《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.023

アトリエ賃貸と作品の搬入・搬出

投稿日:2022年11月3日 更新日:

“良質”なアトリエ賃貸づくりのために大事なこと

「アトリエ賃貸推進プロジェクト」は“良質”なアトリエ・工房付きの賃貸住宅(=アトリエ賃貸)をつくること、増やしていくことを目的に連載しています。
あえて「良質」と言ったのは、アトリエや工房には建築上の定義はなく、「ここがアトリエだ」と言えばどんな建物でもアトリエになるからです。
しかし、美術作家さんや“ものづくり”を生業とする方たちにとって、使いやすいアトリエ・工房というのは確かにあると思うので、「アトリエ賃貸推進プロジェクト」を標榜するのであれば、“良質”なものを追求していきたい、いや追求していくべきだと考えています。

倉庫や店舗物件なら大きな入り口が望めるが・・・。

“良質”なアトリエ賃貸づくりのため、この連載では調査・研究の過程をレポートしていますが、進めていくうちに「作品の搬入・搬出のしやすさ」がアトリエ賃貸にとって非常に重要なポイントだと考えるようになりました。
恥をしのんでお伝えしますが、連載開始前、私は「汚したり、音を立てたりしても大丈夫な空間をつくればいい」ぐらいのレベルで考えていて、そのため床を土間にすること、壁に釘を打っても良いようにすることなどが大事だと思っていたのです。それが間違っているとは思いませんが、それだけなら(多くはないけれど)すでにあって、でもそれでは足りない何かがあるから、作家さんたちはアトリエ探しに苦労されているのだと思います。
その“何か”が何なのかということが、連載を続けているうちに少しずつわかってきました。
そのひとつが「作品の搬入・搬出のしやすさ」です。
店舗や倉庫、工場・作業場にあって、普通の住宅やマンション・アパートにないポイントの筆頭が、おそらく「作品の搬入・搬出のしやすさ」だと思います。
小さな作品を描いたり、つくったりしているうちは、普通の住宅でも足りているのですが、大作に取り組もうとしたら、たちまち困ってしまう。普通の住宅では大きな作品をアトリエから出すことができないし、いやそれ以前に大きなキャンバスを室内に入れることもできません。

大きな玄関ドアを賃貸住宅に導入するのは難しい。

普通の一戸建てやマンション、アパートの玄関ドアは片開きで、サイズは高さ1,800~2,000mm程度、幅は800~900mm程度のものがほとんどだと思います。
高さや幅がもっとある玄関ドア(ハイドア/2800mmクラス)もあり、それがあれば大きな作品も出し入れできるのですが、賃貸住宅でそうした玄関ドアを採用する例は極めて稀です。
なぜなら、ハイドアを製造している会社がそもそも少なく、あっても建物の構造計算の仕様に合致する商品を特注する必要性があるためです。
玄関開口部が通常より広くなり、かつ天井の高さとの兼合いもあり、さらに木造の場合は構造計算の難易度がアップします。
また玄関ドアは高さ・幅が大きくなるほど高額にもなっていくので、たとえば車椅子で楽に出入りできるようにしたいなど特別な目的がなければ大きなドアを用いることはまずありません。

もしハイドアを採用したとしても、大きなサイズの作品を搬出・搬入するには共用廊下の幅も広くなければいけません。
共用廊下の有効幅は通常900~1,000mm程度ですので、絵画のサイズでいくと、梱包されていることも考慮して100号あたりが搬出・搬入のほぼ上限なのではないかと思います。
一方、壁面から900mm以上跳ね出す外廊下は、建ぺい率・容積率に含まれることになります。つまりその分、居室の専有面積を減らしてしまうことになるので、広い外廊下をつくる大家さんは少ないです。

作品の搬入・搬出をしやすくするアイディア

春日部邸のアトリエ。左奥に搬出・搬入用ドアがついている。

細長い搬出・搬入用ドア。

搬出・搬入用ドアは庭に面していて、ここから道路に作品を出し入れできる。

アトリエ賃貸を新築する際は、作品の搬入・搬出がしやすいよう、できる限り大きな玄関ドアを設置したいと思いますが、既存住宅をアトリエ賃貸にリノベーションする場合、玄関ドアをいじることはなかなか難しい相談です。
一案として、戸建て住宅や木造アパートの1階であれば庭に面した壁の一部を開口し、細長いドアをつけることは可能だと思います。
Vol.016で池袋モンパルナスの往時をしのばせる「春日部邸」をご紹介しましたが、ここにはアトリエに高さ2,700mmほどの細長いドアが設けられていました。ドアは人が通るのは大変な細さですが、絵画を出し入れするのにはちょうどいい幅です。ドアは庭に面していて、庭から道路に直接出られるので、搬出・搬入の動線はバッチリです。このドアを使えば200号サイズの絵画が搬出・搬入できますね。

別案ですが、先日、木造アパートの2階をアトリエ賃貸にリノベーションする相談を受けたとき、アパートの外廊下についている鉄柵を一部開閉式にするアイディアを考えてみました。玄関ドアを開けたところにある鉄柵を開閉できるようにしておき、ドアから大きな作品を出すとき、鉄柵を開けばかなり大きな絵画でも外には出せると考えたのです。
その部屋の玄関ドアは高さが1,800mm程度だったので、理論的には130号サイズぐらいまでなら搬出・搬入は可能です。
ただ、鉄柵の強度が落ちるリスクがあり、コストもかかることから、大家さんは慎重に検討されています。

200号サイズの絵画の搬入・搬出を目指す武蔵野美術大学周辺でのアトリエ賃貸新築プロジェクト

武蔵野美術大学周辺のアトリエ賃貸新築用地。

先ほど「アトリエ賃貸を新築する際は、作品の搬入・搬出がしやすいよう、できる限り大きな玄関ドアを設置したい」と言いましたが、Vol.021でご報告した武蔵野美術大学周辺でのアトリエ賃貸新築プロジェクトでは200号サイズの絵画を搬入・搬出できるようにするため、玄関ドアのサイズや道路までの動線を工夫するプランを練っています。
賃貸マンション・アパートで200号サイズの絵画を描けるようになったら、これはかなり画期的なことだと思います。
現在、建設会社から最終プランと見積りがあがってくるのを待っています。決定しましたら、またご報告いたしますので、どうぞご期待ください。

文:久保田大介

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久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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