《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.034

「空き家アトリエプロジェクト」の始動報告と第一号案件(東京都豊島区上池袋の戸建て物件)のご紹介

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使われていない空き家をアトリエ賃貸化していきます

第一号案件の1階リビングダイニング。長年大切に使われており、清潔感があります

アトリエ兼住居(=アトリエ賃貸)を日本中に増やすことを目的に行っている「アトリエ賃貸推進プロジェクト」は、連載を開始して間もなく3年になろうとしています。
連載をご覧になって「アトリエ賃貸」に空き待ち登録をしてくださった作家さんも着々と増え続け、304名にのぼります(2024年3月26日時点)。
また、この連載を読まれた小平市の地主さんがアトリエ賃貸物件を新築してくださったり、ご自身も美術作家である不動産オーナーさんが築古のアパートをリノベーションしてくださるなど、成果も少しずつですが表れてきています。
そして4年目を迎えるにあたり、「DIY賃貸推進プロジェクト」の連載を担当いただいている株式会社ハウスメイトマネジメント・伊部尚子さんからのお声がけがあり、「空き家アトリエプロジェクト」という企画をスタートする運びとなりました。
新企画は「立地条件に恵まれているにもかかわらず諸事情あって使われていない空き家を、アトリエとして貸し出していく」というプロジェクトで、池袋モンパルナス回遊美術館さんも加わってくださることになりました。
今回はまず「空き家アトリエプロジェクト」の概要からお伝えしたいと思います。

「空き家アトリエプロジェクト」の取り組み

第一号案件の2階の一部屋。窓の前は広く見渡せ、隣地の緑が借景できます

「空き家アトリエプロジェクト」で主な対象となる空き家は、ご両親などから相続されたけれど、すでに自宅は持っているなどの事情で今は使われていない家です。
使わないのであれば売却してしまえばいいと思われるかもしれませんが、再建築ができない(=なかなか売れない)不動産であったり、思い出が詰まっていてすぐに人手に渡したくないなどの理由で、売却をためらう所有者さんは少なくありません。
そのまま空けておくのはもったいないから賃貸物件にしようと考える方も多いのですが、ご両親が残された家具や家財を整理・処分するのは相当大変で、またリフォームをしないと借り手がつかない(でもリフォームには多額のお金がかかる)と考え、何も動き出せないまま数年経過してしまうということは、本当によくあることです。

そこで私たちプロジェクトチームは、所有者さんたちが空き家を賃貸するにあたり困っていることを、賃貸管理のプロの知識と経験を活かし、美術分野の専門家たちのお知恵を借りて、アトリエとして割安で貸し出すのであれば多くが解決可能ではないかと考えました。

以下は私たちが考えたことの要点です。

❶残された家具・家財については、借り手である作家さんに使えるものは使ってもらい、処分する場合はその作業を委ねたらよいのではないだろうか。
処分には費用や労力がかかるので、その分は一定期間フリーレントにしていただく。そうすれば費用負担はなくなるし、若くて体力のある作家さんたちは片付けながら改修プランをじっくり練ることができる。
自分たちで片付けするのが難しい所有者さんたちは大いに助かるに違いない。

❷リフォームやハウスクリーニングは水回りや電気、ガス、水道等のライフラインなど最小限に留め、その代わり室内は「原則原状回復なし」とし、制作活動で塗料が垂れたり傷が付いたりしてもOKとしたらいいのではないか。
改装も建築法規に違反しない限り自由にやってよいことにすれば、作家さんたちが使いやすい制作環境をつくり出せるように思う。
もし雨漏りなどが発生し、修繕に多額の費用がかかってしまう場合は、家賃を減額することで妥協していただけないか相談し、難しい場合は契約を終了できる特約を結んでおけば、貸主・借主間の妥協点は見出だせる可能性が高い。

❸5年間程度の定期借家契約とすれば、将来売約や建て替えするかも、と考えていても安心していただけるのではないだろうか。
5年経ってもまだ売却や建て替えの計画がなければ、1年刻みぐらいで再契約をすればよい。
あまり短い期間だと、作家さんにとっては手間ばかりが目立ってしまうが、5年以上借りられるのであれば、立地の良さ、家賃のやすさでバランスが取れるので借りたいという方は現れるはず。

❹「ワクワク賃貸」で「アトリエ賃貸」や「菓子工房」などに空き待ち登録をしてくださっている方々に、空き家の情報を投げかけ、状況に応じて「ワクワク賃貸」で記事にするなどして募集情報をお伝えする。「借りたい!」と立候補くださる方が現れれば話を進め、いなければそこで話を止めることで、募集費用もかけなくて済むようにするといいのではないか?
借りたい人がいるかどうかわからないまま、リフォームしたり荷物を片付けたりしなくて済むようにして、所有者さんの不安を和らげてさしあげたい。

主にこの4点が所有者さんにとってのメリットとなり、空き家を賃貸しない理由の多くはこれで解消できるのではないかと考えました。

作家さんにとってのメリット・デメリット

第一号案件の2階の一部屋。まだまだ使えそうなしっかりしたデスクがありました

次に「空き家アトリエプロジェクト」で募集された空き家を使われる作家さんにとってのメリット・デメリットも考えてみました。

[作家さんにとってのメリット]

❶好立地で広い物件を割安(ときには格安)で借りられる。
❷原状回復を気にせず、かなり自由に使うことができる。
❸シェアアトリエやルームシェアとして、作家仲間と共同で借りることも交渉しやすい(※プロジェクトチームが間に入り、一緒に交渉します)。

[作家さんにとってのデメリット]

❶建物が古いので、寒かったり、建付けが悪かったりなどを許容する必要がある。
❷自身が使わない家具・家財を処分するのを手伝うのには、時間も労力もかかる。
❸定期借家契約の期間が満了したら退去しなければならない(※前述の通り再契約できる可能性もあります)。
❹雨漏りなどが発生しても、所有者さん負担で修繕してもらえない(※ライフライン以外で過分な修繕費用が掛かるものは所有者さんでは修繕せず、作家さん側でも修理が難しい場合は、家賃の減額で調整してもらえます。もちろん契約終了も可能です)。

これらをふまえて、「空き家アトリエプロジェクト」の第一号案件として取り組むことにした物件をご紹介します。

第一号案件「弥生荘プロジェクト」

第一号案件の外観。玄関に通じる細い路地には懐かしい雰囲気があります

「空き家アトリエプロジェクト」の第一号案件は、東京都豊島区上池袋にある昭和33年築の戸建てで、豊島区役所の空き家セミナーを通してご相談をいただきました。
JR山手線「池袋」駅から徒歩16分、東武東上線「北池袋」駅から徒歩9分という好立地で、専有面積は76.86㎡プラスα(※プラスαの理由は後述します)です。

第一号案件・1階の間取図

第一号案件・2階の半分の間取図

建物は奥様のお祖父様が学生用の貸し間として建てられました(当時は「弥生荘」という名称でした)。
その後1階のみ所有者夫妻が住むために改修工事を行ったそうです。
今回の記事に掲載している写真はすべて弥生荘の今の姿で、間取図は一級建築士であられるご主人が描いてくださいました。
所有者さんが電気と水道を契約し続け、たまに出入りされていたので、こういう類の空き家の中では室内の状態はとても良いです。

第一号案件・1階のダイニングキッチン。かわいい食器棚がありました

第一号案件・2階のキッチンとシャワーブース。奥に見える洗濯機の前にトイレがあります

1階と2階にキッチンとトイレがそれぞれありますが、浴室はなくシャワーブースが2階に1箇所あります。

第一号案件・1階の居室。窓は二か所あります

第一号案件・1階の居室と居室をつなぐ本棚。左に見えるのは貸し間時代の小さな水場です

押入れと本棚を撤去すると、もうひとつの居室とつなげて広く使うことができます

押入れを壊して部屋を繋げるなどの広範囲なDIYが可能で、原状回復も不要。
先述しましたが、ご主人が一級建築士さんでいらっしゃるので、ご希望の改修が建物構造上、問題がないかなど、相談に乗っていただけます。

不動産所有者さんが自作された階段梯子。ワクワクポイントです

そして、取材時にとてもユニークだと思ったのは、こちらの梯子階段です。

階段梯子を登る伊部尚子さん。梯子階段はかなり登りやすく、さながら忍者屋敷のよう!

この建物には2階に上がるための外階段がありますが、「弥生荘」としての賃貸経営をやめられたあと、所有者さんが家の中からも2階に登れるよう、地元に当時あった銭湯から廃材をもらってこの梯子階段を自作されました。
素敵なDIY精神です(笑)。

階段梯子を登った先にある2階の一部屋。今は所有者さんの物置部屋になっています

梯子階段を登った先には、先に掲載した2階の間取図で「物置202号室」と書いてあるスペースがあります。
ここ(202号室)には2つの部屋があり、梯子階段を登ると奥の1部屋につながっていて、所有者さんはその部屋に着物等を保管されています。
お借りくださる作家さんが「梯子階段を使いたい!」と要望されたら、もう1つの部屋のほうに保管スペースを移し、作家さん側で壁をつくって封鎖していただければ、提供することも可能とのこと。それが先ほど“プラスα”といった部分のことです。

第一号案件の入り口手前のスペース。ここまで車で入れます

また、作家さんにとっては作品の搬入搬出の際に、車が止められるかどうかも重要だと思いますが、こちらの建物は玄関へと続く路地の手前部分に普段使われていないスペースがあるため、「一時的に駐車する分には構いませんよ」との嬉しい言葉を所有者夫妻からいただいております。

第一号案件の2階の一部屋。腰窓の近くでずっと外を見たくなる気持ちの良い空間です

お家賃は10万円以上を貸主さんが希望されています。立地と面積を考えるとかなり安いです。
作家仲間とシェア利用したいというご相談も受け付けることができますので、たとえば2人で借りたら1人あたりの家賃は5万円程度となります。

このお家賃であれば、借りたい方が複数おられると思われるので、2024年4月いっぱいぐらいまで利用希望者さんを募り、実際に現地を見ながら貸主さんや私たちと面談し、借主さんを決めさせてもらいたいと思っています。

なお、閑静な住宅街のため、大きな音が伴う制作活動はNGです。
同様の理由で不特定多数の方が訪れるギャラリーや店舗としてのご利用もお断りしています。

ご主人が描かれた絵が飾られていました

上の写真はご主人が描かれた絵画です。
ご主人は建築士としてのお仕事のかたわら、趣味として絵も描いてこられたそうですが、お会いしてみて、私は「空き家アトリエプロジェクト」の第一号案件の貸主さんとして、まさにピッタリの方と引き合わせていただけたと、少し感動してしまいました。
所有者さんご自身が作家さんの活動に理解があり、リスペクトしてくださるというのが一番です。

第一号案件の玄関。上部の白い漆喰の鴨居に、思い出の桃の木があしらわれています

先にも申し上げた通り基本的に改装自由なのですが、借りて下さる作家さんに、奥様から一つだけお願いがあります。
玄関の鴨居部分に使用してある桃の木は今は亡きお祖父様が植えたもので、弥生荘を建てる時に切らねばならなくなり、少しでも残そうと利用したものだそう。思い出があるので、この桃の木の部分は残していただきたいそうです。
所有者夫妻は、若い作家さんと交流できるのを楽しみにしているご様子でした。

以上が第一号案件「弥生荘プロジェクト」の概要となります。
豊島区役所の住宅課の方にお聞きしたところ、こういう状態の空き家の相談はときどきあるとのことで、私たちが知らないだけで、まちにはお宝物件が空き家となって眠っているのだと思います。
そのため「空き家アトリエプロジェクト」の成功事例を積み重ねていければ、行政の相談窓口の方や空き家所有者の方の目に留まる機会も増え、豊島区以外にもこの輪は広がっていくはず!
今後の拡大が見込まれるプロジェクトを私の会社のような小さな所帯だけで行うのでは、あまりたくさんの活動はできませんが、ハウスメイトマネジメントの伊部さんが一緒にやってくださり、池袋モンパルナス回遊美術館さんも応援してくださるのであれば百人力です。
そのためにも、この第一号案件を成功させたいと思いますので、この記事を読まれた方は是非入居をご検討いただきたいですし、もしご自身が無理であれば作家仲間さんに知らせてほしいです。
どうぞご協力をお願いします。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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