《 DIY賃貸推進プロジェクト 》Vol.004

築古リノベ専門大家さんに、古めの物件を素敵にDIYするコツを教わろう!

投稿日:2019年11月28日 更新日:

古い物件を素敵に、しかも安価に蘇らせる達人がいた!

DIYができる賃貸住宅を増やす目的で連載している「DIY賃貸推進プロジェクト」。第4回は築年数の古い賃貸住宅をセンス良くDIYするコツについて、築古物件を素敵に変身させる名人である、鈴木柄美=通称「カティ」さんに学びたいと思います。
カティさんはご夫婦ともにリフォーム会社での勤務経験があり、それを生かしてご自宅や所有されている賃貸物件を大変身させてしまう大家さんです。設計施工の知識やセンスだけでなくDIYの腕も併せ持っているカティさんが手掛けた、その名も「トウフハウス」を見学させて頂きながら、私たちでもまね出来そうなDIYのコツについてお聞きしてきました。

トウフハウスの入り口。 特注だという素焼きの表札がとてもかわいいです。

トウフハウスには、センスの良いDIYのヒントがいっぱい!

私たち賃貸住宅の管理会社の大きな悩みのひとつに、築年数が古くなった物件の空室問題があります。なるべく素敵にリフォームしたいのですが、あれもこれも新品に交換していては大家さんの予算がいくらあっても足りません。仕方がないので一番傷んでいる部分だけを新しくすると、今度は今まで気にならなかった他の部分の古さが目立ってしまいます。予算にも限りがある中で、全体の雰囲気をおかしくないようにまとめるのにいつも試行錯誤していました。
そんな中、カティさんが築43年の一戸建てを素敵にリノベーションされたという噂を聞きつけ、リフォーム提案のヒントを探せるに違いないと思って、さっそくトウフハウスの見学に伺ったのです。すると、そこに広がっていたのは、古いけれど清潔な、そしてあちこち懐かしく、そしてかわいい空間!! 仕事を忘れてすっかり夢中になり、隅々まで見せていただき、気になる部分についてカティさんを質問攻めにしてしまいました。そして、私たち管理会社だけでなく、賃貸住宅をDIYしたい人たちにもとても役に立つと思われることをたくさん教えていただけたので、ここでご紹介したいと思います。

壁だった部分を開口して滑り出し窓を作成、奥にはキッチン。 利用した建具は、もともとは古い引き戸だそうで、工夫が光ります。

大切なのは、既存の雰囲気に合う素材の探し方

カティさんはその経歴からもおわかりの通り設計のプロ、そして大家さんなので、「賃貸住宅を借りてDIYしよう!」という読者の皆さんとはもちろん立場が違います。そんなカティさんに今回学びたいのは、DIYで手を入れた部分がちぐはぐにならないよう、既存の状態を生かしつつ、安価にセンス良くDIYするための考え方です。
DIY可能で入居募集している賃貸住宅は、どうしても築年数が古いものが多くなりますが、そのままでレトロかわいかったり、古カッコ良かったりという状況ではもちろんありません。その状態からコストも手間も最小限で、なるべく理想の空間へと近づけたいところです。カティさんにお話を伺ったら、そのコツはどうやら、DIYに使う素材の選び方、探し方にありそうなことがわかりました。
たとえばこのダイニングの市松模様のフローリング、私は一目見て、「築43年なのに、床がとてもきれいですね!」と言ってしまいました。それに対するカティさんの答えは…

「これ、新品なんですよ」
えええー!!ビックリです!!もともとここは畳で、部屋の使い勝手上、フローリングに変更しましたが、普通のフローリングにしてしまうと、構造材の柱が見える日本古来の真壁とも合わなくなり、キッチンや奥の和室とのつながりにも違和感が出てしまいます。カティさんは、空間全体の調和を考えて、もともとのいかにも昭和な床に近いものを選ばれたそうです。私たち管理会社が築古物件をリフォームするときにも、お金がかかり過ぎないように残せるところはなるべく残すのが鉄則なのですが、カティさんと同じアイデアがとても浮かびません。その意外過ぎる解決方法に感心してしまいました。
この昔懐かしいフローリングはどうやったら手に入るのかお聞きしたら、インターネットで検索して探されたのだそうです。この床は小市松というそうで、私も試しに「小市松 フローリング」で検索してみたら、楽天市場がヒットしました。カティさん曰く「いろいろ探せば安くても質感の良いものは見つかりますよ」とのことでした。小市松フローリングはこの空間にしっくりとなじみ、日本建築の白壁と柱のコントラストの美しさを引き立たせています。

和室の窓際に残る、43年前からの小市松フローリング。 こちらはあめ色に変化して傷もありましたが、さらっとニスを塗って艶を出し、それが味になっています。

キッチンの床は、ビニル製の織物床シート「ボロン」を使用されたそうです。水にも強く、水回りにも使えます。いろんな色柄がありデザイン性も高く、50センチ角のものを貼る向きを変えながら施工すると琉球畳のようになります。トウフハウスでは、キッチンだけでなく2階の和室にも使われていました。50センチ角タイプはDIYでもじゅうぶん施工できるそうです。

2階の和室のボロンと、カティさん。 お着物姿からもそのセンスの良さが伺えます。

カティさんのお宅にはモフモフの大きなワンちゃんがいるのですが、ご自宅の床にもボロンを使われているそう。傷や汚れにも強いこの床は、ペットや小さなお子さんのいるお家にも向きそうですね。正直、価格は高いですがメンテナンスフリーに近いので、長い目で見ればお得だと考えているとのこと。ちなみに、ボロンと同じような床材で、もう少し安いものがサンゲツからもココフロアという名前で出ているそうです。気に入る色があったらそちらでもよいですね。

キッチン床の「ボロン」は、水にも汚れに強くてデザイン性・質感も〇。 スーパー銭湯の脱衣所の床に使われていそうな素材感です。

古い建物に似合うタイル、そしてアメリカンスイッチ

カティさんといえば、実はタイル愛で有名な大家さん。トウフハウスにも、全てご主人とコツコツDIYで貼ったタイル、タイル、ここにもあそこにもタイル!古い建物にはタイルがとても似合うんです。 使われているスイッチやコンセントにも、カティさんのこだわりを感じました。古い建物に合うように、アメリカンスイッチを選んだのだそうです。ひとつずつご紹介していきますね。

まず玄関の近くにある洗面台には、緑のタイルが2種類貼り分けてあり、レトロかわいいコンセントやスイッチが。

洗面台も大家さんのこだわりで、陶器の脚がついたペデスタルシンクを採用。 タイルに似合います。蛇口はIKEA製だそう。

浴室の前にも洗面台があり、こちらはとてもかわいい丸いタイル。コンセントは玄関とは色違い。そしてその上のスイッチは、見たことのない丸い形です。お話を聞いたら、ネットショップで見つけて高価だけど一目惚れしてしまったそう。ポチポチと押す感触も楽しいスイッチです。

こちらの洗面台は、丸モチーフで統一されたそう。 2カ所ある洗面台の鏡は、ご友人から頂いたり残置物を再利用されたとのこと。

浴室を見てみたら、なんとステンレス浴槽にまでタイルが貼ってありました。「浴槽にタイルなんて貼れるんですか?」とお聞きしたら、そこには大いなるDIYチャレンジストーリーがありました。
もともとステンレス浴槽の塗装が剥げていたので何かしなければならず、塗装も検討しましたが、床や壁のタイルの雰囲気に合わせてタイルを貼ろうと思い立ったのだそう。ここからがカティさんのすごいところで、ステンレス浴室にタイルを貼ったことのある人を探すためにネット検索をしまくり、見事ブログを発見! 次に接着剤メーカーのQ&Aから施工に向いている接着剤も見つけてネットショップで購入。タイルコレクションの中から曲面にも貼りやすい丸型のタイルを選び、ご自分たちでDIY施工されたのだそうです。長年管理会社勤務をしている身でもステンレス浴槽にタイルが貼ってあるのは初めて見ましたが、本当に可愛く仕上がっていて、大家さんの建物愛を感じました。

浴槽のエプロンにDIYでタイルが貼れるとは! 古いステンレス浴槽をかわいくしたい人に朗報ですね。

そして、私が一番気に入ったキッチン(トップ画像)にもDIYでタイルが貼ってありました。同じ白でも、何種類ものタイルが貼り分けてあって本当に素敵に見えたのですが、実情は、白タイルの在庫が増えてしまい、ここで一気に消費したかったそうです。タカラスタンダード製のホーローのキッチンとパナソニック製のシンプルなレンジフードの組み合わせにもぴったりで、タイルの壁に付いている白い陶器のアメリカンスイッチもその雰囲気を盛り上げています。そして、シンクの前には和室に通じる滑り出し窓があり、ダイニング側の壁も窓状に抜いてあるので、壁付けキッチンとは思えない開放感! ここなら料理も楽しいでしょうね。

水仕事をしながら家族と話ができるキッチン。

名人に聞く!古い家をDIYするときのコツ

カティさんに古い住宅のDIYのコツをお聞きしたところ、やるところとやらないところのメリハリをつけるのがお勧めとのこと。
たとえば2階の和室は、一部屋は畳を前出のボロンで琉球畳風にし、もう一部屋は表替えのみ。そして襖を貼り替えしていますが、壁は全く手をつけずに傷や汚れもそのままにしているそう。確かに良く見れば傷などがあるのですが、畳の清潔感と襖の白さに目が行き、壁は気になりません。

カティさん曰く、古い建物には真っ白で清潔感を出すと良いそう。 間仕切りとなる襖は太鼓張りを採用し、縁が見えないので襖の白が際立ちます。

そして、もうひとつ教えていただいたコツは、部材を探す手間は惜しまないこと。たとえば、玄関ホールからダイニングへの引き戸。ここは光や空間の繋がりを遮断させないようガラス入り引き戸にしたかったので、既存の襖は処分して建具屋さんに新しく作ってもらったそうなのですが、まるで最初からあったかのように周囲に溶け込んでいます。その理由は、壁と色柄が似ている木目プリント板を探してメーカーから見本を何枚も取り寄せ、現場で比較して選ばれたからだそう。そこまで手間をかけたからこそ見た目に違和感がなく、かわいい模様のガラスにまっすぐ視線が行くのですね。ちなみにガラスも、この家の押入れから出てきた残置物を活用しているとのことです。ずっと眠っていたガラスも息を吹き返し、来客を出迎えてくれる大切なアイテムになりました。

後から合わせたと思えない、壁とそっくりな色味の引き戸の木目。

カティさんは日常でもご夫婦でDIYを楽しまれている大家さんなので、入居者さんの DIYにも寛大です。「基本的にはどんなDIYでも相談に乗りますし、工具もお貸します。作業のお手伝いだってしますよ」とのこと。もし入居者さんが柱をショッキングピンクに塗りたいなどと言ったらどうするのかと、意地悪な質問をした私に対して「退去後に自分たちで白などに塗れば良いだけだから。でも、ここを選ぶ入居者さんは大家の私とも感性が合うはずですし、良識を持ち合わせているだろうと、心配していませんよ。むしろ、どうアレンジしてくれるのかワクワクします!」と優しい笑顔で答えてくださいました。
賃貸住宅でDIYをしてみたい方は、カティさんのような「入居者を信用してくれて、DIYに理解のある大家さん」を探すのが近道かもしれませんよ。

最後に、気になるトウフハウスのネーミングの由来をお聞きしてみました。
「東京都のトに、調布(ちょうふ)のウフをくっ付けてトウフ。昭和の香りもしつつ、クセのない味で身体に良い食べ物、白の清潔感などを連想させるので付けました。玉川学園の戸建て賃貸はタマゴハウスにしたので、似通った雰囲気にしたくて。陶器の表札もお揃いなんです」
カティさんご夫妻の愛情がいっぱい詰まったトウフハウスが、入居者さんの手によって今後どう成長していくのか楽しみです。

文:伊部尚子

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伊部 尚子

独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。好きな工具はBOSCHのコードレス電動ドライバー。DIYアドバイザー、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP®

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