《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.012

区画内を自由にアレンジでき、運営方法はメンバーが話し合って決めるシェアアトリエ『AKAI Factory』

投稿日:2022年1月13日 更新日:

シェアアトリエには2つのタイプがある

AKAI Factory外観

「アトリエ賃貸推進プロジェクト」はアトリエ・工房がついた賃貸住宅を増やしていくことを目的に活動を展開しており、現在はどのようなアトリエ、工房をつくればよいかを研究している段階です。
Vol.009Vol.010では美術作家764名の方にアトリエに関するアンケートを実施し、その結果を報告しました(有効回答者数:111名)。その中で「シェアアトリエ(工房)を借りたい」と答えた作家さんが全体の22.7%を占めていたことから、シェアアトリエについても調査研究の対象とすることにしました。
ところで私は、シェアアトリエには2つのタイプがあると考えています。
運営者がいて事業として営むタイプと、ものづくりをされる方たちが共同でスペースを賃借し、シェアして使うタイプの2つです。
賃貸住宅にたとえれば、前者は「シェアハウス」の形態に近く、後者は「ルームシェア」が近いと言えるので、今後、本稿では「シェアハウス」型と「ルームシェア」型と分類することにいたします。
今回は「シェアハウス」型のシェアアトリエについてリサーチすべく、埼玉県飯能市にあるシェアアトリエ「AKAI Factory」を訪ね、運営している赤井恒平さんにお話を伺ってきました。
結論から先に述べますと、私は「AKAI Factory」に「シェアハウス型」シェアアトリエの理想を見たように感じました。なぜそう感じたか、赤井さんのお話を中心にご説明していきたいと思います。

赤井恒平さん@AKAI Factory

[赤井恒平(あかい・こうへい)さんのプロフィール]
Dig 代表/ AKAI Factory代表 / 株式会社赤井製作所 代表取締役/株式会社Akinai 代表取締役
1980年、埼玉県飯能市生まれ。明治大学卒業後、美術品・宝石品を販売する会社に3年間勤務したのち、2006年リクルートメディアコミュニケーションズへ転職。結婚情報誌「ゼクシィ」の制作ディレクターとして、結婚式場やジュエリー・ドレスショップの広告企画・ディレクションに携わる。2011年に退職後、祖父が創業した株式会社赤井製作所に勤務する傍ら(2020年に代表取締役就任)、フリーライター・カメラマンとしての活動も開始。2016年、赤井製作所の工場跡地に「AKAI Factory」を設立。2017年には飯能銀座通り商店街の空き店舗を利用したコミュニティスペース「Bookmark」、2022年にコワーキングスペース「Nakacho7」をスタートさせるなど、空き家・まちづくり事業も行なっている。

金属プレス工場をコンバージョンした「AKAI Factory」

「AKAI Factory」の全体像。

「AKAI Factory」は西武池袋線・西武秩父線「飯能」駅の北口を出て徒歩5分という場所にあります。
「飯能」駅は西武池袋線の終着駅で、急行を利用すると「池袋」駅まで50分少々で行けるので、十分に通勤圏内だと言える駅(始発駅ですから朝は座って行けます)。飯能市は古くから林業や電気・機械工業が盛んで、最近はムーミンバレーパークができ、賑わいを見せている街です。
「AKAI Factory」の代表者である赤井恒平さんは、精密プレス金型の製造・加工を行っている株式会社赤井製作所の代表取締役で、このシェアアトリエは同社の工場だった建物をコンバージョンしたものです。
第二次世界大戦中の工業疎開で祖父の代に渋谷から移転してきたとき建てられたそうですから、築年数は実に80年近くになります。
2013年に飯能市内の工業団地に再度移転した際、残されたこの建物をどうするか検討され、取り壊してマンションを建設する案もありましたが、赤井さんが選択したのは再活用し、シェアアトリエとする道でした。
まずはこのあたりの経緯からお話を伺ってみましょう。

「AKAI Factory」設立の経緯

「AKAI Factory」にて赤井恒平さんのお話を伺う。

⎯⎯⎯⎯ 金銭面のことだけ考えれば、工場跡地は売却してしまったり、商業ビルや賃貸マンションに建て替えたりしたほうが儲かるように思いますが、赤井さんはなぜシェアアトリエにされたのですか?

赤井:それでは普通すぎて面白くも何ともないと思ったからです。私は建築に興味があるのですが、この工場はとても面白い建物だと思いました。それと祖父や父が生きてきた場所を簡単に壊してしまっていいものだろうかという想いもあって、これを使って何かできないか?と考えたのです。

⎯⎯⎯⎯ シェアアトリエにする案はすぐに思いつかれたのですか?

赤井:元々アート好きなので、比較的早い段階で案としてあがりました。久保田さんは横浜にあったハンマーヘッドスタジオ「新・港区」をご存知ですか? 私はそこに触発され、規模は小さくても飯能で似たような活動ができないかと考えました。

⎯⎯⎯⎯ 10年ぐらい前、横浜港の埠頭に設けられたシェアアトリエですね。今はもう活動されていないと思いますが。

赤井:工場を移転したのが2013年だったので、当時ハンマーヘッドスタジオはまだ活動していて、何度か見学に行き、参考にさせてもらいました。それと私はリクルートで結婚情報誌「ゼクシィ」の広告制作をしていて、長野県や静岡県を担当していたのですが、取材時にいろいろな街を歩き回り、「地方が面白い!」と思うようになっていました。飯能は私の出身地ですが、この街をもっと誇らしいものにしたかった。街には面白いものがあまりなかったけれど、ないなら自分がつくればいいと考えました。

⎯⎯⎯⎯ なるほど~。しかし思い切りましたね(笑)。

赤井:あとはアンディ・ウォーホルの「ファクトリー」に強い憧れがあって、それを自分でもやってみたいと思ったのも大きかったです。「ファクトリー」はニューヨークにあるウォーホルのアトリエで、美術家だけでなくミュージシャンや俳優などが集まるサロンになって、さまざまなコラボレーションが行われた場所です。

⎯⎯⎯⎯ 「AKAI Factory」の名前もそこに由来しますか?

赤井:それもあります(笑)。あとはここが実際に工場だったので、ものづくりの精神を残していきたいという思いもありました。

「AKAI Factory」の概要

「AKAI Factory」の内部。

「AKAI Factory」は増改築を繰り返しているため、正確なところはわかりませんが、全体で330㎡ぐらいの広さがある2階建ての木造建物です。
1階には6区画のシェアアトリエとギャラリー、アーティストショップがあり、2階にはシェアアトリエが3区画あります。
シェアアトリエの利用者は、和紙造形作家、画家、革細工作家、染色・布小物作家、ジュエリー&ナイフ作家、木工作家、ジュエリー&アクセサリー作家、珈琲豆焙煎職人の8人で、30~60代のクラフト職人さんが中心です。初めて見たとき、私は区画が整然と割り振られていないことに少し驚きました。

区画割りがとてもユニーク。

⎯⎯⎯⎯ シェアアトリエというと、区画割りが比較的平等だというイメージがありますが、「AKAI Factory」はずいぶんと違うようですね。

赤井:はい、全くバラバラです(笑)。はじめに区画割りをするとき、だいたいの㎡単価を決めて、初期メンバーの方たちに必要な広さと払える家賃はどれぐらいか、自分で考えてもらって割り振りました。

⎯⎯⎯⎯ それは斬新な発想ですね!

赤井:初期から現在に至るまでメンバーはクラフト職人さんが多いですが、制作ジャンルによって必要とする広さが違うと思ったんです。でもそれは私にはわからないから、皆さんの希望をお聞きすることにしました。

⎯⎯⎯⎯ なるほど~。それは理に適った考え方です(笑)。初期メンバーは赤井さんが集められたのですか?

赤井:いや、それが全くアテがなくって・・・。父が狩猟を趣味にしていて、ナイフを何度か購入したことがあるホイールワークスの宮尾真さんに検討段階で相談をしました。宮尾さんとは「ファクトリー」の話で盛り上がって、メンバー集めを快諾くださり、自身の工房もここに設けてくれました。

⎯⎯⎯⎯ それでクラフト職人さんが多くなったんですね。

赤井:クラフト職人さんたちは、ものづくりをしてきちんと生計を立てておられるので、貸す側としては安心感があったということもあります。

洗い場とガス台を引き込んだ方も!

⎯⎯⎯⎯ 中を拝見すると、区画割りがバラバラなだけでなく、内装もバラバラです。土間のまま使っている方もいれば、床をつくっている方もいる。区画の周囲に壁を設けている人もおられますね。

赤井:私は電気工事やベニヤの張替えなどインフラを整えただけで、あとはメンバーに自由にやってもらっています。中には水道を引き込んで洗い場をつくり、ガス工事もしてガス台まで設けた方もおられますよ(笑)。

⎯⎯⎯⎯ いやぁ~、それは自由で素晴らしい!

赤井:退去時の原状回復は原則不要としていて、自分の持ち込んだものだけ持って帰ってもらうことにしています。

周囲に仕切壁をつくっている画家さんのアトリエ。

木工作家さんのアトリエ。

⎯⎯⎯⎯ 仕切り壁をつくっているのは何の作家さんですか?

赤井:それは画家さんです。作品に埃がついてはいけないので、ご自分で壁をつくられました。あとから隣りの区画に木工作家の方が入ってこられたのですが、そこでも作業中、木くずが出るのでちょうどよかったです。

⎯⎯⎯⎯ 木工作家さんというと、木材を切るときなどに相当な音が出そうですが、近隣やメンバーの方は大丈夫ですか?

赤井:木工作家さんが出される音はこの中では小さいぐらいで、彫金の方が出す音もなかなかだし、一番すごい音を出すのは2階で機織りをされている作家さんです。

染色・布小物作家さんのアトリエ。

⎯⎯⎯⎯ 機織り???

赤井:「鶴の恩返し」の作業風景を思い浮かべるとイメージしやすいかもしれませんが、昔ながらの機織り機を使って、バッタン、バッタンと大きな音を立てられるんです。振動で建物が揺れるときがありますよ(笑)。

⎯⎯⎯⎯ ほぉ~っ、それはすごい。ご近所から苦情は来ないのですか?

赤井:来ないですね。ほら、ここは元々金属プレスの工場だったから、当時の音のほうがずっと大きかったんです。近くに線路があって電車の音もすごいから、ご近所さんたちは音には寛容なのでしょう。

⎯⎯⎯⎯ それは恵まれた環境ですね。

赤井:オープン当初、ここでライブをやっていて、ドラムも叩いたのですが、そのときはさすがに「勘弁してくれ」と言われました。すぐにやめたけれど、音の苦情と言ったらそれぐらいですかね(笑)。

⎯⎯⎯⎯ そうすると音出しについては特に制限を設けていないのですか?

赤井:シェアアトリエは24時間利用可能で、寝泊まりもOKとしていますが、音出しは20:00までというルールを定めています。

「AKAI Factory」の側面。一部の天井が波打っているのがわかる。

⎯⎯⎯⎯ 寝泊まりができるというのもすごいです。住まいが要らないじゃないですか?

赤井:いやぁ、でも1階にはエアコンがないから、夏はとても暑くて大変です。メンバーは各自ストーブを持ち込んでいますが、冬の寒さもなかなかのものですよ。

⎯⎯⎯⎯ そういえば、先ほど建物の回りをぐるりと拝見したのですが、一部、天井が波打っていました。ひょっとして雨漏りなんかもするのですか?

赤井:はい、します。建物が古くて屋根を張り替えることは不可能らしく、雨漏りが出たらその部分を塞いで対症療法を繰り返しています。

⎯⎯⎯⎯ あら~。そうすると作品が雨で濡れてしまって苦情が来たりしませんか?

赤井:借りていただく前にその点は十分に説明し、納得された方だけ契約しています。契約時に交わす合意書にも「雨漏りにより作品や設備等が破損、汚損しても、貸主は一切責任を負わない」という内容の条文をつけています。

⎯⎯⎯⎯ なるほど、そんな契約を交わしているんですね(笑)。

赤井:まあ、ここはかなり安いんで、そのリスクを背負っても借りる価値があると思う方だけが使っている感じですね。

「AKAI Factory」の利用料

共用の休憩スペース。喫煙もOK。

⎯⎯⎯⎯ ところでシェアアトリエの利用料はいくらぐらいなのですか?

赤井:入っていただいた経緯などによって、まちまちな部分もあるのですが、だいたい㎡あたり1,000円ぐらいです。

⎯⎯⎯⎯ ㎡単価1,000円というと、30㎡借りても月額30,000円ってことですか? それは格安ですね。

赤井:ほかに水道光熱費や4区画ある駐車場の利用料を人数割しています。

アーティストショップの店内。

⎯⎯⎯⎯ あら、人数割だと不満は出ませんか?

赤井:そういうことはメンバー間で毎月1回、定例ミーティングを開いていて、そこでみんなで話し合って決めています。

⎯⎯⎯⎯ 赤井さんが決めるのでなく、利用者による合議制ということですか?

赤井:はい、そうです。定例ミーティングでさまざまな問題、課題を話し合い、自分たちでルールを決めてもらっています。一度決めたルールも運用してみて変だと思ったら、すぐに修正する。その繰り返し。

⎯⎯⎯⎯ 運営事業者としては勇気が要る方法ですね。

赤井:確かにそうかもしれません(笑)。でもそれが長続きする秘訣だという気もしています。アーティストショップもみんなで話し合って始めたんですよ。

⎯⎯⎯⎯ 赤井さんの企画かと思っていたのですが、違うんですね。

赤井:はい。オープン当初はカフェとしてお貸ししていたのですが、3年ほどでその方が撤退されてしまって、残ったスペースをどうするかメンバーで話し合い、各自の作品を売るショップにすることになりました。

⎯⎯⎯⎯ へぇ~っ、そんなことも皆さんで決めたんですね。

赤井:義務ではないから参加していない方もいます。出店する人には月額3,000円出してもらっていて、週4日営業しているのですけど、店番も交代でやってもらっています。

⎯⎯⎯⎯ ネットショップもあると伺っていますが、それも皆さんで話し合って決めたのですか?

赤井:ええ、そうなんですけど、なぜか運営は私がやらされてます(苦笑)。メンバーは自分のネットや他の店でも作品を販売しているのですが、1点ものばかりなので、ネットショップ上の販売管理がとても大変なんですよ。

⎯⎯⎯⎯ いやぁ、想像するだけで大変さがよくわかります。

シェアアトリエを増やす計画は?

元カフェの厨房だったスペース。現在は共用している。

⎯⎯⎯⎯ 赤井さんは飯能に拠点を置いて、ほかにもコミュニティスペースやコワーキングスペースなどをやっておられますから、こうしたシェアアトリエを増やそうという構想もあるんじゃないですか?

赤井:ええ、考えなくはないし、実際そうした相談もいただいたりしますが、新しく始めても利用者が現れるか心配で・・・。

⎯⎯⎯⎯ 空き区画が出たとき、次の利用者はいつもどうやって募集されているのですか?

赤井:ちゃんとした募集活動はしてないですね。「AKAI Factory」のインスタグラムで募集情報を流すぐらいです。それを見て来られる方もいますが、口コミが多いように思います。

⎯⎯⎯⎯ それでも、常時満室だからすごいじゃないですか。シェアアトリエを新しくつくっても大丈夫な気がしますが。

赤井:そのあたりは自分でもよくわからないんですよね。

⎯⎯⎯⎯ そうであれば「ワクワク賃貸」でもお手伝いさせてください。現在(※2021年12月時点)、アトリエ賃貸に空き待ち登録をしてくださっている方が124名おられて、毎月増え続けていますから、その方たちに募集情報を届けます。

赤井:それは心強いですね。それなら考えてみてもいいかもしれません(笑)。

⎯⎯⎯⎯ はい、是非前向きにご検討ください! 本日はどうもありがとうございました。

今回のまとめ

赤井恒平さん@「AKAI Factory」エントランス

今回は「シェアハウス」型のシェアアトリエということで「AKAI Factory」をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
私は、赤井さんがものづくりをする方たちに対して強い敬意を抱いているという点に深く感じるところがありました。
赤井さん自身にもこのスペースを使ってやってみたいことはたくさんあると思うのですが、独断専行することなく、作家さんたちと協議を重ねながら進めておられる。区画割りの決め方からして“押し付け”というものがなく、利用者さんたちは造作も思い思いに行えて、原状回復も不要という自由を得ておられます。それが冒頭で「『シェアハウス型』シェアアトリエの理想を見た」と述べた理由で、私は赤井さんのような運営事業者がつくるシェアアトリエはどんどん増えてほしいと思いました。
「AKAI Factory」の空き待ち登録も受付を開始いたしますので、関心のある方は気楽にご登録ください。
空きが出たとき、赤井さんが新しく飯能にシェアアトリエを開いたときにお知らせいたします。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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