《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.035

新築アトリエ賃貸「earthmore(アースモア)」完成のご報告とプロジェクトの総括

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2024年2月末に無事完成しました

企画の段階から情報をお届けしてきたアトリエ賃貸アパートメント「earthmore(アースモア)」が、2024年2月末に無事完成しました。
「武蔵野美術大学(東京都小平市)周辺エリアでアトリエ・工房付き賃貸マンションの新築プロジェクト開始!」というタイトルで最初の記事を配信したのが2022年8月4日で、企画自体はその数ヶ月前から始まっていましたから、その期間も合わせると約2年にわたるプロジェクトであっただけに、感慨深いものがあります。
今回は写真とともに建物の全容をご紹介し、入居者募集活動の結果もふまえて、このプロジェクトを総括したいと思います。
どうぞお付き合いください。

「earthmore」の全容

「earthmore」の外観(撮影:吉野匠)

2024年1月18日に配信した前回記事で、ほぼ完成した姿をご覧いただきましたが、その後、2月末にかけて外構工事を行いました。
まずは外構の完成形からお伝えします。

「earthmore」の表門(撮影:吉野匠)

「earthmore」は防犯性能を高めるため、周囲をフェンスや塀で囲い、エントランス扉にはオートロックを設置しました。

「earthmore」の駐車スペースと物置(撮影:吉野匠)

建物の北側には作品の搬入・搬出時に車を停めていただけるスペースを設け、その奥には物置を設置。物置の中には清掃用具等が入っていますが、入居される作家さん同士でシェアしたい道具なども入れていただけるようにする予定です。

「earthmore」のメールボックスと宅配ボックス

表門の側面にはメールボックスと宅配ボックスを設置しています。
宅配ボックスは全6室に対し4つ設けているので、空いていなくて困るという可能性は低いかと思います。

「earthmore」の裏門、駐輪場、ダストボックス

南側には各室1台ずつ自転車を駐輪いただけるスペース(ポート付き)とダストボックス、裏口扉を設置しました。
「earthmore」は武蔵野美術大学まで自転車なら4分で行くことができることがセールスポイントのひとつで、大学構内には世界堂もありますから、画材を購入するときなどは大変便利だと思います。

「earthmore」の共用階段(撮影:吉野匠)

表門から敷地に入ると、すぐに幅1.4mの共用階段が目に入ります。
階段の幅自体、普通のアパートに比べると1.5倍近くありますが、階段下のスペースにもたっぷりゆとりを設けているのも特徴のひとつです。
どちらも作品の搬入・搬出をしやすくするためのもので、利用され始めたら、その価値を実感していただけるはずです。

「earthmore」の1階共用廊下(撮影:吉野匠)

「earthmore」の2階共用廊下

共用廊下の幅も、1階は1.3mほど、2階は1.2mほどとたっぷりゆとりをもたせました。
200号サイズの絵画作品を部屋から搬出するテストも行い、結果は上々でした。

続いて室内をご案内します。
室内は過去記事で詳報していますが、今回は、私が美術作家さんたちをご案内したときに伺った意見や感想もまじえ、あらためてご紹介します。

「earthmore」の玄関扉(撮影:吉野匠)

ご案内時、玄関扉を見て、作家の皆様は一様にびっくりした声を出しておられました。
玄関扉は高さが2.8mあり、重さも100kgあることをお伝えすると、「美術館並みですね~」などと言って驚かれ、中には扉の前で記念撮影をされた方もいました。

「earthmore」101号室の室内(撮影:吉野匠)

室内の天井高は1階が3.2m、2階が3.3mあります。
部屋を見ながら「自分が小人になったような気分です」と言われた方がおられましたが、確かにその通りで、部屋を出て外を歩くと、今度は急に背が伸びたような気がしてきて、何度訪れても慣れることがありませんでした。

「earthmore」201号室の室内

南側壁面にはクロスの下に合板を張り合わせてあり、3cmの長さまでの釘を打っていただくことができます。
これはご契約後の話になりますが、契約開始早々、この壁面に有孔ボードを貼った作家さんがおられました。
クロスについては、南側壁面だけでなく、全ての面で原則原状回復不要としていますが、有孔ボードを貼った作家さんはクロスもお好みのカラーに貼り替えられ、制作環境づくりへのこだわりに感心させられました。

「earthmore」202号室の室内(撮影:吉野匠)

クロスのほか床のクッションフロアも汚損については原状回復不要となっていて、そのことを作家さんたちに伝えると、「そんな寛容な物件があるなんて信じられません」とおっしゃる方が多かったです。
中にはこれまで床を汚さないためにいかに工夫してきたかを熱弁される作家さんもいて、汚してもいいというのは賃貸物件として大きな武器になるのだなと再認識しました。

「earthmore」は全室に7段の脚立が備えられている(撮影:吉野匠)

天井にはライティングレールを四角く組んで設置しています。
ライティングレールは天井から少し離してあるので、作業道具などを引っ掛けておくこともできます。
「earthmore」は1・2階ともにシャッターがあって、昼間でも真っ暗な環境にすることができますが、「実際に暗くしてみてもらえますか?」と希望され、いろいろなライティングをイメージしていた作家さんもいました。

「earthmore」には全室200Vコンセントも設置されている

200Vコンセントが全室に備えられていて、陶芸用の電気釜も200V用のものを使うことができるのも特徴のひとつです。
それとは別に、エアコン用にも200Vコンセントが設けてあって、始動時大きな電力でスピーディーに冷やしたり暖かくしたりすることができます(エアコンは18畳用の規格です)。

「earthmore」の制作用シンク(撮影:吉野匠)

玄関脇には絵筆を洗うなど、制作時に使っていただくためのシンクを設けています。
「シンク横には照明もついているんですよ」と言って、実際に照明をつけてさしあげると、「この照明があるのとないのとでは、作業のしやすさが格段に違います」と喜んでくださった方がおられました。
2階の3室の制作用シンクはお湯も使えるので、さらに重宝されるのではと思います。

「earthmore」103号室の室内(撮影:吉野匠)

水回りの上部にはロフトスペースがあり、作品や制作道具などを保管するのに便利です。
「私だったらここで寝られます」と言われた女性作家さんがいて、実際に脚立でロフトに上り、寝転んでおられました。
「コンセントがあると便利でしたね」と感想を言われたので、「すぐそばまでライティングレールが来てますから、そこにコンセントをつけることもできますよ」と説明しましたら、「工夫の余地がいっぱいあって楽しいですね」という感想を述べてくださいました。
工夫の余地がまだまだたくさんあるというのは「earthmore」の隠れた長所なので、それは嬉しいお言葉でした。

「earthmore」のトイレとシャワーブース(撮影:吉野匠)

トイレの横にはシャワーブースを設けています。
浴槽はなくシャワーのみであることを伝えると、「近くに『テルメ』があるから、ゆっくりお風呂に入りたいときはそこに行けばいいんです」と教えてくださった作家さんがいました。
今回、内見された方の多くは武蔵野美術大学出身で、ご自身や同級生が近くに住んでいたという方が何人もおられ、私が逆に街情報を教えてもらえたのも楽しい経験でした。

作品保管サービス

武蔵通商株式会社の美術倉庫

「earthmore」はハードとしての仕様が優れているだけでなく、ソフト面のサービスも充実しています。
主だったところでは天井・壁のクロス、床のクッションフロアに関しては原状回復不要のほか、DIY可、作品保管サービスがあります。
作品保管サービスは、武蔵村山市にある武蔵通商株式会社の美術倉庫の1区画(床面3.3㎡✕高さ2.7mの空間)をオーナーが借り、入居者にシェアいただくというもので、入居者さんは無料で保管スペースを利用することができます。
ご契約くださった作家さんたちに、このサービスを利用されるかどうか確認しましたら、全員が近い将来利用することを希望され、中には「自分で数区画借りたいので武蔵通称さんにつないでほしい」と言われた方もおられました。
作品保管スペースまで考慮したアトリエ賃貸は、おそらく例がないと思われ、その点も評価いただけて嬉しかったです。

新規募集の結果

「earthmore」203号室の室内(撮影:吉野匠)

新築アトリエ賃貸「earthmore」はおかげさまで2024年2月末の完成までに全室入居申込みをいただくことができました。
申込みくださった方の属性は、服飾デザイナーの方が1人おられたほかは全員美術作家で、平面はお一人、あとは造形(インスタレーションや粘土塑像)作家さんでした。
ある部屋は3人の作家さんがシェア利用されることになり、その場合のルールなどを一緒に話し合って決めました。
「ワクワク賃貸」の読者の方は14人内見され、ほぼ全てを私がご案内し、現在の制作環境やアトリエに求めるものなど生の声をお聞きすることができたのも、今後のアトリエ賃貸づくりにおいて有益でした。
ご内見後、申込みに至らなかった理由としては、「広さが足りない」ことを挙げられた方が複数おられ、さらに突っ込んでお訊ねすると、「梱包作業をすることも考えると、もう少しスペースが必要」「現在使っているベッドや家具などを持ち込むには相当断捨離しないといけない」などと答えてくださいました。
部屋を広くすると家賃がその分高くなっていくので、その点は痛し痒しで、「今よりもっと売れっ子になったら2~3室まとめてお借りしたいです」と言って今回は断念された作家さんもいらっしゃいました。
その作家さんは内見も2度お越しになり、作家仲間にも「earthmore」を紹介くださるなど、とても気に入ってくださっていたのは明らかだったので、惜しい縁を逃してしまったと残念に思いました。
内見後、イエスもノーも言ってこられず非常に残念に感じた作家さんもいましたが、ノーという結果であってもその理由や想いを綴ったメールをくださったり、手土産を持ってきてくださった方もおられ、お一人お一人のことが強く心に残っています。

「earthmore」新築プロジェクトの総括

「earthmore」の外観(撮影:吉野匠)

「アトリエ賃貸推進プロジェクト」はアトリエ賃貸を日本中に増やしていくことを目的に続けてきましたが、今回「earthmore」のプロデュースに携わらせてもらい、天井の高いアパート、マンションをつくるのは本当に大変だということを実感しました。
今回のオーナーさんはご所有の土地に建てられ、ご自身が不動産の建築部門に勤務されていて建築に精通しているので資金面や技術面で優位性がありましたが、この2つのどちらかが欠けていても「earthmore」は誕生しなかったと思います。そしてこの2つが揃うことはそうそうあることではありません。
一方、天井の高いアトリエを求めているというメッセージを添えて空き待ち登録をしてこられた方々には、積極的に「earthmore」を推薦しましたが、希望のエリア外であることなどを理由に内見に至らないケースが多く、「ほかに天井の高い物件があれば」と言われるたびに「それはきっと無理だなあ」と感じていました。率直な物言いになりますが、ご希望のエリア、広さ、家賃で天井の高いアトリエ賃貸を求めても、出会える可能性はかなり低いはずです。
それならアトリエに天井の高さを求める場合はどうしたらいいかと考えると、ガレージや倉庫、工場跡などのような場所を選ぶことになっていき、そこが温度や湿度など環境面でよいかというと、やはり微妙・・・。つまり、天井が高く、温湿度の環境にも優れたアトリエをつくるのは本当に難しいということを再認識させられました。
だからと言って諦めるわけではもちろんありません。これからも天井の高いアトリエづくりに取り組んでいきますが、「earthmore」の稀少性はかなりの年月、損なわれることがないはずなので、空き待ち登録をしてくださればと思います。

「earthmore」の館銘表示(撮影:吉野匠)

当新築プロジェクトのこれまでの過程については下記記事をご参照ください。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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