身体芸術など多岐に渡る)。
2019年9月、「KONOYO Studio」(東京都豊島区東長崎)に拠点を移す。主な事業は美術展「KENZAN」、「IAG AWARDS」など。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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