《 菓子工房賃貸推進プロジェクト 》Vol.020

【菓子工房シェア利用者インタビュー】第1回:菓子工房シェアをステップに活動領域を拡げていく飴細工アーティスト・小林旺広さん

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菓子工房をシェアしている方たちの生の声をお届けします

「ワクワク賃貸」では、自前の菓子工房を持ちたいと考えておられる方たちに「菓子工房シェア」という選択肢をご提案しています。
「シェアキッチン」という言葉やスペースはよく知られていますが、私が提案する「菓子工房シェア」は全くと言っていいほど普及していません。
そこで「菓子工房シェア」がどのようなものかご理解いただくために、実際に利用されている方たちにインタビューをしていくことにしました。
第1回は飴細工アーティストの小林旺広(こばやし・あきひろ)さんにお話を伺ってきました。
小林さんには私どもが企画した菓子工房シェア専用ルーム「wdsビル201号室」を2023年10月から借りていただいていますが、本年(2024年)4月末でこの貸室を巣立って行くことが決まったため、その前に急ぎ取材をさせてもらいました(なぜ羽ばたいていかれることになったかも詳報します)。
「wdsビル201号室」で小林さんは、月に数回、飴細工教室を開催しておられましたが、私はそもそも飴細工をよく知らないので、教室が開かれている日に合わせて訪問してまいりました。

[小林旺広さんのプロフィール]

飴細工アーティスト。1996年 埼玉県生まれ。
都内パティスリー、レストラン、ホテル勤務を経て、2023年に「アトリエシュクラピヌ」をオープン。
講師活動、ディスプレイ製作などを通して、飴細工の美しさや楽しさを広めるため幅広く活動中。

[受賞歴]

  • 2016年 ジャパンケーキショー・ ピエスアーティスッティック部門 銀賞
  • 2018年 内海杯技術コンクール 銀賞
  • 2019年 内海杯ジュニア技術コンクール 金賞
  • 2019年 ファーストトライアルコンペティション 味覚部門 優勝ピエスモンテ部門 優勝
  • 2021年 第1回グランマルニエ杯 優勝
  • 2022年 第29回ルクサルドグランプレミオ 優勝
  • 2023年 クープデュモンドドュラパティスリー国内予選 ファイナリスト など


★こちらをクリックいただくと、小林旺広さんが主宰する「アトリエシュクラピヌ」のサイトをご覧いただけます。

「菓子工房シェア」の利用を決めた理由

飴細工教室で指導中の小林さん(右側)

⎯⎯⎯⎯ 本日は飴細工教室が終わったばかりでお疲れのところ、ありがとうございます。

小林:いえいえ、こちらこそ見学くださってありがとうございました。飴細工教室はいかがでしたか?

⎯⎯⎯⎯ 私は飴細工作品を見ること自体が初めてで、つくっているところはもちろん拝見したことがなかったので、とても面白かったです。飴をバーナーで溶かして接着していくところなんか、「やってみたい!」と思いました(笑)。
今日はマンツーマンで指導をされていましたが、いつもは多人数でなさっているのですか?

小林:いえ、いつもマンツーマンです。委託を受けて指導している教室では複数の方に同時に教えていますが、自分の工房ではマンツーマン形式で教えることにこだわっています。

⎯⎯⎯⎯ 小林さんは飴細工の大会で何度も優勝している方なので、個人指導をしてもらえるのは嬉しいでしょうね。

小林:生徒さんによって、今、求めているものは違いますし、作風もオリジナリティーにこだわってほしいという思いがあるので、自分の工房を持てたらマンツーマン指導をしてみたいと思っていました。

⎯⎯⎯⎯ 小林さんは、今もレストランでパティシエの仕事を続けておられますよね? そのうえで自分の作品もつくり、教室も開催してとなると、休みは全くないのでは?

小林:今日はお店が休日なので、考えようによっては休みの日にあたりますが、そういう日に教室を開催しています。僕は飴細工づくりが大好きで、人に教えるのも好きだから、仕事をしているという感じはなくて、自分も楽しみながらやらせてもらってます。

⎯⎯⎯⎯ ご自身が楽しんでやっていることが収益にもつながるというのは、ある意味最高ですよね。

小林:その通りです(笑)。

小林さんは指導中、笑顔を絶やさないことが印象的だった

⎯⎯⎯⎯ 小林さんは「ワクワク賃貸」で「菓子工房」の空き待ち登録をしてくださったとき、私のほうから「菓子工房シェアはいかがですか?」とお薦めし、半ば口説くみたいなかたちで借りてもらうことになったのでしたね(笑)。
「wdsビル201号室」を利用する前は、どんな環境で飴細工をつくっておられましたか?

小林:賃借している自宅で主に制作をしていました。勤務先であるレストランの厨房で作業するときもありますが、終業後、いつまでも残っているとサービス残業になってしまうなどの問題が生じるので、不自由でした。

⎯⎯⎯⎯ でも飴細工作品をつくるだけなら、自宅で続けても良かったのでは?

小林:制作だけならそうかもしれませんが、僕は教室をやってみたかったんです。でも借りている部屋ではオーナーさんに許可してもらえませんでした。作品を人に見せることも自宅では難しいし、SNSなどで公開するにしても映える写真を撮れる環境にはなかったので、菓子工房が必要でした。

⎯⎯⎯⎯ 菓子工房シェアを始めてみて、それら「やりたくてもできなかったこと」は全部できましたか?

小林:はい、全部実現できました。一緒にシェアしている方もやさしくて、僕が教室をやりたい日は優先してくださって、とても助かりました。建築的にも素晴らしい部屋なので、飴細工作品が映える写真も撮れるようになりました。あと、制作道具をずっと置いたままにしておけるというのがありがたかったです。

バーナーを使って飴を溶かし接着作業を行っている風景

⎯⎯⎯⎯ ほかに良い点はありましたか?

小林:一番大きかったのは、菓子工房を持てたことで自前のサイトやロゴをつくることができ、自ら情報発信ができるようになったことです。
自宅でやっている分には趣味の延長みたいな印象を与えてしまいがちですが、菓子工房を持っていると本格的に取り組んでいることを外部に印象づけることができます。
その結果、新しいお仕事を次々といただけるようにもなりました。

⎯⎯⎯⎯ 「新しいお仕事」についてはのちほど詳しく伺いますが、先にひとつ確認させてください。
小林さんは当初、飴細工作品の販売もすると言われていました。作品とはいえ、食べられるものだから保健所の営業許可が必要で、そのために菓子工房が必要だと言っていましたが、販売のほうはいかがでしたか?

小林:販売はよく考えたうえで今は見送っています。たとえば小さな作品が1点5,000円ぐらいで売れたとしても、売る仕組みをつくったり、お客様とやりとりをしたり、発送したりと、販売のためにやらなければならないことがとても多く、5,000円では割に合いません。僕の今のネームバリューだと5,000円でも高いと思われてしまうかもしれず、値段を納得いただけたとしてもかなりの量を売らないといけないから、とても厳しい。
いつか1点数万円、数十万円で売れるようになりたいですが、今は時期尚早と考えやめました。

⎯⎯⎯⎯ とすると、保健所の許可は要らなかったのでは?

小林:はい。ですので保健所には申請もしませんでした。机上で考えているうちは、ここまで深く考えることがなかったのだけれど、菓子工房シェアをすることでたくさんの気づきや学びを得ることができました。
具体的に動いたからこそ得られた気づきで、それも僕にとって非常に大きなものでした。

菓子工房シェアから次のステージへ

小林さんの指導は生徒さんの感性・感覚を尊重されている

⎯⎯⎯⎯ 小林さんが「wdsビル201号室」を借りたのが去年(2023年)の10月でしたから、半年で巣立って行くということになります。こっそりお訊ねしますが、借り始めるときから半年ぐらいだと思っていましたか?

小林:オーナーさんには申し訳ないですが、半年から1年ぐらいで次のステップへ踏み出せたら、とは内心思っていました。

⎯⎯⎯⎯ 解約のご相談があったとき、正直、半年は少し早いなと思いましたが、ここを足掛かりにして羽ばたいていかれるのは、とても良いことだとも思っています。
自宅やシェアキッチンで菓子製造の商売を始め、手応えを掴んだ方が自前の菓子工房を持ちたいと考えられますが、たとえばこのスペースにしても一人で借りるとなると負担が重たい。でも菓子工房シェアとして借りるのであれば、利用料の負担は半分で済み、制作道具を置きっぱなしにしたり、24時間自由に使えたりというメリットも享受できる。何より菓子工房づくりに工事などの初期費用をかけずに済む。身軽にスタートできるのが菓子工房シェアの最大のメリットですから、もちろんここがフィットするという方にはずっと使っていただきたいけれど、小林さんのようにここから羽ばたいていく方が現れるのも嬉しいものです。

小林:そう言っていただけるとありがたいです。

⎯⎯⎯⎯ オーナーさんも「小林さんがもっとビッグネームになって、いつかどこかのインタビューで『振り返ってみればwdsビル201号室を利用できたことが自分にとっては大きかった』なんて答えてくれたら最高だなと言って笑っておられました。

小林:そう言えるようになるよう頑張ります(笑)。

完成後、講評をしている様子

⎯⎯⎯⎯ 先ほど話に出ました「新しい仕事」について、差し支えない範囲でよいので教えてもらえますか?

小林:大きなものとしては2つのお誘いをいただきました。
ひとつはパフェを中心としたカフェからのお話で、バフェを飴細工でデコレーションするのですが、そのデザインやスタッフへの技術指導の依頼がありました。
もうひとつは定期的に行われる飴細工教室の講師のお仕事です。
どちらの場所でも自分の作品をつくることはでき、販売をしないので、この菓子工房はなくても大丈夫になりました。

⎯⎯⎯⎯ それは大きな発展ですね。

小林:「wdsビル201号室」を、僕がやっていること、やれることを発信する基地にできたおかげで、こうした依頼を受けられるようになりました。このスペースとの出会いは自分にとって本当に貴重なものだったと感謝しています。

⎯⎯⎯⎯ 小林さんがこれから先、どこまで高く羽ばたいていかれるか、とても楽しみです。

小林:僕は32から33歳になる頃までに、自分のカフェを持ちたいという夢があります。今回、大きなお誘いを2つ頂戴しましたが、ほかにも著名な喫茶店でバリスタ修行をさせてもらえることになりました。
この世界にはすごい人がいっぱいいるので、ほかの人とは違う得意領域を持っていないと生き残っていけないことを自覚しています。
だから、ひとつひとつ、いただいた仕事を大事にしながら、自分自身をもっと成長させていきたいです。

⎯⎯⎯⎯ 小林さんの人生にとって、菓子工房シェアという自前の菓子工房の持ち方が大切な役割を果たせたのだとしたら、企画者としても大きな喜びです。小林さんがどのように成長していかれるか、これからも見守らせてもらいたいです。

「wdsビル201号室」の室内(新築時)

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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