《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.022

武蔵通商株式会社(東京都武蔵村山市)の美術品専用倉庫を訪問取材!~アトリエ賃貸の保管スペースについて考える

投稿日:2022年9月29日 更新日:

作品保管スペースの重要性

2021年3月に「アトリエ賃貸推進プロジェクト」を開始して以来、美術作家さんのアトリエや“ものづくり”を生業としている方たちのシェア工房、武蔵野美術大学の学生さんが使っているアトリエなど、多くの制作現場を訪ね、制作スペースに必要なものが何かということを学んでまいりました。
取材にご協力くださった方々のおかげで、多くの気付きを得てまいりましたが、プロジェクト開始前と今とで認識が大きく異なる点の筆頭は「保管スペースの重要性」です。
作家さんたちには「そんなことも知らなかったの?」と呆れられてしまうかもしれませんね。どの世界でも同じことが言えますが、無知というのは恐ろしいものです。
保管スペースとしては、「制作中の作品を保管するスペース」と「作品が売れるまでストックしておくスペース」が必要だということがわかりましたが、大きな戸建て物件ならいざ知らず、賃貸マンションやアパートにこのスペースをご用意するのはなかなか骨です。
アトリエ空間を広くすることで「制作中の作品を保管するスペース」はある程度確保することができるけれど、売れるまでアトリエや居室でストックしておくのは厳しい話です。

武蔵野美術大学周辺エリア新築プロジェクトの作品保管スペース

武蔵野美術大学周辺エリア新築プロジェクトの候補地

Vol.021でご紹介した、武蔵野美術大学周辺エリアでの新築プロジェクトでも、作品の保管スペースをどのように確保するかは大きな課題となっています。
専門的な話となりますが、今回のプロジェクト用地は都市計画法で定める「用途地域」の中で「第一種低層住居専用地域」に指定されています。
第一種低層住居専用地域は、専ら低層の住宅を建てるためのエリアで、高い建物、住宅以外の建物を建てることが建築基準法で厳しく制限されています。
作品の保管スペースは純粋に捉えれば「倉庫」ということになるのですが、第一種低層住居専用地域では倉庫を建てることもできません。小さな物置を置くぐらいでしたら問題ないけれど、マンションやアパートに小さな物置を置いたところで、入居者さんたちの作品を預かるにはスペースが足りません。
さてどうしたものやら?と考え続けてきましたが、ある時、オーナーさんが「小平市のお隣、武蔵村山市に武蔵通商株式会社という倉庫会社があります。ネットで調べましたら、ここには美術品を預かる専門倉庫もあることがわかりました。この倉庫を活用させていただくというのはどうでしょう?」とご提案くださりました。
ただ提案するだけでなく、武蔵通商から資料を取り寄せ、電話やメールで質疑応答を重ね、その結果を私に報告してくれました。
その内容が非常に興味深いものだったので、私自身も自分の目で倉庫を見て、ご担当者から直接お話を伺いたいと思いました。オーナーさんにそう伝えると、「私も現場を見たいのでご一緒させてください」と言われ、武蔵通商の担当者さんに繋いでくださいました。
担当者さんは私たちの申し出を快諾してくれ、2022年7月12日に同社の倉庫を見学させていただきました。
以下、武蔵通商さんから教わったことをインタビュー形式でお伝えしたいと思います。

武蔵通商の美術品専用倉庫視察

武蔵通商株式会社の外観

⎯⎯⎯⎯ 本日はお忙しい中、私たちの取材に応じてくださり、ありがとうございます。はじめに美術品専用倉庫について教えてください。

武蔵通商:倉庫はまず「営業倉庫」と「自家用倉庫」とに分類されるということはご存知ですか?

⎯⎯⎯⎯ いえ、知りません。

武蔵通商:では、そこから簡単にご説明しましょう。
私たち倉庫業者は「倉庫業法」という法律に基づいて業務を行っています。お客様の大切な貨物を有償で保管する場合は、原則として国土交通大臣から倉庫業の登録を受けた「営業倉庫」でなければお預かりできません。

⎯⎯⎯⎯ はぁ~・・・とするともうひとつの「自家用倉庫」では貨物は預かれないということですね?

武蔵通商:その認識で概ね問題はないのですが、自家用倉庫に関しては倉庫業法の適用外となる場合があり、直ちに違反していると断定はできません。自家用倉庫の場合、賃貸借契約を締結し、賃借人が倉庫物件を自由に使用するイメージとなります。この場合は保管料としてではなく賃料として請求される形になりますね。

⎯⎯⎯⎯ すみません。ちょっと頭がついていきません(苦笑)。とすると、私たちは今回、入居者である作家さんたちの作品を預ける先として貴社に相談しているわけですが、営業倉庫でなく自家用倉庫を借りて預けてもいいということですか?

武蔵通商:そういうことになりますが、大切な美術品を預けるのならば、やはり営業倉庫に預けたほうが安心です。営業倉庫は倉庫業法で定められた施設設備基準を満たしているけれど、自家用倉庫がそれを満たしているかどうか、大家さん、管理会社さんのほうでチェックするのは難しいと思います。

⎯⎯⎯⎯ 確かに、大家さんや管理会社側に責任が生じますから、それは大事なことですね。では営業倉庫として認められている倉庫であったら、どこに預けてもいいのでしょうか?

武蔵通商:いえ、それだけではダメだと思います。営業倉庫には「常温」、「空調(=温度管理のみ)」、「温湿度管理」の3種類がありまして、美術品を保管するのであれば「温湿度管理」のできる倉庫を選ばれたほうが安心でしょう。ただし、「温湿度管理」のできる倉庫は保管料が一番高いです。だから、預ける作品によっては温度管理の要らないもの、温度管理だけでいいものもあると思うので、上手に使い分ける方法もあると思いますよ。

武蔵通商の美術品専用倉庫

⎯⎯⎯⎯ なるほど~。武蔵通商さんではそのようなアドバイスもしてくださるのですか?

武蔵通商:もちろんです。先ほど、温度・湿度の管理で3種類あると言いましたが、倉庫のタイプとしてはトランクルームやレンタル倉庫などもあります。トランクルームは空調管理ができるものもありますから、こちらも使い分けるとよいかもしれませんね。

⎯⎯⎯⎯ ありがとうございます。ただ、私たちはこまやかにオペレーションすることがなかなかできないと思うので、専ら「温湿度管理」ができる美術品専用倉庫を入居者さんたちに提供させていただくことになるかと思います。その美術品専用倉庫ですが、貴社のスペックを教えていただけますか?

武蔵通商:当社のサイトにも記載させていただいていますが、概ね次のようなものとなります。

[武蔵通商・美術品専用倉庫のスペック]

対応サイズ 2㎡四方=大きな作品の保管も可能
温度 20~25℃=美術品に最適な温度管理
湿度 50~55%=リアルタイムで温湿度を監視
太陽光 遮断=直射日光遮断し劣化を防ぐ
耐荷重 750kg/㎡=石像やモニュメントにも対応可能
消火設備 ガス消火=作品を損傷するリスクが少ない
セキュリティ 24時間警備=入室には電子キーを採用

⎯⎯⎯⎯ ありがとうございます。すみませんが、こまかな点について質問させてください。
はじめに「対応サイズ」ですが、こちらは作品のサイズを言っておられると思うのですけれど、私たちが借りられるスペースはどれぐらいからなのでしょうか?

武蔵通商:保管スペース自体は坪単位でお貸ししています。

⎯⎯⎯⎯ 坪単位というのは平面で見たときの広さだと思いますが、高さはどれぐらいまで使えますか?

武蔵通商:美術品専用倉庫の天井高は約2.7mなので、その高さを使って立体的に利用いただくことができます。

武蔵通商のエレベータ

⎯⎯⎯⎯ 貴社の美術品専用倉庫は3階にありますが、そこまで作品を搬入するエレベータはどれぐらいのサイズの作品が入りますか?

武蔵通商:エレベータは、入り口扉が幅2,200mm、高さ2,100mm。ゲージ内は幅2,200mm、高さ2,100mm、奥行き2,800mmとなっています。絵画作品でしたら、斜めに入れると3,020mmのものまで収容できます。

⎯⎯⎯⎯ かなり大きな作品を搬出入できますね!

武蔵通商:はい。そしてもっと大きな寸法の作品については1階の倉庫など別の場所での保管することも検討可能です。

⎯⎯⎯⎯ 1階倉庫は温湿度管理ができるのですか?

武蔵通商:いえ、湿度管理はできないので、それが不要な作品なら、という条件がつきます。

⎯⎯⎯⎯ それでも一概にNGと言われるよりはありがたいですよね。

棚やパレットなどの組合せも助言してくださる

⎯⎯⎯⎯ 美術品専用倉庫は立体的に利用できるとのことでしたが、棚などをどのようにつくったら有効活用できるかがちょっとわからない感じです。

武蔵通商:その点は当社がしっかりサポートさせていただきます。何をどのように保管したいか伺って、必要となるスチール棚やパレット、ゲージ付き台車などを組み合わせ、設計のお手伝いをいたします。

⎯⎯⎯⎯ ああ、それはありがたいですね。スチール棚などはおいくらで貸していただけるのですか?

武蔵通商:中古のスチール棚やパレットなら無償でご提供します。ネスラックや新品のスチール棚をご希望の場合は別途お見積りしますが、それほど高額なものにはならないと思います。

⎯⎯⎯⎯ 無償ですか?それはびっくりです。
ところで搬出・搬入作業は貴社に依頼しないといけないのでしょうか? お願いすれば高くなってしまうイメージがありますが・・・。

武蔵通商:搬出・搬入はお客様がご自身でしていただいても構いませんよ。

⎯⎯⎯⎯ その場合は電子キーを貸してくださるのですか?

武蔵通商:いえ、お客様が倉庫内で作業するときはスタッフが必ず立ち会うようにしています。

⎯⎯⎯⎯ なるほど。仮に搬出・搬入をお願いしたら、いくらになりますか?

武蔵通商:1名が1時間作業するとして2,500円(税別/2022年7月現在)となります。

⎯⎯⎯⎯ それはとてもリーズナブルな気がします。

武蔵通商:たとえば2人で作業したら30分で済むとしますよね。その場合でも2,500円(税別)で大丈夫です。

⎯⎯⎯⎯ 先ほどからお話を伺っていて、貴社の対応はとても柔軟なので、いちいちびっくりしています。
お預けしている作品の管理などはこちらでやるのでしょうか?

武蔵通商:作品管理はお客様のほうでしていただいても構いませんが、当社でも行えます。作家名・管理番号・作家さんがつけた管理番号・写真などを記載したラベルを作品に貼るほか、PC管理もしています。

⎯⎯⎯⎯ 至れり尽くせりですね。ほかに付け加えることはあるでしょうか?

武蔵通商:作品にはおそらく保険を掛けられると思いますが、どれぐらいの保険金額に設定したらよいかアドバイスさせていただいています。また画廊の方などと商談をされたいときに会議室をお貸しすることも可能です。

⎯⎯⎯⎯ 何とまあ・・・。訊けば訊くほど、すごいサービスが出てきますね(笑)。この美術品専用倉庫自体も照明はLEDを使っておられるから、照明の光で作品が傷む心配がないし、床面もコンクリートでとても清潔で、すごく好感が持てます。

武蔵通商:どうもありがとうございます。

武蔵通商のサービス

武蔵通商の「絵画梱包キット」

⎯⎯⎯⎯ ネットで調べたのですが、貴社は「美術品・楽器・高級家具物流.com」というサイトを運営しておられますね。

武蔵通商:こまかなところまで確認くださって、ありがとうございます(笑)。

⎯⎯⎯⎯ そのサイトで「絵画梱包キット」というものを販売しておられることを知りました。こちらについて詳しく教えていただけますか?

武蔵通商:「絵画梱包キット」は当社が開発した商品で、誰でも簡単に自分で絵画を梱包できるというキットです。緩衝効果の高い緩衝材が使用されているので、安全性にも優れていますし、何度でも使えるのでオススメです。

⎯⎯⎯⎯ 作家さんたちが自分で梱包資材を準備するのは手間なので、ありがたい商品だと思います。

武蔵通商:プラダン(※注:プラスチック段ボールの略)でできているのですが、寸法を指定していただき、図面などをご準備くださったら、オーダーメイドもできます。

⎯⎯⎯⎯ オーダーメイドもしてくださるのですか? それはすごいです!

武蔵通商が使用している「エアサス車」

⎯⎯⎯⎯ 倉庫から作品を美術館やアートギャラリーに運搬することもお願いできるのですか?

武蔵通商:もちろんです。当社ではデリケートな荷物の輸送、運搬に最適なトラック「エアサス車」を使用していて、夏場などは空調車両(※注:エアコン付き車両)を準備することも可能です。 小型の作品輸送時でしたら、やはりエアコンがついているライトバンで輸送することもできます。どの車両が適しているかは私たちから提案させていただいています。

⎯⎯⎯⎯ とてもこまやかに対応いただけるんですね。

武蔵通商:美術作品輸送の研修プログラムを経て資格を得たスタッフが、梱包から搬出・搬入まで対応しますので、その点もご安心いただけるかと思います。

⎯⎯⎯⎯ 大切な作品を雑に扱われたら困りますものね。輸送エリアは国内ならどこでも大丈夫ですか?

武蔵通商:国内はもちろん、海外への輸出にも対応しています。料金体系も明確になっていますので、気軽にご相談ください。

⎯⎯⎯⎯ 美術品専用倉庫業界はここまで進んでいたのですね!びっくりすることばかりで、いい勉強になりました。丁寧にご説明くださり、ありがとうございました。

武蔵通商を活用するアイディア

今回の武蔵野美術大学周辺エリアでの新築プロジェクトでは、お隣の武蔵村山市に武蔵通商さんという素晴らしい倉庫事業者さんがおられることがわかり、保管スペースの確保に目処が立ちました。
とは言え、単に「武蔵通商さんの美術品専用倉庫をご利用ください」と入居者さんたちに言うだけでは芸がありません。
一通り取材を終えたあと、この新築プロジェクトについても詳しくご説明し、さまざまなサービス方法のアイディアを武蔵通商さんにぶつけてみましたら、どの案も前向きに検討いただけるとの回答が得られました。
インタビュー中にもお伝えしましたが、顧客の要望に柔軟に対応くださるのが武蔵通商さんの一番ありがたい点だと思います。
私たちのアイディアを皆様に公開するのは、もう少し先にしたいと思いますが、美術作家さんや“ものづくり”を生業とされる入居者さんたちには、きっと喜ばれるサービスになるものと思います。
保管スペースの確保を視野に入れたアトリエ賃貸の新築プロジェクトは、おそらく例がないように思いますので、どうぞご期待ください。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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