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ワン!アンド・オンリーな犬型ホテル<ドッグバークパーク・イン> 〜アイダホ州(アメリカ)〜

投稿日:2019年9月19日 更新日:

彼の名はスイート・ウィリー。
愛くるしい垂れ耳に、元気よく跳ね上がる尾っぽ。ビーグル犬特有の白・黒・茶のボディに赤い首輪がかけられている。アメリカ北西部、アイダホ州の牧歌的な風景の中に突如現れるウィリーは、巨大なアート作品と思いきや、すでに15年以上営業を続けている宿泊施設だと言う。今回はこの唯一無二の犬型ホテル、「ドッグバークパーク・イン」をご紹介しよう。

アイダホ州・コットンウッドは、住民が1000人を下回る小さな町。ウィリーが立つドッグバークパークは、コットンウッドのランドマーク的存在として長年愛されてきた。その歴史は、ウィリーを制作・建築したオーナー夫妻、デニスとフランシスの人生の物語そのものとも言える。

夫のデニスは、もともと住宅デザインの仕事をしていたが、40代半ばに差し掛かる1990年頃、アーティストとしての夢を追う決心をする。手始めに飼い犬と森に行き、チェーンソーを使って松の切り株を持ち帰った。試行錯誤の末に完成したのは、犬の彫刻作品。デニスはこれらを販売するため、クラフトショーに赴いた。この時、手縫いの洋服を売っていたフランシスと出会い、ここから夫婦の物語が始まる。

1995年、デニスはそれまで細々と販売していた木彫りの犬をテレビショッピングのQVCで紹介する機会を得る。勝算はなかったが、ビーグル、シェパード、ラブラドールなど、あらゆる犬種の彫刻を制作し、放映日に備えた。フランシスは犬たちに塗料を塗り、箱詰めし、QVCの倉庫に送るという作業を繰り返した。そしていよいよ初めての放映日。なんと、たったの45秒で全商品が完売したのだ。

「犬をつくる」という作業は、ここからどんどんと膨らんでいく。大ヒットした手のひらサイズの犬の置物は、まずは大型のオブジェヘと展開された。デニスは木材、スチール、漆喰で4メートル弱の犬を制作。二人はこの犬をトビーと名付け、コットンウッドの小丘に置くことを決めた。QVCのビジネスで得た資金で土地を購入し、ここに彫刻の制作スタジオを自分たちで建設したのだ。

右が最初にできた野外オブジェのトビー。左がのちにホテルとして建設されたスイート・ウィリー。

スタジオの傍に置かれたトビーは人目を引き、次第にメディアも取材に訪れた。全国紙に写真が掲載されると、今度は観光バスがトビー目当てのツアーを組むようになる。そこで、夫妻はここを「ドッグバークパーク」と呼び、スタジオを開放することにした。

「私たちの芸術家としての生活と、夫婦で歩んできた人生が一つの物語として語れるものだということに気づいたんです。トビーという愛を込めて作った犬がその結晶だったのです」と、フランシスは回想する。

そして1998年、夫妻はトビーより大きな犬の制作を思いつく。どうせ作るなら人が入れるような大きさに、できれば朝食つきの宿泊施設・B&B(ベッド&ブレックファースト)にしようと、計画を練った。

2代目トビーは、スイート・ウィリーと名付けられた。
デニスは注文がひっきりなしに入る彫刻の制作とは違い、気が向いた日にだけ建設に励んだ。「壮大で滑稽な試み」——ウィリーの足元には、こんな手製の看板が建てられた。こうしてデニスは4年の歳月をかけ、誰も見たことがない、犬をかたどったホテルを完成させたのだ。

ところで、何かをかたどった建築物は、ミメティック(擬態)建築と呼ばれる。アメリカでは、宣伝効果を狙った企業ビルや、国道沿いのレストランが1920年代以降にこうした手法で建てられるようになったそう。たとえば、オハイオの籠製造会社・ロンガバーガーの本社ビルはバスケットの形をしているし、カンザス私立図書館は巨大な本棚の形を模している。日本では、泡の溢れるビールジョッキをイメージしたアサヒビールタワーが有名だろう。ドッグバークパーク・インはミメティック建築の好例として、ワイドショーから建築雑誌まで多くのメディアに取り上げられている。

ではここで、犬型ホテルの詳細を見ていこう。
スイート・ウィリーは、高さ9メートル、長さ10メートル。首と頭部分は片持ち梁の構造で、頭のてっぺんと後ろはアスファルト屋根になっている。耳はカーペット素材で、片方で45キロの重さ。建物全体に漆喰の二度塗りが施されているが、すべてデニスがコテを使って塗ったというから驚きだ。

外階段から二階部分に上がると、ちょうどウィリーの胴体部分に入るようなかたちになる。メインルームにクイーンサイズベッドが一つ(これが最高に気持ちがいいとの口コミが多数!)。ロフト部分にはツインマットレスが二組置かれている。

内装は温かみのあるローズ色で統一され、シックなカントリー調。もちろん併設するギフトショップでは、デニスとフランシスの原点とも言える犬の彫刻作品が多数販売されている。

ドッグバークパーク・インは、2018年に世界最大の旅行口コミサイト、トリップアドバイザーで「世界の風変わりなホテル・ベスト10」の一つに選ばれている。大半の宿泊客は物珍しさでここを訪れるが、注目すべきはホテルとしての総合評価も非常に高いということ。

クッション、ベッドヘッド、クッキーにいたるまで徹底して犬のモチーフであることや、フランシス自慢の黒砂糖のマフィンがいただけるなど、細やかな仕掛けとサービスが宿泊客を魅了しているようだ。「王道のアメリカのB&B体験」を求めて、世界中からさまざまなゲストが訪れているという。

「スイート・ウィリーの祈り あなたをここに導いた道のり、そしてこの先に求める道のりが 尾っぽを振りたくなるようなたくさんの物語に満ち溢れますように」

フランシスは語る。「私たちはこれまでいくつもの新しいアイディアに出会い、その都度クリエイティブに考え、表現をしてきました。美しいアイダホで心の赴くままに生きること。それが私たちの存在意義なのです。Life is sweet(人生は甘美なもの)。そして、気高くあるべきものです。私たちの場合、それはかなり風変わりなものでもありますけどね。」

甘く、気高く、風変わり。それはアイダホの草原にしっかと立つ、愛らしいスイート・ウィリーの姿そのものである。

写真/all sources courtesy of Dennis J. Sullivan and Frances Conklin 

ドッグバークパーク・インのサイトはこちらから

取材・文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

  • この記事を書いた人

河野 晴子(こうの・はるこ)

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文に『ジャン=ミシェル・バスキア ザ・ノートブックス』(フジテレビジョン/ブルーシープ、2019年)、『バスキアイズムズ』(美術出版社、2019年)、エイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。

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